ワゴンに乗った大量のお料理を眺めていれば、ウサギのように跳ねる彼女が容易に想像できて、1人でふふっと小さく笑う。
「失礼致します」
存在感を出さないように小さな声で許可を得て、襖を静かに開ける。
中は少し薄暗く、淡い暖色系の灯りが怪しげな雰囲気を醸し出していた。
広めの部屋なのに、お客さんはど真ん中に2人だけ。
どうやら食いしん坊は手前の人のよう。
黒い服を着てるせいか、綺麗に連なる三つ編みが真っ先に目に止まる。
奥の相手は姉様に注がれた酒を飲み干すと、私の手に持っているワゴンを見て高らかに笑った。
「アハハ! そんなに
問いかけられた相手は、食事に夢中でほとんど聞いてない。
見てるこっちがヒヤヒヤする光景だ。
そんな、やりとりを聞きながら、雅へそそくさとワゴンを預ける。
「では、地球の女はどうですか?
気に入った者はいましたかな?
まぁ、貴殿のような色男なら、もうすでに手をつけてても、おかしくはないですがなぁ」
姉様たちの視線も、その顔が良いと噂の色男に釘付け。
チラチラと眺め、自分ではないかと期待してる様子が伝わってくる。
雅から小さくお礼を言われ、気にしないでと表情だけで伝える。
すぐさま部屋を出ようと早足に襖に手をかけた時だった。
今まで進めていた箸の音が急に止む。
「そうですねぇ。
……俺の好みはあんな感じですかね」
襖を閉める直前に、全員の視線が自分に注がれてるのに気づく。
「えっ」
そんな注目されている緊張よりも、視界の中にとらえた人物から目が離せない。
「どうして、ここに……」
私の事を会話に出した本人に視線を注げば、ニコリと貼り付けた笑顔を返された。
楽しげな楽器音や先程まで聞こえてた会話は止まり、ものすごい気まずい雰囲気が漂う。
近くにいる雅に、視線だけで助けを求めるが、彼女は友達の告白現場を目撃した、みたいな雰囲気で勝手に一人で盛り上がっている。
助けを乞いてもムダだった。
「煌びやかな遊女より、あのような素朴な
やはり貴殿は目の付け所が違いますなぁ」
相手は高級そうな扇子で自らをあおぎながら、先程と同じく声高らかに笑う。
姉様たちは、すごい目つきで見てくる。あとが怖いから、早くこの場から立ち去ろう。
「じゃあ、旦那。俺はもう帰るよ」
見覚えのあるマントをふわりと羽織り、真っ直ぐ私の元へ歩いてくるのは、間違いなく彼だ。
「この店、広くて迷っちゃうから出口まで案内よろしくね。従業員さん」
「あの、」
クルリと私の体の向きを変え、半ば無理やり部屋から退出させる。
その時、後ろから焦った声が聞こえてきた。
「ま、まだ話は! 」
「あぁ。その事だけど……
私の肩に手を乗せたまま、低い声で言い放つ。気になって後ろを見上げれば、声とは裏腹に私に微笑みかけていた。
じゃあね〜と子供のように彼は手を振り、部屋を出る。
中から騒ぐ声がしたが、面倒だというように私の手を引き、広い廊下を我が物顔で歩くのだった。
左右に揺れる三つ編みを後ろから眺める。案内しろと言った割に、目的地までの行き方が分かるようで、ずっと前をみたまま2人で廊下を歩く。
私の手を離す気などはサラサラないようなので、仕方なく彼に着いていくしかない。
「さ、さっきのお料理どうするんですか! 」
いつまで経っても、何も言わない彼に痺れを切らし、とりあえず今1番の疑問をぶつけてみる。
「他にも言いたいことありそうなのに、それ聞くとかアンタ、ズレてるね」
「だって、用意したのに……」
いくらこの人が偉い人でも、反論したくなる。他人事のように言ってるけど、あなたの為に用意したんです! と言いたかった。
が、自分の気の弱さが勝ってしまい、語尾が小さくなっていく。
「俺、美味しいものは残さないよ」
「の、残してたじゃないですか」
「あれ全部テイクアウトしたに決まってるだろ。俺の部下があとで取りに行くから」
今流行りだろ? と自信ありげに彼はニコリと笑った。