翌日、検査結果も問題なく無事退院となった。予定通りマスタングが迎えに来てくれ、3人でイーストシティへと向かった。
それから数日経ち、マスタングの家に引越しするため名前の荷物まとめを始めた。今日はマスタングが休みを取り、1日かけて一緒に作業をすることになった。
今までは司令部の皆が日替りで手伝いに来てくれていた。
おかげで8割は片付いてきている。
『今日はお休みなのにありがとうございます、大佐』
「気にするな。一気に片付けてしまおう」
名前はホークアイの事を記憶を失くす前と同じ"リザさん"と呼ぶ事にしたと同時に、マスタングの事も"大佐"と呼ぶ事にした。マスタングは何処と無く嬉しそうにしていた。
そして今日は小物系を整理しようと、名前は小物収納ボックスに手をかけた。
『え』
「どうした?」
引き出しを開けるとある物が入っており、予想外な物に名前は思わず声が出てしまった。
その声を聞いてマスタングがゆっくりと近付いてくると、慌てて引き出しを閉めた。
「何か入っていたのか?」
『え、いや、えーっと、何もなかったです』
名前はグルッと振り向くとしどろもどろに答えてしまい、あからさまに“何かあった”アピールになってしまった。
「ほう?」
『大佐の方、まだ片付いてませんよ?』
「見せられない物が入っていたのかね?」
『だから何も入ってませんてば〜』
あはは と誤魔化すが、勿論マスタングには通用しない。
「そうまでされると気になって仕方がないのだが」
『逆に何も入ってなくてビックリしただけですよ』
「なら何故そこを守るかのように立っているのだね」
『ここは今、私が片付けているからです』
「ほう、どうしても私に見られたくない物が入っているようだな」
『しつこい人は嫌われますよ……って、近い!近すぎます!!』
マスタングは徐々に距離を詰め、マスタングの顔が目の前に迫ってきた。
「いいのか?このままだとキスしてしまうぞ」
『セクハラですよ!』
「んじゃそこを退ければいい話だ」
『大佐には関係ないです!自分の持ち場に戻って下さい!って、ちょ!!』
どんどんと顔が近付いて来るが、引き出しを押さえているため両手は塞がっているので、顔を背ける事しか出来なかった。
「名前」
『っ……』
マスタングは名前の首筋に顔を埋めると、名前は目をギュッと力強く閉じた。
そして次の瞬間、チクっと首筋に電気が走ったような痛みに思わず首筋に手を置いた。
『いたっ……!ちょ、大佐!』
「すきあり」
その瞬間、マスタングは身動きが出来ない程片手でギュッと力強く抱き、もう片手で引き出しに手を伸ばした。
『あ!』
「……」
引き出しを開けると、小さな箱が入っていた。その形はよく見た事のある箱だった。
「名前、これは……もしかして……」
『……多分、大佐が思っている物だと思います……』
「中身を見ても?」
『……どうぞ』
マスタングは恐る恐るその箱を開けると、キラッとダイヤが光るリングが入っていた。いわゆる、婚約指輪だった。
「……名前、君は婚約中だったのか……誰から貰った物だね」
『……覚えてません』
「嘘をつくな」
『嘘じゃありません。だから引き出しを開けた時に驚いたんです』
「そこの記憶も無くなっているわけか……」
マスタングは元にあった場所に箱を置き、引き出しを閉めた。
「さて、片付けを再開するか」
そう言うと、マスタングは自分が片付けていた場所へと戻って行った。
『?』
さっきの強引さとは打って変わって、急に大人しくなったマスタングの姿を見て名前は違和感を覚えながらも、片付けを再開した。
そして作業から3時間経ち、時計の針がお昼の1時を回っていた。
『大佐、そろそろお昼にしませんか?』
「ああ、もう1時か」
『この辺だと近くにパン屋があったので、そこでも良ければ買いに行きませんか?』
「ではそうしよう」
『(普段と変わらない会話なのに、やっぱりおかしい。
指輪を見つけてから大佐は私の目を見て話してくれなくなった。)
なんで目を合わせてくれないんですか』
「……」
『指輪を見付けてからおかしいです。なんでそんなふうになってるんですか』
「そんなことはない」
『そんな事あります。私が婚約中と分かって何か大佐に不都合でもあるんですか?』
「大有りだろう」
『え?』
やっと目が合ったと思ったら鋭い目つきで見られ、名前は反射的にビクッと肩が鳴った。
「婚約中なのに他の男の家に同棲中なんてあり得ないだろう。しかもひと時たりとも離れずに生活を共にしている。相手がこの事を知ったらと思うと気が気ではない」
『だって、大佐が守ってくれるって言ったじゃないですか』
「それとこれとは……」
『今は記憶にない彼よりも、大佐に守ってもらいたいんです』
「名前……」
『記憶が無くなってから1週間近く経ちますが、何も連絡もありませんし会いにも来ません。そんなのが婚約者と言えますか?むしろ彼の方が酷いです。それと比べてずっと側にいてくれる大佐と一緒に居たいと思っちゃいます』
「……これは告白と捉えてもいいのかね?」
『え!あ、いや、そういうつもりで言ったのではなく……』
名前はハッと我に戻り、大胆な告白とも捉えられるであろう事を言った事に顔を赤く染めた。
「すまない。私も大人気なかったな」
マスタングは名前に近付き、謝りながら頭をポンポンと撫でた。
『もういいですよ。パン買いに行きましょう。私お腹ペコペコなんです』
いつものマスタングの笑顔にホッとし、名前も笑顔で返した。
その前に片付けで汚れた手を洗おうと名前は洗面所へ向かった。
数秒後名前の悲鳴が聞こえたが、マスタングはその原因が分かっていたためプッと吹き出していた。
「キスマーク付けていたの忘れていたな」
マスタングは名前が顔を真っ赤にして首筋に手を置きながら戻ってくるのを見て、またプッと吹き出して笑った。
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16.10.15
久々の更新です。お待たせしました!
完全オリジナルになりました。