閉じていた目を開く。
気づかない内に目の前に人が立っていた。
横から入ってきたその人は、頭から灰色の
口角が上がっているのが見える。その人は笑っていた。
浪人の腕を掴んだかと思うと、折るかのように無理やり捻じ曲げた。
「なんだお前っ、痛ぇ! 」
浪人は痛々しい声をあげる。
ギシギシと私にもわかるくらいの嫌な音が、聞こえてきた。
「やめて、乱暴はよして! 」
訴えるようにその人に叫ぶ。
これ以上はダメだと直感でわかった。きっとこの人は、本気で折ろうとしている。
一瞬私を見るような素振りをみせると、すぐに腕をパッと離す。
浪人は得体の知れない人物の存在に驚くと、すぐさま駆け出し、この場を離れた。
周りでみていた人々も、何事もなかったように散り散りになる。
街はいつものような賑わいに戻る。
残されたのは、私と助けてくれたこの人のみ。
「なまえ大丈夫かい?
私はあのケンカしてた子の怪我、手当てしてくるから。
アンタもありがとね」
女将さんはそう言って、外套の人の肩を叩き、早足で店の中に入っていった。
「あの、ありがとうございました」
普通ではない気がする。この人は。
でも、助けてくれたことに変わりはない。
恐るおそるお礼を言うと、一歩私に近づいてくる。
すると、自らの顔を覆っていた布を、長い指先でずらした。
思わず息をのむ。
大きな瞳は鮮やかな青色
鼻が高く、形の良い薄い唇
男だった。
こんな端麗な人、吉原にもいない。
歳は私と同じくらいだろうか?
そんな思想を巡らせていると、右腕が伸びてきた。
私の鎖骨あたりにそっと指先が置かれる。
突然のことで強ばるのが自分でも分かった。
この人の指先から、視線を外すことが出来ない。
まるで、己の生命の糸を握られているかのよう。
「痛くなかった?」
戸惑っていると、先ほど浪人の骨を折ろうとした人とは思えないような、優しげな声色でそう聞いてくる。
ゆっくり、わずかに怯えをはらみながら、男を見上げた。
「大丈夫です……」
小さく呟く。
普通に言ったつもりなのに声が震える。
きっとこの人の手が触れているせい。
ひとたび力を込めれば、たちまち私の喉は息をすることが出来ないだろう。
助けてくれたはずなのにこの人が怖い。
「そう」
と男は呟くとゆっくり手を離した。
「そんな怯えないでヨ」
整った眉毛が下がる。
「え、」
戸惑いを口にした時には、男はすでに人混みの中に消えていた。
最後の表情が、頭から離れなかった。
あなたは、何者ですか?