その日の夜はやけに暑くて外の空気を吸いに夜の外を出掛けていた。帰り道いつもの通りにある公園を見てみるとベンチに腰掛けている人の姿が見える。暗くてよく見えないが。この時間に居るとか珍しい。
「っ、痛ぇな」
聞こえてきた一言に見過ごすのも心苦しくなり
真っ直ぐ家に帰るつもりだったが声が聞こえてきたベンチに足を運ばせる。
なんとなくその声に聞き覚えがある気がする。
「………三ツ谷、くん?」
「……え、みょうじさん?」
「え、うそ、顔大丈夫?!待っててハンカチ濡らしてくる」
「いやいいって……!!」
慌てて公園にある水道に向かうと持っていたハンカチを濡らす。後ろからは三ツ谷くんの声が聞こえるがそんなのお構い無しだ。それもそのはず、今の彼は頬から血が流れており只事ではないと私は感じた。濡れたハンカチを絞り三ツ谷くんの元に行くと「ごめんね」と声をかけ染みるであろう頬に優しくハンカチを添えた。
「っ!」
「……痛いよね」
「いや、大丈夫。それよりハンカチごめんな」
「そんなのいいよ…!それより、その、喧嘩してきたの?」
「……まぁな」
三ツ谷くんが不良で喧嘩しているのはよく話を聞くことだ。ただ、その場で彼が傷ついた姿は初めてでつい私も動揺してしまう。
「みょうじさんこそなんでこんな夜中に」
「あー…私?なんとなくコンビニ寄ろうかなって…」
「女の子がこんな時間に彷徨いてたら危ねぇだろ」
「……三ツ谷くんこそこんな時間まで外にいたらダメでしょ」
「俺はいーんだよ」
「なにそれ」
「みょうじさんは女の子だろ。もう少し危機感持ちなよ」
「私なら大丈夫だよ」
「……」
「三ツ谷くん?」
「……こうされたら逃げれるわけ?」
彼の手が私の両腕を掴み身動きが取れなくなる。持っていたハンカチはベンチに落ち、ただ三ツ谷くんの真剣な眼差しが私の視線と交わる。吸い込まれそうな綺麗な瞳に顔を逸らせないでいると気のせいか三ツ谷くんの顔が近づいてくるのを感じる。
え、待って。これってもしかして。
咄嗟に目を瞑るも、デコピンをされ、おでこから強い痛みが走る。
「っ、いった」
「……これに懲りたら危機感持てよ」
「……はい」
「ったく…そうだ。みょうじさん家この近く?」
「??うん、そうだよ」
「なら送ってく」
「え、待って三ツ谷くん怪我して…」
「こんなのかすり傷だって。行くぞ」
ベンチから立ち上がり私に手を差し出す三ツ谷くん。私もその手を取り立ち上がろうとするが三ツ谷くんの力も加わり思わず体がよろけてしまう。そんな彼も私の体を包むように抱きしめてくれる。
「ご、ごめんね三ツ谷く、」
「いや、こっちこそ……大丈夫か?」
「う、うん」
そう言って離れるはずなのに腕から解けれない状況を見て困惑してしまう。事故とはいえ彼と抱き合えるなんて心構え出来てなかったから心臓がどきどき言っている。そして三ツ谷くんは抱きしめる腕の力を強くした。
「み、三ツ谷くん…?」
「…んー?」
「あ、あの、三ツ谷くん。色々キャパオーバーなのですが…」
「……悪い。嫌だったか?」
「い、嫌じゃない。でも、その、こうゆーのって変に意識しちゃうんだけど…」
「……ふぅん。意識してくれた方がいいけど」
「え」
そう言うと彼は私を腕から解放しベンチに落ちたハンカチを拾い回収すると私の手を握る。
「帰るか」
「え、三ツ谷くん家遠くならない?」
「いや、家多分近くだから大丈夫。てか、この時間に女の子1人帰らせるとか俺が許せないから送ってく」
「…ありがとう三ツ谷くん」
「いいって」
至って普通に手を握り歩く彼の横で私は普通には出来ず顔に集まる熱をなんとか悟られないように下を俯いて歩いてしまう。
だってこんなの期待しちゃう。それとも三ツ谷くんには普通のことなのかな?
私も普通にしなきゃと努力するがそんなのは無理でただ彼への好きが溢れてきてしまう一方だった。
「……なぁ」
「は、はい」
「?何で敬語。緊張してる?」
「あ、あまりからかわないで下さい…」
「ごめんごめん。つい、な」
「……三ツ谷くんは意地悪だ」
「……みょうじさんだからだよ」
「っ、それってどうゆー意味、」
聞こうとすると彼の足取りは一旦止まり私を見つめる。その顔がやけに真剣で私はつい息を飲んでしまう。
「……みょうじさんって彼氏居るの?」
「わ、私?居ないよ」
「そっか。じゃあ、俺頑張ってもいいね」
「?何か言った?」
「……いや。気にすんな」
よく聞き取れなかったが彼はにかっといつもの笑顔を見せると私を家まで送り届けてくれた。驚いたのは本当に三ツ谷くんの家と近い事だった。家に着くと繋がれていた手は解かれ私達は「また明日」と手を振った。
名残惜しいのか寂しくは感じるが明日また三ツ谷くんに会えると思うと嬉しく思える。今は握られた手の温もりに心が踊る。早く明日にならないかな。そう思い私は家の中へと入っていった。
夜空の月明かり
(この熱も胸の高鳴りも全然君のせいだ)