目を開けるとそこは白い天井だった。
「名前!!」
『マスタング……大佐……?』
「中尉、先生を」
「はい」
名前が目を覚ました為、マスタングは先生を呼んでくるようホークアイに指示した。
その会話を聞いて、ここは病院だと分かった。
よいしょ、と声を漏らしながら名前はゆっくりと起き上がった。体に痛みが走り、顔を歪ませながらもなんとか起き上がった。
そして起き上がると同時にマスタングは名前を抱きしめた。
『!!』
「無事で良かった……」
『あ、あの……』
名前は突然の事にアタフタする。
抱きしめられたため、再び体に痛みが走り“痛っ……”と声を漏らすと、マスタングは慌てて体を引き離した。
「すまない……。具合はどうだね」
『えっと……はい、平気です』
「早速で申し訳ないが、あの時何があったか聞かせてくれるかね」
『…………』
「君を責めているわけじゃないよ」
『違うんです……その……あの……覚えていないんです』
「……どういう事だね?」
『中央に行った事までは覚えているんですが……気付いたらこのベットの上で』
あの状況だ、無理もないな。と思い、この件についてはまた後日聞くようにした。
「分かった。無理に思い出さなくていい。では話を変えよう。君はこうなる事を知っていたのかね?」
『こうなる事……?』
「君の世界ではこの世界が書物になっていて、何が起こるか分かると言っていたじゃないか」
『私の世界って……どういう事ですか?』
「だから、君は異世界から来た……」
『マスタング大佐、さっきから何の冗談を……』
「そもそも、何故マスタング大佐なのだね。君は私の事をずっと“大佐”と呼んでいたのだが」
『何言ってるんですか、私ずっとマスタング大佐って呼んでましたよ?』
「…………」
マスタングは驚きを隠せず、言葉が出なかった。
「(あの時のショックで所々記憶が飛んでいるのか……)」
『マスタング大佐?私、何かしたのでしょうか?』
ガチャ
「名字さん、具合はどう?」
名前を担当している医師がホークアイと共に部屋に入って来た。
『あ、平気です』
「お腹の傷もそんなに酷くないし、検査して問題なければすぐ退院出来るでしょう。何か気になる所はありますか?」
『先生、私……一部の記憶がないみたいです……』
「え?」
初めて聞いたホークアイはおもわず声をあげ、驚くと同時にマスタングの顔を見た。
マスタングはゆっくりと頷くと、ホークアイは顔を歪ませた。
「ショックによる記憶喪失でしょう。時間が経てば戻るだろうから、焦らずゆっくり思い出していけば大丈夫ですよ」
そして医師は部屋を出て行った。
医師が出て行くのを確認すると、名前は再びマスタングに顔を向けた。
『マスタング大佐、何があったのか一通り説明してくださいますか?』
「……聞く覚悟はあるかね」
『…………はい』
マスタングの目つきが変わり、真剣な表情で名前を見た。
一瞬悩んだが、名前は覚悟を決め、キリッとマスタングに目を向けた。
「結論から言うと……ヒューズは死んだ」
『……え?』
「大通りにある電話ボックスで、名前とヒューズが倒れているのを憲兵達が見つけたらしい。ヒューズは頭を撃たれていて即死、だそうだ。そしてさっき葬儀が終わり、私と中尉がここに来たんだ」
『そ……んな……』
「きっと君の事だ。こうなる事を知ってて中央でヒューズの手伝いをしに行くと嘘をついたのだろう。ヒューズと電話した時、様子がおかしいと思っていたが……全てが繋がったよ」
『私……そんな事……知りません……』
「無理には思い出さなくていい。ゆっくり思い出していけば大丈夫だ。急に思い出して拒絶反応が出たら大変だ」
『でも……思い出さなきゃ……ですよね……でも怖いです……』
「大丈夫だ。私がずっと側にいる」
マスタングは再び名前を優しく抱きしめた。
『(何でだろう、不思議と落ち着く……)』
名前はマスタングの腕の中が心地良く、抵抗する事なく身を委ねた。
「犯人は名前の顔を見られたと思ってきっと狙ってくるだろう。しばらく1人にさせるのは危険だ。退院後、私の家に来てもらう」
『え!?』
「致し方ないですけど、許可します」
『ちょ、ホークアイ中尉まで……』
「中尉、今日はここに泊まって名前の護衛を頼む」
「はい」
『ホークアイ中尉すみません……』
「いいのよ、気にしないで」
ホークアイの優しい微笑みに、名前は眉を八の字にしながら申し訳なさそうにした。
「次は私達が名前を守る番だよ」
『マスタング大佐……』
マスタングは名前の頭をポンポンと撫でると、名前は少し頬を赤く染めた。
「では中尉、あとは頼む。何かあれば連絡をくれ」
「分かりました」
『マスタング大佐、ありがとうございました!』
「また迎えに来る」
『はい、よろしくお願いします』
マスタングが帰る準備をすると、名前は慌ててお礼を言った。
そしてマスタングが柔らかく微笑みながら言うのを見て、名前はまた頬を赤く染めながら笑顔でお礼を言った。
「記憶が無くなる前の名前ちゃんは、私の事“リザさん”って呼んでくれてたのよ。同い年なのにさん付けされるのは少し違和感があったけれど」
ホークアイがクスッと笑いながら名前に話しかけた。
『え!?私とホークアイ中尉同い年なんですか!?』
「そうよ、私もビックリしたわ。なのに“リザさんはお姉さん的存在なので今まで通りリザさんと呼ばせて下さい!”って」
ホークアイはあの時の事を思い出し、またクスクスと笑いながら話した。
『…………』
「ごめんなさい、気に障ってしまったかしら?」
名前の表情がどんどん曇っていくのを見て、ホークアイは申し訳なさそうに謝った。
『違うんです。私全然覚えてなくて……楽しかった記憶も無くなってるのかと思うと凄く悲しくなって……』
「やっぱり所々記憶が無くなってるのね……。でもこれからは前よりも楽しい思い出一緒に作っていきましょう。大佐が言った通り、辛い記憶を思い出してしまっても私達皆が名前ちゃんを支えるから安心して前に進みなさい」
ホークアイは名前の手に自分の手を重ねてギュッと握った。
『ホークアイ中尉……』
「今まで通り“リザさん”って呼んでちょうだい」
『はい、リザさん!』
ホークアイの優しい微笑みに、名前は胸が熱くなった。込み上げてくる涙を拭い、名前も笑顔で返した。
名前は自分の事をこんなにも思ってくれる人がいて、とても幸せだなとしみじみ思うと、再び目頭がジーンと熱くなった。
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16.08.17
ちょっと短めで申し訳ないですが、なんとかアップできました……
名前さん、まさか?の記憶喪失です。
ヒューズさんの事件だけではなく、その時のショックの反動で所々記憶が無くなっています。
なのでちょっと混乱するかもしれませんが、引き続きゆうなぎワールドにお付き合いいただければ幸いです!