「…新人さん?」

突然響いた声に商品から顔をあげると華奢でちょっとガラの悪そうな男の人が立っていた。上目遣い気味に私のネームカードの初心者マークを覗き込む。

「…はい、まあ」
「へえ」

常連さんなのかな。彼は私の様子を伺いながらポケットから財布を取り出した。それきりなにも言わないからピッというパーコードを読み込む音だけが深夜のコンビニに響く。

「以上4点合計で1060円です」

「はいはい」と言いながら財布から千円を取り出すお兄さんは少しにこやかだ。うわ、よく見るとこの人いけめんだ。お釣りを渡す手が触れただけでラッキー、みたいな。


「あかり!お前荷物あそこ置くな言うたやろ!」


袋に入れた商品を受け渡してるところでお店の奥から怒鳴られた。村上店長だ。
声にびっくりしたお兄さんと私は固まってしまった。お兄さんが少し笑う。やめて店長恥ずかしい。

「あそこ置くと荷台引っかかるて何回言うたらわかん…あ いらっしゃいませ!」

勢い良く出てきた店長がお客さんを見て「すんません」と頭を下げる。
お兄さんは「あ いえ」とはにかんでから店長を見て、絶句した。

「…ヒナ?」
「はい?…え?……すばる、か?」

『すばる』と言われた小柄なお兄さんは驚いたように口をあけ、受け取りかけていた商品をレジに置いた。そして一瞬でくしゃっと笑顔を作る。『ヒナ』ってもしかしなくても店長のことなのか。なんだその呼び方似あわなさすぎる。

「やっぱりヒナやんな!」
「すばるやんけ!え?なに!?ほんまにすばる!?」

目尻に皺を集めて「ひっさしぶりやなあ!」と店長の肩を叩いた。うわ、笑顔かわいい。

「俺先週越してきてん!」
「ほんまか!」
「うわなんやねんお前ここで働いてんのか!使いにくいやん!」

ガハハと笑う店長が「気にせんと使えや!近いん?」とカウンターに乗り出した。心なしか店長も可愛く見える。なんか、2人を取り巻く空気が学生って感じ。

「すぐそこのマンションやねん。うわーもうここ一番近いんやぞー!なんでお前おんねん」
「俺に会えて嬉しいやろ!」
「お前なんか嬉しないわ!どうせならこの可愛らしいお姉さんに会いたいわ!」

『すばる』さんが私を見て「なあ?」と笑う。咄嗟に「えっと、」しか出てこなかった私の肩
に村上店長が手を置いて「お客様ウチの期待のルーキー変な目ぇで見るのやめてもらっていいですか」とわざとらしく庇った。

「なんやねんずるいわこんな可愛い店員さんお前ばっか」
「ずるいことあれへんわ仕事や仕事」
「小松さん?小松あかりさんいうんですか?」
「え?あ、はい」
「あかりさん、可愛い名前ですね!どうですか?今度ボクとステキな夜でも過ごしませんか?」
「!?」
「あかり、本気にしたらあかん。こいつはこういうやつやねん」

「お前ほんま変わらんな!」と店長がすばるさんの頭をはたいて「ヒナのどつきも変わらんわ!」と2人で爆笑した。

「ほんならたぶんまたすぐ来るわ」
「あかり狙いなら来んな」
「あほ、あかりさんに会いに来るに決まってるやろ」
「会わせへんわ」
「どういうことやねん客やぞ俺は!」
「んなもん関係あらへんわー」
「な、なんやと…お前 ほら、それはもう 頻繁に来るからな!」
「俺に会いに来い俺に」

「嫌やわゴリラ!」と言い残してすばるさんはお店を出て行った。その背中に「また連絡する」と店長が声をかけると少し振り向いて優しそうに笑った。









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出会ってしまった
(1/10)


ミガッテ