そして翌日、再びエドの病室へ向かった。
「で、こいつに蹴られた後はもう覚えていない」
以前、エドとアルが第三研究所に進入した際に会ったエンヴィーの話をしていた。
「魂のみの守護者……貴重な人柱……生かされている……エンヴィーなる者……マルコー氏いわく、頭部内乱でも石が使われていた……」
「ウロボロスの入れ墨に賢者の石の錬成陣……」
「ただの石の実験にしては謎が多いですな」
「これ以上調べようにも今や研究所はガレキの山だしな」
「「「「うーーーーーん」」」」
謎が深まるばかりで皆はうーんと唸っていた。
『今更ですが、こういう話は場所を選んだ方がいいと思いますよ。誰が聞いてるか分かりませんからね』
「あ、名前は知ってるんだろ!?教えてくれ!!」
エドは名前がこれから起こる事を知っている事を思い出した。
『えーっと……』
コンコン
「失礼するよ」
しまったと思い、どう話題を変えようか考えてた時、タイミング良く彼が現れた。
「「「キング・ブラッドレイ大総統!!」」」
「ああ、静かに。そのままでよろしい」
「大総統閣下、何故このような所に……」
「軍上層部を色々調べているようだな、アームストロング少佐」
「はっ!?あ……いやその……何故それを……」
「私の情報網を甘くみるな。そしてエドワード・エルリック君。“賢者の石”だね?」
「!!」
「どこまで知った?場合によっては……」
険悪な雰囲気に名前以外、皆は冷や汗をかいていた。
「冗談だ!そうかまえずともよい!軍内部で不穏な動きがある事は私も知っていてな。どうにかしたいと思っている。だが……」
「あ……それは……」
ブラッドレイはテーブルに合った書類を手に取った。
「ほう……賢者の石の研究をしていた者の名簿だな。よく調べたものだ。この者達全員、行方不明になっているぞ。第五研究所が崩壊する数日前にな。敵は常に我々の先を行っておる。そして私の情報網をもってしても、その大きさも目的もどこまで敵の手が入り込んでいるのかもつかめないのが現状だ」
「つまり探りを入れるのはかなり危険である……と?」
「うむ。ヒューズ中佐、アームストロング少佐、名字少佐、エルリック兄弟。君達は信用に足る人物だと判断した。そして君達の身の安全のために命令する。これ以上、この件に首を突っ込む事もこれを口外する事も許さん!!誰が敵か味方かもわからぬこの状況で何人も信用してはならん!軍内部全て敵と思いつつしんで行動せよ!」
『それは閣下も含まれますか?』
「なっ!名前!」
あまりにも無礼な発言に、ヒューズは名前の肩を掴んだ。
「……まぁ、そういうことだな」
ブラッドレイは表情を崩す事なく答えた。
「閣下ー!!」
「大総統閣下はいずこー!!」
「む!いかん!うるさい部下が追って来た!仕事をこっそり抜け出して来たのでな!私は帰る!」
ブラッドレイは窓から出て行こうとしていたが、再び名前の方に顔を向けた。その表情はさっきの笑顔とはほど遠いほど冷たく、その場にいた皆は凍りついた。
「それと名字少佐、自分勝手な行動は身を滅ぼす事になるぞ」
『!!』
そしてブラッドレイはスタスタと帰って行った。
「……名前何かしたのか?」
気になったエドは恐る恐る名前に聞いた。
『……多分あの感じだと私の事を知っている。そして最後の言葉は警告……』
「警告?」
『大事な人柱候補だとしても“これ以上邪魔するなら殺す”って事でしょうね……』
「は??何言ってるか全然……」
「おい名前、お前何を知ってるんだ」
エドとのやり取りを見ていたヒューズは何か引っかかり、真剣な表情で名前を見た。名前はマズイと思い、とっさに顔を背けてしまった。
「あれ?どうしたのみんな、外の2人も固まってるし」
ちょうどウィンリィが病室に入ってきた。名前はヒューズから間逃れたと、ホッと胸を撫で下ろした。しかし、ヒューズはしばらく名前を睨んでいた。
勿論、名前はその視線を感じていたが、気付かないふりをしていた。
そしてエルリック兄弟は次の目的の為に明日出発する事になった。
「んじゃ俺と名前は仕事があるから司令部に戻るな」
「ヒューズ中佐、名前さんもありがとうございました」
アルが丁寧にお礼を言ってきてくれたが、そこは兄のエドが言うべきだろ、と心の中でツッコんだ。
『うん。3人とも気を付けて行くのよ』
そしてヒューズと名前は病室を後にした。
『ヒューズさん、約束しましたよね?』
「何の事だ?」
『東方に来た帰り、駅のホームで言いましたよね?』
「何を?」
ヒューズが知らないふりをして歩いて行く姿を見て、名前は怒りをあらわにした。
『余計な情報収集はやめて下さい、と言いましたよね?死にたいんですか!?』
「エドワード達が元に戻れる手がかりと思ってだ」
『もう本当にやめてください。閣下にも忠告されたでしょう?』
「お前こそどうなんだよ」
ヒューズは歩く足を止め、後ろを振り向き名前を睨んだ。
『何がですか』
「お前は一体どこまで、何を知ってるんだ」
『……言ったら殺されますよ、きっと』
「チッ……」
ヒューズは舌打ちをし、スタスタと歩いて行った。
「名前、コーヒーが飲みたい」
『ご自分でどうぞ』
「残念ながら今両手塞がってるんだよ」
『新聞読んでるだけじゃないですか』
「名前が淹れたコーヒーが飲みたい気分なんだよ」
『…………ブラックでいいんですか?』
「おう」
司令部に帰って来ると、何事もなかったようにヒューズと名前は普通に会話していた。
そして文句を言いながらも名前はコーヒーを淹れに給湯室へ向かおうとした足をくるっと戻し、再び顔を覗かせた。
『あ、ヒューズさん、勝手にこの部屋から居なくならないで下さいね』
「分かってるって」
『すぐ戻ってきますから』
「分かったって!」
そう言い残し、名前は早々と出て行った。
「ったくよー、俺は子供じゃないんだから……ん?」
新聞を読んでいるとある記事に目が止まり、内容を読むとヒューズは勢いよく立ち上がった。
「昔の記録を調べに書庫へ行って来る」
「え?あ、中佐!名字少佐に怒られますよ!」
ヒューズは返事もせず、バタバタと出て行った。
「イシュヴァールの内乱……リオールの暴動……そして……おいおい、どこのどいつだこんな事考えやがるのは……」
バタン
急にドアが閉まる音がすると、そこには漆黒の服を身にまとった髪の長い女性が立っていた。
「初めまして。それとも“さよなら”の方がいいかしら」
「…………イカす入れ墨してるな、ねぇちゃん……」
「知り過ぎたわね、ヒューズ中佐」
『インスタントコーヒーなんて誰が淹れたって一緒なのに。そもそも新聞読んでて両手塞がってるって言う人、ヒューズさんしかいないよ』
ふふふ、と名前は思い出しながらカップにお湯を注いだ。
ヒューズの分だけでなく人数分トレーに乗せ、先ほどの部屋へと戻った。
『あれ?ヒューズ中佐は?』
「調べ物をしに書庫へ行くと、さっき出て行きました」
「なんだか慌てた様子で……」
それを聞いた名前は青ざめ、ガシャン!とトレーごと床に落とした。
『嘘……』
「え?あ、名字少佐!?」
名前は急いでヒューズのいる書庫へ向かった。
『なんで早く気付かなかったかな、何のために来たのよ!!お願い、間に合って!!』
自分が完全に油断していた事に後悔でいっぱいになりながらも、全速力で走った。すれ違う人達は何事かと驚いていた。
『ヒューズさん!!』
バンッ!と書庫の扉を勢いよく開けたが、ヒューズの姿は無かった。
『くそっ!遅かったか!』
部屋には書類などが散らばり、壁や床には血痕が付いていた。
名前は書庫を出て血痕の後を辿って行き、電話交換機の元へ急いだ。
『ヒューズ中佐は!?』
「さっき出て行きました……ただ、血が……何かあったんですか?」
『っーーーくそっ!!!』
電話交換機の女性に確認すると、やはりラストにやられたのだと確信し、名前は壁をゴンと叩いた。
『至急、憲兵を大通りへ向かわせて!』
「え、あ、名字少佐!」
そう言い捨て、名前は急いで大通りへと向かった。
『嫌だ……死なないでよヒューズさん!私が……私が必ず助けるって約束したのにっ!!』
涙で目の前がボヤけるが、何度も涙を拭いながら息が苦しくても足を止めることなく走り続けた。
電話ボックスを見つけると、ドアの前に立っている人物が見えた。
きっと……奴だ……
「おいおい、カンベンしてくれ。家で女房と子供が待ってるんだ……ここで死ぬ訳にゃいかねぇんだよ!!」
「その女房を刺そうっての?いい演出だろう?ヒューズ中佐」
「くそったれ……」
ドスッ!!
「!?」
名前が錬成した槍がエンヴィーのお腹に刺さった。その攻撃を受けたエンヴィーは一体何が起こったのかすぐに理解出来ず、思考が止まっていた。
『そこを退きなさい』
「名前!」
「……お前……」
『もう1回死にたいの?エンヴィー』
パンっと素早く手を合わせ、再びエンヴィーに攻撃をした。
「くっ……」
エンヴィがヨロッとした瞬間、名前は一気に距離を縮め、鼻と鼻が触れ合うか触れ合わない所で、再び攻撃をした。
「っ!貴様っ!!」
エンヴィーはグレイシアの姿から元の姿へと戻った。
『遅くなりました、ヒューズさん』
名前はエンヴィーから守るよう、ヒューズの前に立った。
「すまん……」
『必ずお守りしますと、約束しましたから』
名前はチラッとヒューズを見て微笑んだ。
名前を見ると汗でシャツが少し滲んでおり、急いで来てくれたのだと認識した。更にその笑顔を見て、ヒューズは自分の為にここまでしてくれるのかと、泣きそうになった。そして、安心して腰が抜けたのかその場に座り込んだ。
「邪魔しないでくれる?アンタとはやり合う気はないんだよね」
『私は貴方を倒すまでここを退かない』
「アンタは大事な大事な人柱候補なんだから大人しくしてて貰わないと困るんだよね〜」
『それは貴方達の都合でしょ?貴方達に従うつもりなんて1ミリもない』
「はぁ……面倒な事になったな」
エンヴィーは額に手を当て、ため息を吐いた。
「そっちがその気なら仕方ない、てことで先にアンタを殺そう」
目付きが変わり、口元をニヤリとさせながらゆっくりと歩いて向かって来きた。
それを見て名前の表情に緊張が走った。
『ヒューズさん、その繋がってる電話で大佐に……』
バンッ!!
目だけをヒューズに向け、言い切る前にバンッと音がした後、名前の顔スレスレにヒュッと銃弾が通過し、振り向いた瞬間電話が破壊された。
「ねぇ、今僕と戦うのに他の事も考えられる程余裕なの?」
『チッ……』
「僕の事そんなに甘く見てると痛い目にあうよ?」
『ふん。人間のなりそこないが人間に勝てるわけないでしょう』
そのセリフを聞いてカチンときたのか、先ほどまでニヤリとしていた口元がキュッと閉じた。
「はっ、言うねぇ……異世界の…お嬢さん!!!」
ヒュッと一瞬で迫って来たが、背後にはヒューズがいるため避けられなかった。
名前はその一瞬で剣を錬成し、エンヴィーに向かって振りかざすが、簡単に受け止められてしまった。
力が強く、名前は押されていた。
『くっ……』
「ははは!いいねぇ!その苦しむ顔!!」
『私はまだまだやる事がある……こんな所で…負けるわけにはっ……いかないんだよ!!!』
「いたぞー!こっちだー!!」
『!?』
「チッ……」
ドスッ
『かはっ…!』
「名前!!」
ドンッ
「っ……!!」
『ヒ……ヒュー……ズさん……っ』
応援に来た憲兵に気を取られたその一瞬の隙をつかれてしまった。
「もがき苦しんでそのまま逝くといいよ。バイバイ、異世界のお嬢さん」
そう言い捨て、エンヴィーはその場を去って行った。
名前はお腹を刺され、ヒューズは頭を撃たれた。
名前のお腹からは大量の血が流れ、意識が朦朧としてきたのか目の前が霞みはじめた。ドクドクと脈打つ音がハッキリと聞こえた。
その中、振り絞った声でヒューズを呼ぶ事しか出来なかった。
『ヒュー………さ……ん……』
「名字少佐!!ヒューズ中佐!!」
憲兵が呼びかける声がどんどん小さくなり、名前の意識はそこで途切れた。
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16.06.27
生かすかどうか悩みました。