学校にも慣れて、受験のこともそこまで考えなくてよくて、先輩も後輩もいて……高校2年生って、人生の中でも最高に楽しい時期だって、わかってた。
世界の中心が自分たちなんじゃないかと思うくらい毎日が楽しくて、とにかく今を思いっきり楽しもうっていう気持ちで毎日を消化してた。
制服を着て、仲のいい友達がいて、好きな人がいて。休日に遊びに行ったりとか、学校行事とか……今しかないって自覚してたから、全部全部覚えておこうと必死だった。
なにもかも、楽しいこと全部覚えておこうと思えたのも、隣に横山がいてくれたからだよ。



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「なに見てんの?」

一つ前の席の椅子をひいて横向きに座る彼の目線が、わたしの手元を覗き込む。
ふわっと香る柑橘系の香りは運動部特有の制汗剤の作用で、自分にはないその要素が不覚にも僅かに胸を打った。

「サッカー雑誌…ヒナちゃんにもらった。」

一抹の恥ずかしさが無意識に雑誌を隠す。「ふーん」と興味なさそうな声で答えると横山は「隠さんでもええやん」と少し馬鹿にしたように笑った。

「勉強熱心やな」
「…うるさい」

ニヤリと甘美な唇を歪ませて目をそらす。「そもそもルール知ってんの?」なんて言われたから「さすがに知ってます。これでもスポーツは見る方なんだけど」とわざと嫌味らしく返した。

「そうなん」
「そうだよ」
「初耳やけど」
「いや知らんし」

別に隠してもないけど。いかにも"意外"という顔を作った横山は、『お前ら席つけ本鈴なったぞー』という担任の気だるい号令を聞いて黒板の方へ向き直った。
それを確認し、わたしは指を挟んでいた雑誌をそっと開く。特集されてる選手はヒナちゃんが好きだと言っていた海外の選手だ。この数ヶ月、彼に関する知識が格段に増えた。開いていたページの角を折り曲げて雑誌を机の中へそっと仕舞い込む。横山が後ろの席じゃなくてよかった。好きな人からもらったものを大事に扱ってるところなんて、絶対に見られたくない。


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「土曜日映画行こうよ」


1限目の教室へ移動しながら美穂にそう持ちかけると「土曜日?土曜日はだめ」と返ってきた。


「なんで」
『土曜日は先輩の試合見に行くからさ』


そう言ってにこにこと幸せそうに笑った彼女に面食らう。彼女がバスケットボール部の先輩に告白されたのは2ヶ月前、2年生になってすぐの事だった。

「試合?」
『そう。レベルの高い試合になるっぽいし、見に来たら面白いんじゃない?って』

美穂の彼氏である先輩はバスケットボールのスポーツ推薦でこの学校に来たような人で、チームきってのエースなんだと聞いた事がある。強豪校との試合で可愛い彼女にいいとこ見せたいのかな、なんて思うと少し羨ましくなった。

『千夏一緒に行かない?』
「…わたし?」
『ちょうど誘おうと思ってたんだよね。暇なんでしょう?土曜日』
「…映画に行きたい」
『そんな事言わないでさあ、千夏くらいしか一緒に行ってくれる友達いないんですよ』

そんなわけないですよ。あんた友達いっぱいいるじゃない。
そう返すと『言い方間違えた。千夏さんと一緒に行きたいんですよ』と笑うから思わずわたしも笑った。

『スポーツとか好きでしょ。隣でルール教えて』
「いいけど……バスケ部って誰かいたっけ?」
『イケメンは多いよ』
「それは知ってる」
『俄然行く気になるでしょ』
「そりゃなるよね……じゃなくて、知り合いとか。誰か2年生ベンチ入ってる?」
『ベンチは知らないな……基本レギュラーは3年生ばっからしいけど』
「まあそうだよね」
『あっ横山がもしかしたらスタメンかもなんだって』
「……横山?」

出てきた名前に思わず顔を顰める。確かに横山がバスケ上手いっていうのは有名だったけど、まさか2年生でスタメン候補って…この時期の大会ってインハイの予選とかなんじゃないの?それすごくない?

『なんか最近千夏横山と仲良いし、ちょうどいいじゃん』
「まあ去年も同じクラスだったし……今の座席で前後ってだけだけど…」
『ついでに応援しよう。』

ね、いいじゃん。
可愛い顔でそう言われると「しょうがないなあ」としか言えなくなった。断る理由なんてないからいいんだけど

『じゃあ先輩に試合の時間とか聞いとくから』

上機嫌な言い方から美穂のうきうきが伝わってくる。
恋してるっていいなあ。単純な羨望の眼差しを彼女に送りながら、映画はDVDまで待つか…と心の中でため息をついた。





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高校生は無敵。
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ミガッテ