49. 身勝手だ 阿伏兎side



 煌びやかな夜の街。鳳仙がいなくなったからといって、その姿は前とさほど変わらない。
 まぁ、以前と比べて殺伐とした雰囲気は緩和され、歌舞伎町にも似た空気を感じるが。
 そんな夜の街の人間を見下ろすように、団長はその場所に立っていた。




「……これで良かったのか、団長」




 真っ直ぐ前を見て俺の問いに答える気はない。代わりにアホ毛が少し揺れた。動揺してるみたいに。



「話せば良かったんじゃねェか。自分があの日、嬢ちゃんを助けたってよ」



 そうすれば、嬢ちゃんが団長から離れることはなかったんじゃねェのか?
 いや、決めるのは俺じゃない。どう思うのかは嬢ちゃんだ。だが、今とは違う結末になったかもしれねェ。
 そんな絵空事を並べていたら、団長が静かに口を開いた。





「……あの戦いでアイツは両親を失った。それに変わりはない。

遅かれ早かれ、アイツは俺から離れてたよ」





 淡々と事実を述べる。どこか、自分を嘲るかのように聞こえたのは気のせいか否か。
 今さら何を言っても無駄だっていうのか? だったらなんで。





「始めから嬢ちゃんに近づかなければよかったじゃねェのかよ。団長」




 ピクリとわずかに団長の肩が動く。怒りスイッチに触れたかもしれないが、構わず俺は続けた。




「自分から近づいて、踏み込んで、傷つくのが怖くなったから、離れるのか?
勝手もいいトコだ」



 挑発するような言葉をワザと選ぶ。ゆっくりと団長が俺の方を振り向いた。



「……阿伏兎、随分と俺に言うようになったね。
生意気な部下をそばに置いたつもりはないんだケド」


「生意気な上司を持ってると、こうなるらしいぜ」




 顔は笑ってるが、目は俺を捕らえて離さない。それは戦場にいる時と同じ顔だ。
 ……俺、今日が人生最期の日かも。いや、こうなったらこのまま言っちまえ。




「団長」




 自分でも気づいてない、心の奥底に俺は土足で踏み込む。






「……本当はホッとしてるんだろ? 嬢ちゃんが自分から離れた事に。嬢ちゃんが自分のことを拒絶した事に」





 団長は今でも後悔してる。嬢ちゃんの両親を助けられなかった、己の弱さを突きつけられた、あの日のことを。
 

 団長がそれまで以上に戦場という場所を求めたのは、あの日を境にだった。そして自ら誰かを助けたのも、あの少女以来、俺はみていない。



 結果的に助けることはあっただろう。それはあえて殺さなかったという意味で。そこには理由があった。
 強さという理由が。


 将来を期待できそうなガキや女、あの銀髪の侍のような存在。
 いつまでも欲しいおもちゃを求め続けるような、頭のイカれた我が団長サマが。
 自分の手が血塗られていると分かっていてもなお、助けたいと願った嬢ちゃんの存在。




 団長、アンタは覚えてないだろうな。口では家族は捨てたと言っていた幼い団長が、第七師団に入りたての頃、家族の夢をみて真夜中に泣いていたのを。
 そんな姿を見て、何も思わなかったと言えば嘘になる。



 だから、嬢ちゃんの存在は貴重なんだ。喧嘩しかしてこなかった団長が、ただの18歳の男に戻れる。自分の中に芽生えた、純粋な感情。
 こうでもしないと、この団長様はきっとこの先も、その気持ちを殺したままにするのだろう。
 悪いな、団長。




「関わる事もなければ、これ以上、嬢ちゃんに嫌われなくて済むもんな」




 ゆっくりと三日月の瞳が開眼する。月明かりに照られされて、見慣れた青い瞳と目が合う。




「……」




 初めてみたよ。アンタのそんな顔。回りくどいのは性に合わないんだよ。
 話し合いなんて俺たち第七師団に出来ると思うか? 口より先に手が出るような俺たちが。




「嬢ちゃんのことを護りたいって言ったのは、団長だろ」




 なら、最後まで護り抜いて見せろ。嫌われるのはそれからでも、遅くねェだろ?



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