それに加えてなんだか扉の向こうが騒がしいような……
銀時さんと顔を見合わせ、どうぞという前に扉は不躾にも開かれ、ノックの意味もない。
扉を開けた先にいたのは、端正な顔立ちの亜麻色髪の青年。
あれ、この人……
「旦那、電話出てくだせェ。何の為に携帯してるんですかィ」
そう言う青年は、おもむろに胸ポケットから携帯電話を取り出す。銀時さんの目の前で、主張するようにぷらぷらと揺らした。
「いや、それよりお前は何を引き連れてるの? 」
「コイツらは勝手に着いて来たんでィ」
あ、と小さく発した声は、あちこちから聞こえてくる黄色い声にかき消された。
たちまち香水の香りで病室は包まれる。
「旦那、帰り店に寄っておくれよ」
「一晩あたしとどう? 」
「お兄さん、私の方がいいでしょ! 」
良い香りに露出した肌。綺麗な顔の吉原の女たち。
どこから来たのか、甘味屋や珈琲屋の店員も混じっていて、みんな目がハートになってる。
誘惑だらけこの場面で、青年は顔色ひとつ変えずに、むしろ面倒くさそうに深くため息をついた。
「俺ァ、仕事中なんでィ。しつこいと公務執行妨害で逮捕しやすぜ」
この人は道端で会ったあの警察の人だ。
”逮捕しちゃう” と都合の良いところだけ切り取ったセリフに、女たちはメロメロ。
顔の整ってる人が言っても、
「って、アンタ。あん時のびしょ濡れ女」
隙を突いて、女たちを銀時さんがムリやり病室から外へ追い出す。
その間に青年は私に気づき、ポーカーフェイスだった表情を少しだけ崩した。
ホッと肩を撫で下ろしたように見えたのは、きっと気のせい。
だって、銀時さんと私を交互にみれば、ニヤリと警察官らしからぬ顔に変わったのだから。
「俺の親切を無視する奴と、もう1回会いたかったんですけどねィ。
こんな早くとは思いやせんでした」
整った顔を近づけ、圧をかけられる。青年の黒い感情は見ないふりをした。
確かにあの時、声をかけてくれたのに、家に帰ると嘘をついて逃げ出したっけ……
「あの時は、その、ごめんなさい」
「え、なになに。おたくら知り合い? 顔見知りだったわけ?
沖田くん、うちのなまえちゃんをいじめないでくれますぅ〜? 」
おでこに怒りマークの銀時さんと反対に楽しそうな亜麻色の青年……こと、沖田さんはニヤニヤしながら私を見る。
「へぇー。これが旦那の言ってた”なまえちゃん”ですかィ」
「おいおい、あんまり近づくな。おたくのマヨの匂いが移るだろ」
「やだなぁ、旦那。土方と一緒にしないでくだせェ。
誰が雨の中調査してきたと思ってるんですかィ」
口を尖らせながら、沖田さんと銀時さんが言い合いをしている。
誰かのあだ名なのか、マヨラーとかゴリラとか。(もはや動物だけども)
聞き慣れない単語に頭を悩ませていれば、突然どこからか機械的な音がする。
「って、俺かよ」
慌てて銀時さんが携帯電話をだす。通話ボタンを押したと同時に私にも聞こえるくらいの大きな声がした。
『銀ちゃん! なまえが目覚ましたって本当アルか⁉︎ なまえ、なまえー! 』
『ちょっ、神楽ちゃん落ち着いて、』
『何言ってんだヨ新八ィィ!
これが落ち着いていられる訳ないダロ‼︎ 』
『あああ! 僕の携帯ィィィ‼︎ 』
銀時さんは携帯を勢いよく耳から離して、しかめっ面。
電話越しの声が落ち着いたのを見計らって、銀時さんは呆れたように口を開く。
「ギャーギャー騒ぐなよ。なまえは無事だ。心配すんな。もう切るぞ、ココ病室だし」
一方的に要点を言って電話を切ろうとした銀時さんに、神楽ちゃんから怒りの声が。
『銀ちゃんだけなまえと話してズルいネ‼︎ なまえを出せヨ! 』
「なまえは起きたばっかで疲れてるんですぅ。明日にしろ」
『そんな事言って銀さん、なまえさんを独り占めしたいだけでしょ』
目の前にいないことを良いことに、銀時さんは神楽ちゃんと新八くんに散々な言われよう。負けじと彼も言い返す。
「うるせェェェ! ここは病室だって言ってんでしょうがァァァ‼︎ 」
「……旦那、アンタが1番やかましいでさァ」