上機嫌、そんな言葉がしっくりくる。
鼻歌なんて歌っちゃって、缶コーヒーなんて買っちゃって。足取り軽くオフィスまでの廊下を歩く。
仕事がうまくいっている。それだけ。ただそれだけで人はこんなに気分がよくなるのか。
うーん。やっぱり気分のいい時も一服したくなるよね。うん、行こう。


「あ、村上さん。お疲れ様です」
「おつかれ、えらいご機嫌やな」
「そうですかね?」


ええことや、と笑って私の背中を軽く叩く。ちょっとだけ痛いです。でも嬉しい。


「村上さんも お煙草、ですか?」
「おー、ほな俺も行こかなあ」


あれ、もしかして行くつもりなかったかな。
いつもの扉を開けば続いて村上さんも部屋に入った。そう言えばもう何度もこの部屋で彼と合っているけれど、こうやって一緒に戸をくぐるのは初めてだ。なんか不思議な感じ。

揃っていつも通りの位置に落ち着いて、銘柄の違う箱を取り出す。
お互いの煙を眺めて仲良く肩を並べてる姿は、はたから見たらどう見えるんだろう。


「ご機嫌なところついでになあ、」


八重歯を見せて笑う彼も心なしか機嫌が良く見えるのは私だけだろうか。可愛い。村上さんの笑顔ってなんで可愛いんだろうな。


「メシでも行かへんか?今度」


わかった。この目だ。少し垂れた綺麗な二重がなんとも言えず可愛いんだ。人より光を多く受けてる気がする。きらきらしてて、純粋って感じ。


「………」
「……………」
「…………」
「…………………」
「……え?」


村上さん、今なんか言いました?


「聞いてへんかったんか!お前!」
「え!や!ごめんなさいごめんなさい!なんか想像もしてなかった言葉が聞こえた気がして!」


だって今、メシ?って、言いました?よね?
ごはん?村上さんと、ごはん?


「…行くやろ、」
「ぜひ!」


やばい、わたし今、絶対キラキラした顔してる。自分でわかる。だって、だって村上さんとごはんだよ?


「えっでもいいんですか」
「なにがや」
「わたしなんのお礼もできませんけど…」
「奢ってもらう気満々やな」
「あ、え、すみません、」


「大した女やな、お前」なんて笑って「そんなつもりで言ったんじゃないですすみません…」と苦笑いする私に「しゃーなしやな」と自分の火を揉み消す。今日、吸うの速いなあ。



「 前払い、っちゅーことで 」



もらっとくわ。



「あ、」



スローモーション、
みたいだ。



彼がゆっくりと私の煙草を指先でとりあげる。

そのまま自分の口元へ運ぶと、先端が赤く燃えた。
伏し目がちにふかしていた目が不意にこちらを見るからドキッとする。
手持ち無沙汰になった手を握って膝の上に落とした。
なにこれ、照れる。

ふっと煙を吐き出して、灰を落とすその手には細めの巻きがどうにもミスマッチだ。



「嫌いやないで、」



なにが、でしょう。
煙草のお味ですか、それとも、

当たり前のように再び私の口元にフィルターを戻して彼は立ち上がった。
バニラの風味が、いつもより苦い。



「じゃあまた 連絡するわ」



どことなくぶっきらぼうにそう言って、ぽんぽん、と私の頭を軽く叩いた。
なにこの人。
何気ない動作にいちいち胸が高鳴って、馬鹿みたい。馬鹿みたいだけど、幸せだ。






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幸せもくもく。

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ミガッテ