第33話 血まみれの 神威side

止められた。小さな震える手に。
いや、振り払う事だって出来た。
こんな真綿みたいな力。



「なんで、止めるの? 」



青い顔をしてる彼女は、振り上げた拳に手を伸ばし、精一杯の力を込めて掴んでくる。
理性を失ってはない。夢中になるとやめられないだけだ。


「そんな力で殴ったら、その人もう……」


二度と目は覚まさないだろうね。分かってるよ。


地球ココでいう、正当防衛だろ? これ」


強めの口調で言っても、黙って首を横に振る。アンタの手が震えてるのは、この男に対してか、それとも俺に対してなのか。


なまえの過去は、女たちが噂話してるのが耳に入った。
だから、障子の隙間からあの光景が見えた時、血が沸騰した。あの男の息の根を止めることしか頭になかった。


身体は勝手に動いていて、気づいた時には、もう遅い。
障子を破壊し、男を蹴り上げていた。



「腕、手当てしないと……傷、ついてます」



俺を止める為に引き出した精一杯の言葉。
自分の腕を見れば、確かに陶器の破片が刺さってじわじわと血が出ている。
障子を破壊した時に、部屋の置物も粉々にしたらしい。


俺は静かに拳を下ろした。なまえの首や肩に、赤いアザが浮き出ている。この男に圧迫されてたせいだ。着物も髪もそのせいで乱れている。



「……傷ついてるのは、アンタだろ」



今にも泣き出しそうな顔してるくせに。
いつも他人のことばかり。



深くため息をつく。すると彼女も腰が抜けたように座り込んだ。
同じように膝を折る。怯える彼女の瞳から、涙が溢れていた。



「神威さん」

「なに? 」

「来てくれて、ありがとうございますっ…… 」



畳の上にポタポタと落ちる。その涙を拭ってもいいのか分からなかった。
少なくともなまえは今、男という生き物を恐れているだろう。



「……俺の手が、怖い? 」



くだらない保険をかけてまで、なまえに拒絶されることを怖がるなんて、宇宙を飛びまわる海賊が聞いて呆れる。


しかし、その問いが意外だったみたいで、数秒目を丸くした後、遠慮がちに無防備な俺の指先に触れる。


「怖くありません。だってこの手は、私を助けてくれた手だから」


ゆっくりと、そのままなまえの頬に触れる。安心するような顔になったのはきっと気のせいだ。




「温かい、です」




いつか、なまえは血にまみれた俺の手を、振り払う時がくる。





「……そう」





だから、

今だけは触れることを許してよ。



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