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────
血溜まりの中に横たわった数え切れない程の亡骸も。
胴体を分断され、辺り一帯に撒き散らされた臓物も。
そして、此方を怨みがましく見つめてくる、飛び出た目玉の数々も。
全部が全部見慣れていて。全部が全部見飽きていたから。
だから“そのような光景”を前にしても女性は何も思わず、何も感じなかった。
ああまたか、程度の感想を抱くだけで血溜まりの中を歩み続ける行為を止めはしなかった。
けれど進み続けた先で“そこに在って欲しくはなかったもの”を思いがけず目にしてしまい、ぴたり、と足を止める。
見間違いであって欲しい、と願いながらも、彼女が「彼」を見間違える筈がなかった。
七海建人。
必ず
愛用の
上半身をどこかに失くしてしまった姿で物言わぬ存在と成り果てていたから女性は咄嗟に開き掛けた口を閉じ、もう二度と言葉を交わすことの出来なくなった相手を音もなく見下ろすと──────静かに彼の横を通り過ぎていく。
どんなに辛く、悲しくとも、自身の目から涙が溢れ落ちることは無いと知っていたから。とうに涙は枯れ果ててしまっていたから立ち尽くす、と言う愚行は犯さなかった。
本当は血の海に沈んだ七海の身体を抱き締めたかったのに。
彼の身体を血の海から掬い上げてそのまま立ち止まってしまいたかったのに、敢えてそれを堪えた。
何故かと言えば、“確かめなければならないこと”があったからだ。
これだけは先に明らかにしておかなければならなかったが故に、女性は「それ」を知るであろう人物の前にまで淀みなく歩を進めた。
「脹相」
特級呪物「呪胎九相図」の一番。
五条悟を封印する為に数多の人間を手に掛けたであろう彼に“あること”を問い掛けるべくして田園都市線のホームにまで足を運んだ女性は、再度相手の名を口にすると、何の躊躇いもなく地べたへと膝を預けた。非常扉の前で膝を抱えて蹲っている迷子のような目をした男と視線を合わせるために。
何でか戦意を消失してしまっている脹相の意識を此方に向けさせる為だけに膝を折った女性は、相手を見据えるなり、
「脹相」
「……」
「貴方に一つ、お聞きしたいことがあります」
「……?」
「貴方と行動を共にしていた夏油傑の額に、縫い目のような傷痕はありましたか」
淡々と、何の脈略もなく突然そのようなことを尋ねてくる相手に脹相は何も答えなかった。
答える義理がない、以前に、上手く脳が働かなかったのだ。
だから「
ただ“縫い目のような傷痕”、と聞いて無意識の内に肩を揺らしてしまっていたらしい。
すぐ近くから「……そうですか」と言う呟きが聞こえてきたことで脹相が徐に顔を上げると、眼前の女性が下ろしたばかりの腰を上げるなりゆっくりと地上を見上げたのが解った。
「『現実』から目を背け続けてきた罰でしょうね」
「──……?」
「本来なら津美紀が“ああ”なった時点で“その可能性”を視野に入れるべきだったのに」
なのに“見逃した”。
決して見逃してはならなかった「あの男」の気配を。その痕跡を。
「
小賢しくも肉体を入れ替えて。
この150年間、誰にも気付かれず、誰にも気付かせず、己が「目的」の為に他者を踏み躙りながら平然と──────と、そこまでハッキリと言い放ったところで女性の顔にフッと影が掛かった。今の今まで膝を抱えていた脹相が音もなく立ち上がっていたのである。
それでいて地を這うような声で「……どういうことだ」などと此方を問い質してくるものだから、相手と向き直った女性は眉一つ動かさずに口を開く。
“あなた方の母を弄んだだけでは気が済まなかったのでしょうね”、と視線だけで「件の男」の所在を指し示しながら。
◆
「続けようか。これからの世界の話を」
◆
彼女は知っていた。
幾度となく目にしてきたからこそ、知っていた。
両面宿儺の領域展開「伏魔御廚子」が空間を
他者の領域展開とは異なり、結界を閉じずに生得領域を具現化することが出来ることを。
そして相手に逃げ道を与える、と言う“縛り”によって底上げされた必中効果範囲が最大で半径約200m程にも及ぶことを。
また必中効果範囲内の呪力を帯びたモノには呪力差や強度に応じて一太刀で対象を卸す「捌」が、呪力のないモノには通常の斬撃たる「解」が「伏魔御廚子」が消えるまで絶え間なく浴びせ続けられることを。
だから
無機物と共に一瞬にして「全て」が消し去られてしまったことも──────────勿論、“知っていた”。
◆
「気付いていたかい?」
「……」
「かつての「百鬼夜行」は君のためでもあったんだよ」
「……」
「君がいつだって我が身より他者の目を、他者の身ばかりを気に掛けていたから」
「……」
「だから「彼」はいつしかこう思うようになったんだろうね。“非術師の居ない世界であれば他者を気にすること無く自由に生きていけるはずだ”、って」
本当に哀れなくらい一途な男だったんだよ、「
そう言って自分自身の胸に手を当てる夏油傑の皮を被った「
故に黙したまま奥歯を噛み締めてしまう女性は表面上だけでも何とか平静を装うと、相手から静かに視線を外し、そっ、と周囲を窺う。果たしてこの場に居る者達だけで目の前の「
「巫蠱さん……!?なんで、」
虎杖悠仁。パンダ。加茂憲紀。
日下部篤也。庵歌姫。西宮桃。三輪霞。に加えて禪院真依。
人数だけで言えば圧倒的に此方が優位ではあるものの、如何せん大半は「学生」である。
しかも虎杖悠仁に至っては立っているのもやっと、な満身創痍っぷりであったが故に女性が僅かながらにも躊躇いを覚えてしまっていたら、
「……よくも!!」
と言う怒号が周囲に響き渡った。
それでいて怒号をあげた人物こと脹相が怒りのままに「
「やあ、脹相。その様子だと“気付いた”みたいだね」
「────よくも俺に!!虎杖を!!
全てを悟った脹相が“かものりとし”、と、そう叫んだ瞬間、その場に居た者々の間に明確などよめきが走った。
特に同じ音を持つ加茂憲紀なんかは「私!?」などとあからさまな驚きを露にし、側に居た虎杖とパンダから「どゆこと?」と言わんばかりの眼差しを注がれてしまっていた。まあすぐに同姓同名であることが判明するのだが。
「術式で肉体を乗り替えていたようです。この分だと乗っ取った肉体の術式も使えるのでしょうね」
「あー……なるほど。黒幕の人選としては妥当っちゃ妥当だな」
「って言うか、夏油に突っ込んでったアイツは誰なのよ。気配からして人間じゃないわよね」
「歌姫先生、そんなことより霞ちゃん下がらせて。私達で時間稼ぐから」
此方にまで音もなく足を運んだ女性から事の次第を聞き、相手が「誰」なのかを瞬時に理解した教師陣は驚きもそこそこに目配せをし合うと“ほぼ同時に別方向へと走り出す”。
庵は得物を失った三輪を安全な所へ避難させる為に。
日下部は場が乱れたのを機に黒幕こと加茂憲倫のもとに。
そして慣れた様子で箒に跨がった西宮もまた一気に上空へと身を踊らせると意図を汲んだ加茂と虎杖、パンダらが一斉に加茂憲倫目掛けて駆け出していく。
故に女性も相手の隙を誘うべくして一歩を踏み出そうとするのだが────────それよりも早く“「白」が舞った”。
「引っ込め、三下。これ以上私を待たせるな」
直後、駆け出した虎杖達の身体が瞬く間に凍り付く。
気配もなく姿を現していた人物の術式によって地面ごと身体を凍らされてしまったのだ。しかも下手に動くと体が割れかねなかったが故に皆が身動き一つ取れずに居ると、“全くの無傷でいる女性”が件の人物へと視線を投げ掛けたのが解った。
子供、と捉えられても仕方がない程に小柄な体躯と肩口で切り揃えられた白髪を持つ、少年とも少女ともつかぬ顔立ちをした人物に。視線を。その双眸を。
「…………裏梅…………?」
ぽつり、と呟いた声は確と相手の耳に届いたらしい。
感情を窺わせぬ
しかしそれは
だがいざ相手に向けて術式を放とうとしたら──────────物の見事に邪魔が入った。
何を隠そう、裏梅目掛けて弾丸が放たれたのである。
その距離と位置から考えるに、今し方の「狙撃」は間違いなく禪院真依の仕業であろう。女性に危険が及ぶ前に裏梅を仕留めるつもりであったようだ。
「巫蠱さん!!」
「!」
裏梅が翳していた掌で難なく弾丸を受け止めた中、一人だけ氷結の甘かった虎杖が自身の身体を覆っていた氷を砕くなり一目散に女性の元にまで駆けてくる。次いで彼女の腹に腕を回して即座にその場から飛び退ると、すぐ近くから巨大な真空刃が放たれた。
上空から急降下してきた西宮が生み出した呪力による突風、付喪操術「鎌異断」である。
息つく暇もなく畳み掛ければ少しは隙が生じるはず、との考えから裏梅と加茂憲倫に向けて最大出力の風刃を放った西宮ではあったものの、如何せん“バヅッ”と。それはもう虫を相手にしたかのような仕草で「鎌異断」が振り払われた。
だからか「素手で払うとかヘコむんだけど!!少しは見た目通りのモヤシっぷりを演出しろっての!!」、だなんて舌打ちと共に悪態をつく西宮で。
「────くだらない。この程度の有象無象、さっさと始末してしまえばいいものを」
「だが
“
そんな台詞を吐き出すや否や裏梅が呪力を纏わせた右手を勢いよく地面へと振り落とした。
【氷凝呪法「直瀑」!!!】
「「「!!?」」」
瞬間、先とは比べ物にならない程の氷塊が辺り一帯に出現し、帯状となって飛来した氷が一瞬にして三人の身体を凍り付かせた。
また彼らの頭上に集約していた氷塊が形を変え、これまでに目にしたことがない程の巨大な氷柱となって三人に襲い掛かってくると────────流石の虎杖も「死」を覚悟する。殺られる、と。
そして成す術もなく圧殺される光景を脳裏に思い描いたら、
「
「声」。
この場にそぐわぬ、実に飄々とした声が。
それはそれはどこまでも闊達自在な声が突如として彼らの耳に響き渡った。
「あの時の答えを聞かせてもらおうか」
風に揺れる長い
すらりと伸びた細長い手足。
そして身の丈に合った形の良い臀部が「誰か」の好みを彷彿とさせた所で虎杖の隣から「……由基?」、と言う音が漏れ出る。どうやら女性の知り合いであるらしい。
現に呼び掛けに応じる形で手をひらひらと揺らした件の人物は、口元に笑みを形作るなり目の前の
降り注がれた幾重もの氷柱を豪快に粉砕した己が式神と共に。
お茶目にも片目を閉じ、背景にハートを散りばめながら。
「どんな女が
「特級術師」九十九由基。
それがヒーローさながらのタイミングで姿を現した、美しくも頼もしい、周囲から“ろくでなし”と称される
◆
「………………
全てが終わり、全てが始まった後。
誰に向けてでもなく小さく小さく紡ぎ出されたその四文字は──────女性が“何もかもを完全に諦めた”瞬間でもあった。
◆
「23区は、ほぼ壊滅」
「はっきりと無事と断言出来るのは奥多摩の町村、青梅市、あきる野市、八王子市、町田市の一部、各島嶼だけだ」
「官房長官を含めた総理代理全員が安否不明」
「政治的空白……!!文字通りの空白だぞ!!」
「今は……でしょ?放たれた呪霊は1000万は下りません」
「そんな中、どう少なく見積もっても500万人の都民の疎開プランを組まねばならん」
「各地のラブホテル、キャンプ地、廃村まで最低限のインフラでいい。使えるものは全て使え」
「都内全域を避難命令区域に設定するんですか!?」
「明治に張り直した皇居を中心とした結界と、幕末に東京遷都候補地だった薨星宮直上を中心とした結界。これらを無理やり県境まで拡張する」
「その後、立入禁止区域とする。正に人外魔境さ」
「ならば官邸機能は大阪へ……!!」
「はあ!?呪霊の存在を公表する!?マジで言ってんの!?」
「このままでは呪霊が各地に大量発生する!!多くの術師が都内で避難民の警護にあたっている今!!この時にだぞ!!」
「この規模での権力の真空、他国の軍事介入もあり得る」
「呪霊はあくまで東京のみに発生するものとして公表する」
「一般人の呪力の漏出を東京に促し、呪霊の発生を東京に限定すると言うことですか……」
「だから関空が出来た時、伊丹を移転候補地として推したんだ俺は!!」
「まあまあ。逆に良かったじゃないですか。これ霞が関が元気だったら出来なかった判断ですし」
「あーあ。日本終わったー」
「言うな」
◆
「───俺が眠りこけてる間にそんなことがあったんですか」
「おう。私が眠りこけてる間にそんなことがあったんだとよ」
まあ私もさっき聞かされたんだが、と続けるなり病院の待合室にあるロビーベンチへと腰を下ろす真希は頬杖を突きつつ小さく息を吐く。
何分、今の今まで生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていたのだ。
天与呪縛によって他者より肉体の強度が上がっていた為に辛うじて助かりはしたものの、流石に無傷、とは行かなかったのである。現に右目はガーゼと包帯に覆われ、衣服に隠されている上半身にも至るところに火傷の痕が残ってしまっているのだから。
それに長かった黒髪も肩に届かない程に短くなってしまった──────のだけれど、五体満足は五体満足なので当人はそれほど燃えた髪も火傷の痕も気にしていなかったりする。なので伏黒も敢えて普段通りの態度を貫くと眉を顰めながら此処に居ない同級生に向けて「あの馬鹿」、と悪態を吐くのだった。
「あとお前、禪院家の当主に決まったからな」
「……は?」
今なんて?
「禪院家当主?!俺が!?」
「ああ。直毘人の遺言だ」
全く以て予期していなかった展開に伏黒が目を丸くすると、頬杖を突いたままの真希が遺言状の中身を掻い摘んで説明し始める。何らかの理由で五条悟が死亡、又は意思能力を喪失した場合、“伏黒恵を禪院家に迎え入れ禪院家「当主」とする”────と。
「お断りします、面倒くさい」
「いや、悪いが受けてくれ」
何がどうしてそうなったのか、色々と突っ込みたい気持ちはあったものの、面倒臭さが勝った伏黒は即座にそれを拒絶する。が、すぐに真希から「当主になってくれ」と頼まれると、それはもう露骨も露骨な程に怪訝な表情を浮かべた。どうやら本気でやりたくないらしい。
「直毘人は、恵“には”禪院家の財産を全て譲るって言ったんだ。金に呪具、当主になれば御三家や総監部の情報も入ってくる。これからの私達の立ち回りが大きく変わる」
「じゃあ真希さんがやって下さいよ。譲るんで」
「今の私じゃ誰も納得しねぇし、ついてこねぇよ」
相伝の術式を継いでいること。
領域展開を会得していること。
そして自他共に認める「最強」の呪術師たる五条悟に“目を掛けられていた”、と言うドラが乗った伏黒で最低ラインなのだと真希は語る。故に今の自分が当主になったところで誰一人として付き従ってくれるものは居ない、と。
「納得とか……禪院家の人がどう思おうと関係なくないですか?さっき言ってた恩恵は当主になりさえすれば受けられるでしょ」
「……まだ、私じゃダメなんだよ」
「?」
「私じゃ、真依の居場所を作ってやれない」
そう口にはしたものの、禪院真希は既に
どうすれば出来損ないと罵られてきた自分が“禪院家の人間を見返せるだけの「力」を得ることが出来るようになるのか”を。
【ジジィ、誰だアレは】
何を捨てて、何を犠牲にすべきか。
それを「あの男」を目の当たりにしたことによって否応なしに理解させられつつあった。
と同時に『それだけは絶対に選ぶまい』、と無意識下でその選択肢を無きものにしていた。
そんなことをしたら本末転倒だと。
守りたいものを、手放したくないものを自ら捨てるくらいなら別の方法で強くなってやる、と。
例え時間が掛かってしまったとしても何時の日か必ず自分の望む形、力で“あの子”の居場所を作ってやるのだと────────そんな風に気付きつつあったものから目を背けた。
それがどう言う結末を招くことになるのか、なんて、今は何も知らずに。
「…………分かりました」
無意識下とは言え、真希自身が目を背けた
だが、何となく察することは出来たのだろう。
身内を、
だから、と仕方なしに快諾する事にした伏黒は「でも、あくまで一時的に当主の座を預かるだけですからね」などと真希に念を押すと、一度だけ深い溜め息を吐き出し、直ぐさま思考を切り替える。
「あ、恵。それともう一つ」
「まだ何かあるんですか」
「悟がああなっちまったことで五条家が独占してきた巫蠱さんを所有する権利、ってのが正式に
「?」
「当主にもなったことだし、お前、今現在に置ける巫蠱さんの実質的な所有者な」
「……………………は?」
──────────は???
「は、いや、所有者って、」
「加茂家は過去に加茂憲倫の件で巫蠱さんの地雷を踏み抜いてる。で、今回の件だろ。流石に何も言えなかったらしい」
因みに五条家は言わずもがな、である。
「…………そもそも巫蠱さんって、どうして御三家預かりなんですか」
「馬鹿共が巫蠱さんに群がろうとすっからだよ」
「?」
「巫蠱さん、割と早い段階で自分自身の持つ発言力とか権威とかその他諸々を放棄しちまってるんだけど、界隈からすりゃ未だに“それ相応”の立場として見られてるんだと。まあそれだけ呪術界に貢献してきたんだろうし、実際、人脈もあっからな」
「……つまり、」
「人の良い巫蠱さんを利用しようと企む馬鹿が今も昔も一定数居る、居たってんで、そう言う輩が不用意に近付けないような
尤も上層部は自分達の目の届く範囲、つまりは薨星宮辺りに引き篭もっていて貰いたかったようなのだが───────流石に強制はしなかったらしい。自分達の心証が悪くなることを避けたのであろう。
彼女の持つ無尽蔵の
「巫蠱さんの所在さえ確かなら「上」の連中も表立って口出しはしてこねぇよ。だからその辺は安心しろ」
「はあ……」
「ただ、
「知ってます。真希さん、常日頃から禪院家の大半はクソだって言ってるんで」
「オマエが思ってる以上にクソな奴なんだよ。何せ男を立てられないような女は死ね、とか思ってるような奴だからな」
「クソっすね」
「だからそう言ってんだろ。しかもそんなクソがよりにもよって巫蠱さんに惚れてやがるんだよ」
「…………」
「だからオマエ、相当目障りに思われてんぞ。本来なら自分が当主になって巫蠱さんを手に入れる筈だったのに、ってな」
もしかしたらどさくさに紛れて殺しに来るかもな、などと此方を脅かしてくる真希だったが為に又もや怪訝な表情を浮かべてしまう伏黒は、これまた露骨に『勘弁してくれ』と言わんばかりの溜め息を吐き出す。
まあ黙って殺されてやる程こちらもお人好し、と言う訳ではないので、その時はその時で普通に応戦するのだろうが。現状そのような輩に構っている暇もないし。
「…………」
「?なんだよ」
「いえ……改めて巫蠱さん、面倒な人に好かれやすいなって」
「あー……面倒、ってか、何かしら拗らせた人間な」
「五条先生も?」
「あれも立派に拗らせてただろ。初恋やら何やらと。最終的に執念で諸々手に入れやがったが」
「ああ……」
「オマエは拗らせんなよ」
「拗らせるも何も巫蠱さんが初恋だとは言ってないでしょう」
「なんだ、違うのか。大抵の奴は巫蠱さんなんだけどな」
「そう言うのは覚えてないです」
と言うことにしておこう。
根掘り葉掘り聞かれても困るし、今はそれどころではないので。
「で、これからどうすんだ?」
「津美紀の件もあるんで、先ずは虎杖を回収します。放っておくとアイツ、何でもかんでも自分のせいにして一人で突っ走りかねないんで」
「なら私は高専でオマエらの帰りを待っとくとするか。噂の特級術師にも話を聞いておきてぇし……どっちにしろ全員集まらねぇと今後の方針も役割も決めらんねぇだろ」
「ですね」
言うが早いか、別れの挨拶もそこそこに両名が踵を返す。
正直まだどちらも万全、とは言い難い状態なのだが、如何せん悠長に構えていられるほど時間的猶予も余裕も一切無いのである。
特に伏黒は義姉である伏黒津美紀が“とあるゲーム”に巻き込まれてしまっていることを知ってしまった為、尚のこと早く動き出さなければならなかったのだ。自分一人では
────なのに、
「アイツ、「
「頼れよ」、と言ってくれた肝心の虎杖悠仁は一体どこをほっつき歩いているのだろうか。
◆
【呪術総監部より通達】
一、夏油傑の生存の事実を確認。同人に対し再度の死刑を宣告する。
二、五条悟を渋谷事変共同正犯とし呪術界から永久追放かつ封印を解く行為も罪と決定する。
三、夜蛾正道を五条悟と夏油傑を唆し渋谷事変を起こしたとして死罪を認定する。
四、虎杖悠仁の死刑執行猶予を取り消し速やかな死刑の執行を決定する。
◆
五、虎杖悠仁の死刑執行役として「特級術師」乙骨憂太を任命する。
◆
「不安だなぁ……」
「宿儺の器」虎杖悠仁をこの手で確実に殺すために。
【呪いを内包している人の話11】
21.05.30
23.06.07:加筆修正