(行方不明な恋の話)

何でもない事だった。
中学を卒業し、高校に入学して、それからやっと恋心に気付いたというだけ。
何気無い友人の話で目覚めてしまっただけ。

「そういやさ、中学に『佐橋』って奴いたじゃん?」
さばし……ああ、
「演劇部フクブチョーの」
「そそそ!俺あいつが地味ィにモテるのがずっと不可解だったんだけどさ」
何だかトゲがあるな。
「お前さばし君嫌いなの?つかさばし君ってそんなモテキャラだったっけ?」
「やっ、嫌いではない、んだけど!」
「けど何だよ」
「顔も頭もコミュもそこそこ、自己主張もかなり控え目で、そして部活も『演劇部副部長・照明担当』という何ともパッとしない奴がよ?」
「やっぱお前さばし君嫌いだろ」
「違ーう違う!だから、そんな表向き非リアな奴が陰で女子から根強く支持されていたことが俺は納得行かんかったのよ!」
お前もなかなか非リアだしな、とは言わぬ方が賢明か。
「んー、さばし君て彼女がいるとかチョコ貰ってたなんて噂あったの?」
「ノンノン、奴の場合そんな分かりやすいアレじゃないのよ。いわばあいつは『隠れモテ野郎くん』!」
うわあ、
「ネーミングだっさ」
「うるせー!ってだから、女子に好きなタイプとか聞いてみると大体皆こう言うてたのよ」
こいつ女子に好きなタイプなんて聞けるほど猛者だったかな。
「んんっ、『やっぱ委員長とか小瀧辺りが良いけどぉ……冒険するなら久場とかかなあ?まあなんて言いつつ本命はバシバシだったりするんだけどね〜!』ってな」
「女声キモいからやめろ」
「今日何だかトゲトゲしいね?あ、でこっからが本題なんだけど」
は?
「今までの前置き?」
「そだけど……っておい、どこ行くんだよ!」
「付き合ってらんねえ、帰る」
女子があいつを〈友だちには良いけど恋人には出来ない〉と評価していたことを思い出した。