24. 夢の続き



「なまえ」
「神威さん? 」



 名前を呼ばれて振り返れば、神威さんがすぐ後ろにいた。私よりも頭ひとつ分、背の高い彼を見上げる形になる。


 彼の右腕が伸びてきた。それは私の耳元を確かめるように触り、滑り落ちて頬を撫でる。くすぐったくて、肩がはねた。


 いつもと違う様子に戸惑い、「神威さん」と制する意味を込めて、もう一度名前を呼ぶが、それに応えてはくれない。



「……いいだろ? これくらい」



 神威さんが目を細めて呟き、距離が近づく。顎を持ち上げられ、上を向く形になった。胸を押してみるがびくともしない。


 視界が神威さんしかみえなくなる。これ以上、近づいたら……






「だめ‼ 」






 指先に何かが触れて、それが落ちる。ガラスの割れる音と一緒にハッと目を覚ました。
 周りを見渡せば、ここはさくら屋の休憩室。
座っている足元には寝落ちする前に飲んだ水のコップが。もう粉々だったけど。




「なんて夢を……」
「あらあら、寝ぼけてたの? 怪我してない? 」




 頭を抱えれば、たまたま入ってきた女将さんが苦笑していた。











「やぁ、待ちくたびれたよ」




 仕事を終え、いつも通り裏口から外に出た時だ。暗闇から音もなしに現れたのは、つい先ほど私の夢に出演した人物。つい動揺してしまう。




「こんばんは……」




 彼はたまにこうして、迎えに来てくれる。監視を超えて、これじゃ護衛だ。でも私をアパートまで見届けるとすぐに暗闇に消えしまう。


 あんな夢に深い意味はない。知り合いの夢をみるのはよくある、と自分を落ち着かせて、神威さんの横を歩く。



「ねぇ」



 前を見たまま神威さんが私を呼ぶ。そのまま左手で私の右腕を掴んだ。驚いた私は足を止めて、神威さんを見つめる。



「これどうしたの? 」
「え、ああ、これはあの、」



 心配するように覗き込む彼に、動揺してしまう。
お、落ち着こう……




「割れたコップで切ったんです。その、片付けしてたら」




 へぇー、と言いながら絆創膏で包まれた人差し指をまじまじと見つめる。暗闇だから手元をよく見ようとしてる神威さんとの距離が自然に縮まる。



あれ、これって夢みたいな展開……



「し、心配はいりません! 深くないですから」


と少し大きい声を出して、彼の腕からパッと逃れる。神威さんの夢を見たからコップを割ったなんて言えない。




「……鈍臭いね」




 不満そうな顔をして神威さんは自分の左手を見つめていた。今は神威さんの一つ一つの仕草が、夢と連動してしまって困る。
 その日は早足でアパートに帰った。



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