陽が沈む
白い月が姿をみせる
大通りの店に灯りがつき、
美しく着飾った女たちが夜の街に姿を現す。
「なまえー早く来てー! 」
「今行きますー! 」
「こっちもお願い」
「はーい! 」
「帯が足らないんだけどー」
「入口に置いておきました! 」
女たちが慌ただしく行き交う廊下を、人一倍、素早く駆け抜けた。
私は的確に姉様たちの言葉に応え、呼ばれた部屋に飛び込む。
「なまえ、ごめんなさいね。本当は休みだったのに。
もうすぐ吉原で祭りがあるせいか、最近忙しくて」
「女将さん、」
この店、"さくら屋" をまとめる女将さんは、申し訳なさそうにする。
私はお客さんに出す料理の盛り付けをしながら、顔だけを女将さんに向けた。
「いいんです。これくらいさせて下さい。
私が今もここで働けてるのも、女将さんのおかげですから」
「なまえ……」
「早く終わらせて、休憩しましょ! 」
そう私がつとめて明るく言ったその時だ。
「きゃぁ! 」
甲高い叫び声。
驚いて外に飛び出ると、道の真ん中に女と浪人らしき男。
道ゆく人は横目でみながら、誰も止めない。
むしろ、好奇の目で様子をうかがっている。
「なんだいケンカかい? これ以上騒ぎ大きくするなら、百華を……って、なまえ! 」
浪人は遊女の胸ぐらを掴み、女も負けじと何かを叫ぶ。
「デカイ顔してこの街歩くのも大概にしな! ここは女の国だよ」
「貴様ぁ! 」
「その辺で、やめて下さい」
浪人の手を掴む。
急に現れた私の存在が、癇に障ったのだろう。
さらに浪人は厳しい目つきになる。
女から手を離したと思うと、今度は私の胸ぐらを掴んできた。
「いっ、た」
「邪魔をするな! 」
想像以上に力が強い。
苦しい……
次の瞬間、私は一気に息を吸い込むことができた。
胸の圧迫感がなくなる。
「乱暴はよしなよ。
女は大切にしなきゃいけないヨ」
そう遊ぶようなトーンの声がした。