47. 来訪者



 突然、2人しかいない病室に、コンコンと来訪者を示すノックの音がする。
 それに加えてなんだか扉の向こうが騒がしいような……


 銀時さんと顔を見合わせ、どうぞという前に扉は不躾にも開かれ、ノックの意味もない。
 扉を開けた先にいたのは、端正な顔立ちの亜麻色髪の少年。
 あれ、この人……



「旦那、電話出てくだせェ。何の為に携帯してるんですかィ」



 そう言う青年は、おもむろに胸ポケットから携帯電話を取り出す。銀時さんの目の前で、主張するようにぷらぷらと見せつけた。



「いや、それよりお前は何を引き連れてるの? 」
「コイツらは勝手に着いて来たんでィ」



 あ、と小さく発した声は、あちこちから聞こえてくる黄色い声にかき消された。




「旦那、帰り店に寄っておくれよ」
「一晩あたしとどう? 」
「お兄さん、私の方がいいでしょ! 」



 良い香りに露出した肌。綺麗な顔の吉原の女たち。どこから来たのか、甘味屋や珈琲屋の店員も混じっていて、みんな目がハートになってる。
 誘惑だらけこの場面で、少年は顔色ひとつ変えずに、むしろ面倒くさそうに深くため息をついた。




「俺ァ、仕事中なんでィ。しつこいと公務執行妨害で逮捕しやすぜ」




 この人は道端で会ったあの警察の人だ。
 "逮捕しちゃう" と都合の良いところだけ切り取ったセリフに、女たちはメロメロ。
 顔の整ってる人が言っても、さまになってしまうだけだ。



「って、アンタ。あん時のびしょ濡れ女」



 隙を突いて、女たちを銀時さんがムリやり病室から外へ追い出してる間に、少年は私に気づき、ポーカーフェイスだった表情を少しだけ崩した。ホッと肩を撫で下ろしたように見えたのは、きっと気のせい。
 だって、銀時さんと私を交互にみれば、ニヤリと警察官らしからぬ顔に変わったのだから。



「俺の親切を無視する奴と、もう1回会いたかったんですけどねィ。こんな早くとは思いやせんでした」



 整った顔を近づけ、圧をかけてくる。少年の黒い感情は見ないふりをした。
 確かにあの時、声をかけてくれたのに、家に帰ると嘘をついて逃げ出したっけ……



「あの時は、その、ごめんなさい」

「え、なになに。おたくら知り合い? 顔見知りだったわけ?
沖田くん、うちのなまえちゃんをいじめないでくれますぅ〜? 」



 おでこに怒りマークの銀時さんと反対に楽しそうな亜麻色の少年……こと、沖田さんはニヤニヤしながら私を見る。



「へぇー。これが旦那の言ってた”なまえちゃん”ですかィ」

「おいおい、あんまり近づくな。おたくのマヨの匂いが移るだろ」

「やだなぁ、旦那。土方と一緒にしないでくだせェ。
誰が雨の中調査してきたと思ってるんですかィ」



 口を尖らせながら、沖田さんと銀時さんが言い合いをしている。誰かのあだ名なのか、マヨラーとかゴリラとか。(もはや動物だけども)聞き慣れない単語に頭を悩ませていれば、突然どこからか機械的な音が。



「って、俺かよ」



 慌てて銀時さんが携帯電話をだす。通話ボタンを押したと同時に私にも聞こえるくらいの大きな声がした。



『銀ちゃん! なまえが目覚ましたって本当アルか⁉︎ なまえ、なまえー! 』

『ちょっ、神楽ちゃん落ち着いて、』

『何言ってんだヨ新八ィィ!
これが落ち着いていられる訳ないダロ‼︎ 』

『あああ! 僕の携帯ィィィ‼︎ 』



 銀時さんは携帯を勢いよく耳から離して、しかめっ面。電話越しの声が落ち着いたのを見計らって、銀時さんは呆れたように口を開く。




「ギャーギャー騒ぐなよ。なまえは無事だ。心配すんな。もう切るぞ、ココ病室だし」 




 一方的に要点を言って電話を切ろうとした銀時さんに、神楽ちゃんから怒りの声が。




『銀ちゃんだけなまえと話してズルいネ‼︎ なまえを出せヨ! 』

「なまえは起きたばっかで疲れてるんですぅ。明日にしろ」

『そんな事言って銀さん、なまえさんを独り占めしたいだけでしょ』



 目の前にいないことを良いことに、銀時さんは神楽ちゃんと新八くんに散々な言われよう。負けじと彼も言い返す。





「うるせェェェ! ここは病室だって言ってんでしょうがァァァ‼︎ 」


「……旦那、アンタが1番やかましいでさァ」





 沖田さんはわざとらしく耳に指を突っ込んで、うるさいとポーズをする。冷静さを取り戻した銀時さんは、「ほら」と携帯を私の耳に当ててくれた。慌てて受け取り、小さく呼吸をして呟く。



「神楽ちゃん、新八くん。あの、本当にごめんなさい……」



 電話越しでも2人が突然、私が出た事に戸惑っているのが分かる。こんなに心配をかけて、迷惑をかけて。謝っても謝りきれない。



『なまえ無事ならそれでいいアル! 』
『それだけで、僕らは嬉しいです』



 安堵したような声色が、耳から伝わってくる。その優しさに、止めていた涙がまた溢れてきた。
 すると、銀時さんが携帯電話を優しく私の指先から取り、空いてる方の手で私の頭を慰めるようにポンポンと撫でた。



「なまえタイムは終了でーす。

万事屋の社長にもそれくらい優しくしてくれるといいんだけど、お前ら。おーい、聞こえてんだろ。

テメーらナチュラルに無視すんなァァァ! 」




 バチンと音がするほど激しく、銀時さんが自分の携帯電話を切る。と同時に、新井先生が姿を表した。




「おや、なんだか賑やかですね」




 ニコニコしながら椅子に腰を掛けた。新井先生に治療してくれたお礼を告げれば、困ったように微笑む。




「それは万事屋さんに言ってください。
夜遅くになまえさんを抱えてここまで来たんですから。血相変えてね」

「銀時さんがここまで……」




 じゃあ、神社から連れ出してくれたのは神威さんだろうか?
 …そういえばあの後、瀕死状態で倒れていた天人に私は突然襲われかけたのだった。そして、そのまま倒れ意識を失ったらしい。



「なまえさんはモテモテですね。万事屋さんに真選組の方に」




いいなぁ、青春ですね。とわざとらしく先生が言うから、恐る恐る2人を見上げる。

 色気も何もない私なんぞに、そんなことを言われて申し訳ない。銀時さんはフッと顔を逸らして、沖田さんは口角を上げて悪い顔をしてた。



「躾して欲しいなら、いつでも俺に言いなせェ。相手にしてやらァ」

「えっ、躾って」

「おい、ドSは喋るな。なまえ忘れなさい。今すぐに」



 この場にいるのはマズイと思ったらしい銀時さんは、沖田さんの肩を掴み、早口で私に別れを告げて病室を後にした。
 呆気にとられた私に、先生は優しく問いかける。



「気分はどうですか?
私は身体を治療することが専門なので詳しくは聞きませんが、何があったんです? 」



 まだ整理ができてない。どこからどこまでを話して良いかも分からない。



「突然、誰かに襲われて……でも助けてくれた人がいたので大丈夫だったんですけど、途中で気を失って……」



 気づいたらベットの上だった。
 そう話し、体に特に異常はないことを伝える。



「そうですか…怖かったでしょう。無事でなによりです。

明日はとりあえず、一通り検査しましょう。
明後日には退院できますからね。


でもなまえさん、もう1人で行動してはダメですよ。

夜の神社なんて誰が潜んでるか分かりませんからね」



 普段怒ったりしない先生が、念を押すように私に言う。萎縮していたら、いつもの穏やかな顔に戻り、



「ならさら、あなたは女の子なんですからね」



 そう言い残して部屋を出ていった。先生にまで心配をかけて、私はなにをしてるんだろう。
 自分の不甲斐なさを感じながら、静かに私は目を閉じた。



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