一條くんの本性 01
「圭太くん、帰ろう!」
周りに花びらが舞っているんじゃないかというくらいに愛らしい笑みを浮かべて教室を覗きこんでいるのは、一條蒼生。俺の恋人だ。
密かに想いを寄せていた俺が告白し、晴れて恋人同士となった俺達は今日、初めてデートをする。
「うん、今行くよ」
浮かれる心を押さえつけ、教室の前で待つ恋人の元へと急ぐ。
「あ、そうだ。僕、どうしても圭太くんに伝えておきたいことあるから今日は僕の家でもいいかな。」
「えっ、うん。俺は蒼生と居られればどこでもいいよ。」
「よかった。じゃあ、行こう?」
「うん」
初デートで家…
脳内に良からぬ妄想が浮かんでは消える。
まだ付き合ったばかりなんだからダメだ、と頭を振って考えを消した。
不審に思われていないだろうかとチラリと隣を見ると、無意識にぷっくりとした血色のいい小さな唇に目が行ってしまう。
柔らかそう…
「…圭太くん?僕の顔がどうかした?」
「っ!?あ、いやなんでもないよ。」
きょとんと首を傾げる蒼生。
流石に“美味しそうな唇だと思ってました”とは言えない。
「…変なの。あ、あそこが僕の家だよ。」
蒼生に言われるまで初デートで頭がいっぱいだった俺は気が付かなかったが、いつの間にか学校から離れていたらしく、辺りはあまり見覚えのない住宅街だった。
蒼生の指が指す先にはいかにも高級といった感じのマンションがそびえ立っている。
「親が海外にいるから今はひとり暮らしなんだ。
大したものはないんだけど、ゆっくりして行ってね。」
何食わぬ顔で入っていったマンションのエントランスは、まるでホテルのように豪華絢爛でよくわからない絵画や壺が飾られていて、庶民的な俺には刺激が強いエントランスだ。ついキョロキョロと辺りを見回してしまう。
「そんな珍しい物は何もないよ。
僕の部屋のほうが珍しい物あるかも。
…そんなことより、早く行こう?」
前の方を歩く蒼生はくすりと笑って振り返る。恥ずかしくなった俺は慌てて後を追った。
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