とぼとぼ裏通りを歩き、家に向かう。
大通りはまだ夜の賑わいを感じさせる声や音がするが、それは耳に入らなかった。
「浮かない顔して何してんだ。嬢ちゃん」
声をかけられ、顔を上げるが姿は見えない。街灯も少ない為、目を凝らして辺りを見渡す。
すると、目の前に黒い壁が現れる。
「阿伏兎さん……」
「よォ、ちゃんと名前覚えてられてるとは、光栄だねェ」
どちらかと言えば、悪人顔の彼を見つめ、驚いたことを告げれば、高笑いした。
どうして彼がここにいるんだろう。なぜ私に声をかけたんだろう。
「こんな時間に女を夜道に歩かせるってのは、吉原の常識なのかァ? 」
「もう慣れてますから」
そうかい、と呟いて私の隣を歩き始めた。つられて私も置いてかれないように早足になる。
「団長じゃなくて、悪いなァ」
長い沈黙を破り、阿伏兎さんがさほど悪びれた様子もなく謝る。
団長…そうだ、この人は神威さんの知り合いだ。
「あ、あの! 神威さん、怪我は大丈夫ですか…? 全然、顔を見なくて、それで」
私が必死になって訴えれば、阿伏兎さんは目を丸くする。
そして、堪えきれないというように笑い始めた。
何か笑い所があったかと、不思議に阿伏兎さんを見つめる。
「まさか、団長のことをそんなに心配する奴がいるとはなァ」
「お、おかしいですか? 」
「いや、逆だなと思ったんだよ。あの時とな」
あの時……?
「覚えてないのも、無理ねェか。嬢ちゃんも団長も豆つぶくれェのガキだったもんなァ」
その言い方はまるで……
続きを聞こうと彼を見つめるが、話を逸らすように着いたぞ、と足を止める。つられて上を見上げれば私のアパート。
送ってくれたんだ、と気づいたのは阿伏兎さんが来た道を戻っていくからだ。
「あの、阿伏兎さん! 」
「団長は、無事だよ。嬢ちゃん」
心配するな、と笑みを浮かべて、彼は片手を上げて去っていく。
あれ以上教えてくれる気はないらしい。
神威さんが無事と分かって、少し安心する。けども阿伏兎さんの言った、”あの時” が気がかりだった。
私は、神威さんに会ったことがあるの?