
60. 違う体温と感じあえて
雨が降っていた。村は霧に包まれる。まるで今起きている出来事を隠すように。
自分の手から伝わる冷たい体温。震えているのは、私か。それとも、目の前を走る少年か。
先ほどの光景が頭から離れない。
飛び散る赤。
絶望と怒りに満ちた父さんの顔。
私の呼びかけに、母さんは倒れたまま動かない。
迫り来る怪物に恐怖で足がすくむ。
逃げろと父さんが必死に叫ぶ。動けない私を連れ出したのは、知らない少年。遠ざかる両親を目の前にして、涙が溢れた。
嫌だ。父さんと母さんはどうなるの?
逃げるなら一緒に逃げようよ!
離れるなんて嫌だよ!
___…父さん! 母さん!
急に腕を引っ張られた。私を受け止めたのは、先ほどの少年。
認めたくはない。でも、本能では分かっていた気がする。両親とはもう会うことは出来ないと。少年に抱きしめられて、悟ってしまった。
だってあまりにも、優しかったから。私を包む少年の腕が。
泣きじゃくる私に、少年は何も言わない。ただ、二人で雨に濡れていた。
何気なく顔を上げる。少年を見て、私はふいを突かれたように、涙が止まる。
どうしてそんな、辛そうな顔をしているの?
晴れた空のような鮮やかな青色の瞳からは、今にも涙がこぼれ落ちそうだった。
___…ど、どこかいたいの? けがしてるの?
思わず聞いてしまう。少年はなぜか驚いた顔をした。まるで、その問いかけが予想外だったように。
___…な、ないていいからね
そう呟いたのは、父さんと母さんがいつも私に言っていたから。痛かったら、辛かったら泣いて良いのだと。
それが合図かのように、少年の瞳からポロポロと涙が溢れ出す。
それは恐怖や不安で流した涙ではなかった。
まるで、何かを悔やんでいるような、後ろめたささえ感じさせる雫だった。
手を伸ばし少年の頭を撫でる。
大丈夫だと言い聞かせるように。
優しく少年に引き寄せられる。困惑する私をよそに、彼は苦しそうに言葉を紡いだ。
___…ごめん……
お願いだから、
許さないで……
言葉の意味も分からず、でもその意味を問いかけることはもっと酷に思えて、静かに少年の背中に腕をまわす。
なぜだろう
少年の温かな体温に
私は独りじゃないんだと思えた