「開いてる……」
予想外の結果に目を白黒させてれば、神威さんに早くと急かされた。
銀時さんたちと来た時とは違い、外の大通りに面してる席ではなく、端っこの席に座る。日を避けるための傘型の屋根がついており、神威さんは自分が差してた傘を閉じた。
神威さんの一連の動作をみて、思いつく。
夜にしか会ってなかったから気づかなかったんだ。この傘は敵を倒す為だけじゃない。昼間に顔を出す太陽から身を守る為。
傘と色白の肌。
人間離れした身体能力。
当てはまるのは一つしかない。
遠い昔。一度だけ言葉を交わした、この巨大な街を生み出した鳳仙様も、神威さんと同じく夜兎民族だったことを思い出す。
でも本人は私に夜兎族であることを言わない。だから私も素性を聞いていいのか戸惑う。単に言わないというよりは、あえて知られないようにしてる気がした。
そんなことを考えていれば、神威さんが店員さんにメニューを返却していた。
「お姉さん、店のメニュー全部」
「ぜ、全部ですか? かしこまりました」
「じゃあ、私もそれで……え?! 」
一般人の注文の量とはかけ離れてた為、店員さんも私と神威さんを交互に見やる。
確かにメニューは団子だけじゃない。選ぶのにも迷ってしまうくらいの豊富さだ。しかし今はそのメニューの多さが、財布を泣かす敵となった。
私は急いで訂正をして、団子の盛り合わせを頼む。神威さんには睨まれたが、お財布と相談した結果だ。
今になってさくら屋に来た彼の大食いっぷりを思い出す。
「……」
「……」
沈黙が気まずい。
神威さんはどうだろうかとチラリと視線を送れば、観察するように私をまっすぐ見つめてくる。
時々、フッと笑うので、きっとつまらない訳ではないと思う。多分……
けど、すぐに運ばれてきた団子に、彼の視線は奪われ、一瞬で神威さんの胃袋に吸い込まれたのは言うまでもない。
「いや〜でも良かったね。事件の犯人捕まって」
「ええ。路地裏に足を怪我して倒れてた所を通報されたらしいよ」
クルリとあたりを見渡せば、斜め向かいの席で年配の店員さんとお客さんがお喋りをしてるのが目に止まる。
団子を食べるのに夢中なふりをしながら、耳だけは全力でその話に傾ける。
あの事件の犯人捕まったから、お店再開してたんだ…
みんなで写真を見た日を思い出す。
違和感の正体が分かったのは銀時さんたちが帰った後。きっと誰も気がつかなかったこと。
団子屋の店員さんは髪の長さや、エプロンの姿などが、ひのやにいる私の仕事姿によく似ていた。
スーパーの店員さんは写真の中で簪をさしていた。
よく見るとそれは、新八くんが褒めてくれたあの簪。色は違えど、デザインは同じモノ。
その他の2人も、私が持っている着物やカバンと同じものを身につけていた。
偶然……?
でも神威さんの言う通り、仮に私を狙う犯人がこの事件を起こしたというならば、全く無関係の4人に怪我をさせてしまった。私のせいで。
おそらく私に似ていたから。犯人は勘違いしたのだろう。
「ねぇ、なに考え込んでるの? 」
口元にむにゅっと柔らかいものがあたる。食事に夢中なフリをしてたのは、バレてたみたいで、神威さんは不満げに三色団子を私の唇に押しつける。
「神威さんこれ最後の1本なので、どうぞ」
「正確には、
”なまえの頼んだ盛り合わせの最後の一本”ね。アンタって自分の食べる分も人にあげそうだよね」
グイグイ押しつけてくる。食べろって事なのかな…
観念して小さく口を開けば、彼は満足げな顔をして竹串を自分の手から離した。
「でも、これはまだ序の口だ。次行くよ、なまえ」
ついお茶を吹き出しそうになる。この人の胃袋はどうなってるんだろう。
神威さんはおもむろに立ち上がり、お会計をサラリと済ませる。
慌てて追いかけて、自分の分を支払おうとするが、いらないと断られてしまった。
「神威さん、お願いだから受け取ってください」
「じゃあ次の店で、俺よりたくさんご飯を食べられたら受け取ってあげるよ」
「無理に決まってますよ! 」
なら、大人しくしろと笑顔で圧をかけられ、渋々財布をしまう。
遠くなる背中を見つめていれば、傘をさした神威さんが振り返る。
「なにしてんの。置いてくよ」
そう言いながら、私が追いつくまで歩き出さない神威さんを優しい人だと思った。