
22. じぇらしー?
その後も2軒3軒と食事処に行き、神威さんと食事を共にした。
細身の体のどこにそんなに入るんだろう……
あたりが薄暗くなり始め、私の仕事の時間が近づいてきた。神威さんはさくら屋まで送ると言ってくれて、2人で並んで歩く。
「終わるの何時」
「多分日付が変わる頃かと」
「じゃあ、その頃にまた来る」
「いや、いいです! 」
全力で断りをいれる。そこまでしてもらう理由もない。団子屋の店員さんを襲った犯人が私を狙ってた人だとしたら、事件は解決。私はもう誰にも狙われない。その旨を伝えても、神威さんも引かなかった。
「それに、もう犯人捕まったみたいですし」
「……残念だけど、さっき団子屋の客が話してた犯人は、俺の言った本命じゃないよ」
そこへ電子音が鳴り響く。私の携帯電話ではないと首を横に振れば、神威さんは自分の服をゴソゴソ漁り始めた。
「もしもし? あぁ、阿伏兎。……それ今日じゃなきゃダメなの?
あー分かった分かった。すぐ行くよ」
あからさまに神威さんは不機嫌な声になり、乱暴に携帯電話を切る。阿伏兎さんってあの人だ。この前さくら屋にいた神威さんを団長と呼んで探してた人。
きっと、何かに所属している人なのだろう。
この雰囲気では、さっきの団子屋の犯人の話の続きは聞けそうにもない。
「なまえ、」
「お、お仕事ですね。行ってきて下さい」
さくら屋はもう15分歩けば着く。
「……最後まで送ってけとかワガママ言わないんだね、なまえは。連れ回したのは俺なのに」
"なまえは" という単語に一瞬だけ違和感。
いや、誰と比べたんだろう、なんて思うのはおかしい。こんなに端麗な顔をした人だ。女の人が寄ってこない方がおかしい。
吉原で一夜を過ごした事ももちろんあるだろう。
自分にそう言い聞かせ、神威さんにさよならと意味を込めて頭を下げた時だ。頭にバサリと布がかかる。
驚いて顔を上げれば、神威さんが私と同じくらいの目線の高さ。自分が羽織っていた外套を、優しく頭に被せてくれていた。
「神威さん、これ」
「顔が見えないように。一応ね」
1人で帰る私を心配してくれてるのだろうか。神威さんの体温で、まだ温かい外套をぎゅっと握りしめる。
見間違いだろうか。ほんの少し名残惜しそうな顔をして去ろうとする彼の服を、遠慮気味に引っ張る。
「た、のしかったです、今日」
ただの会話なのに、やけに緊張した。神威さんの前ではいつも通りが出来ない。
「……俺も、楽しかったよ。なまえ」
伏せてた顔を覗き込むように見られ、いやでも視線がかち合い、その鮮やかな青に一瞬ドキリとする。神威さんは、小さく微笑むと背中を向けて行ってしまった。
あの人は私を監視してるだけ。私を狙う犯人を捕まえる為に。
彼がそばにいることに、他意はない。
そう言い聞かせても、私の名前を呼ぶ神威さんを思い出してしまうのは、どうしてだろう。