「なぁ、名前〜」
『嫌です』
書類整理をしていると突然ハボックから声をかけられたが、嫌な予感しかしなかったので即答でNOを突き付けた。
「なっ!まだ何も言ってないだろ!」
『そもそも年下の貴方に呼び捨て、しかも名前で呼ばれなきゃいけないの』
「お前、妹っぽい存在だし?」
『ハボック少尉は減給を望んでいる、と大佐に伝えて来ようかしら』
「ちょ、待て!すまん、調子に乗り過ぎた……実はお願いがあるんだ」
『…………』
ガタッと席を立とうとするとガシッと肩を捕まえられ、チワワのようなウルウルの目で名前を見てくるので、名前は仕方なく話だけは聞いてあげるか、と思い再び椅子に座った。
しかし、絶対ロクなお願いじゃないな、と名前は露骨に嫌な表情でハボックを睨んだ。
『そのお願いは私にとってメリットはあるの?』
「それは……ない……かも?」
『んじゃこの話はなかった事に』
「えええ!名前しか頼める奴いないんだよ、頼むよ」
この通り!と手を合わせ、必死さがひしひしと伝わってきた。それを見て名前は大きなため息を吐いた。
「焼き肉奢るから!!」
『…………』
「1回……いや2回奢るから!!」
『し、仕方ないなぁ、ハボック少尉がそこまで言うなら聞いて差し上げても良くってよ』
絶対焼き肉に喜んでる!!
と、その場にいたファルマン、ブレタ、ヒュリーは心の中で思っていた。
現在、マスタングとホークアイは市内視察中でいないのだ。
『それで、お願いって?』
「俺の彼女のフリをして欲しいんだ」
『は?』
「俺の彼女のフリを……」
『…………』
想定外なお願いに名前の頭は思考停止していた。
『なんで……?』
「ほら、中央に異動なるだろ?俺彼女いるんだけど大佐に別れてこいって……」
そうなのだ。私が入院中に中央異動命令が出たのだ。勿論、私も行く事になった。
『遠距離じゃダメなの?』
「中央と東方だぜ?休みも少ないのに会いに行けないし……」
『俺に着いて来い、じゃダメなの?』
「いや、そこまで経済力ないし……」
『ダメ男だな……』
「俺なりに頑張って働いてんだよー!」
『んじゃハッキリ伝えればいい話じゃない。本当は連れて行きたいが経済力ないし、遠距離は無理だって』
「だから、新しい彼女のフリをして諦めさせたいんだよ」
『そんな事したら恨まれるわよ!私を巻き込むな!』
「んじゃどうしたらいいんだよー」
ハボックは机にうな垂れ、泣きそうになっていた。
『ったく女々しい男ね!男なら男らしく1人でビシッと白黒付けて来なさいよ!』
「出来ないから名前にお願いしたんだろ!」
「名前、最近ずーっとこの調子なんだ。協力してやってくれないか?」
話を聞いていたブレタが“仕事にならなくて大変なんだ”とため息を吐きながら言った。
ファルマン、フュリーもうんうんと大きく頷いていた。
『はぁ……同僚にまで迷惑をかけるなんて情けない……。本当に今回だけだからね?協力はするけど話はちゃんと自分でしなさいよ!』
「ありがとう〜名前!!!」
俯いていたハボックは勢いよく顔を上げ、名前の手を取りブンブンと腕を振った。
「んじゃ早速明日頼むな!」
『明日ぁ!?基本大佐と休み取らないといけないんだけど…例の件で』
「少し抜け出すだけでいいんだ」
『それ大佐に許可取ってあるの?』
「これから取る」
『はぁ……』
何故か自信満々に言うハボックに、名前は額に手を当て、本日3回目の大きな溜息を吐いた。
「で?明日2人で抜け出したいと?」
「だって大佐が別れろって言ったんすから。責任取って下さいよ」
『…………』
マスタングが視察から戻ってきて早々、ハボックと名前は許可を取りに執務室へ。
名前は未だに気分が乗らず、無表情で立っていた。
「名前に何かあったらどうするんだ」
「お、俺が守りますから!」
『大佐が変な事言うからですよ』
「仕方ない。ならば私も行こう」
「『は?』」
「ハボックに名前を守れる気がしない。何かあった時の為だ」
『責任者がここを離れていいんですか……』
「なに、小1時間くらいなら大丈夫だ」
シレッと言うマスタングに2人は唖然としていた。
「ホークアイ中尉から許可貰わなくていいんすか」
「中尉も快く承諾してくれるさ」
「ならいいっすけど……んじゃ頼みます、大佐」
そして次の日、ハボックの別れ話大作戦のため3人は待ち合わせしているカフェへ向かった。
「中尉、よく許してくれましたね」
「名前を守らねばらないからな」
『私を出しに使うなんて最低ですね』
会話をしながらカフェに着くと名前とハボックはカフェのテラスを見渡し、マスタングは少し離れた席に着いた。
『もう来てる?』
「いや、まだ来てないみたいだな……」
『はぁ……なんかドキドキする』
「にしても名前のその格好、軍服とギャップがあり過ぎて戸惑うわ」
ハボックは可愛い系の服が好きと聞いていたので、それに合わせてネイビーのワンピースに白のカーディガンを羽織った、大人可愛い服を選んで着てきたのだ。
『どういう意味』
「可愛いって言ってんだよ」
『なっ!だからなんで年下のくせに上から目線なの!』
「とりあえず飲み物頼んでおくか。名前は何飲む?」
『っ〜〜!!私紅茶!!』
突然の褒め言葉に名前は反射的に照れてしまった。
そしてそれから5分程経った頃、1人の女性が声をかけてきた。
「ごめんなさい、遅くなって」
「あ……急にゴメン。ちょっと話があってな」
「えっと……そちらの方は?」
『名前 名字と申します』
「ジャン、どういうこと?」
ハボックの彼女は突然の事で戸惑っていた。
その表情を見て名前は心が痛んだ。
「俺、この子が好きなんだ。だから別れて欲しいんだ」
「ちょっと待って。意味が分からないんだけど……」
「この子と付き合いたいから、お前と別れたいんだ」
「待ってよ、なんで?私の事嫌いになったの?私と付き合ってる時、こそこそ会ってたの!?」
彼女の目から涙がポロポロと溢れはじめ、名前は彼女を見ていられなかった。
バチッと目が合ったが、鋭い眼差しだった。
「貴女も彼女いるって知りながら彼と会ってたの!?」
『えっと……』
「名前は関係ない。俺が一方的に好きになって会ってたんだ」
「どちらにせよ、2人共最低よ!!」
ついにその女性は手で顔を覆い隠し、わーんと泣き出してしまった。
周りからの視線がどんどん集まってきて居心地も悪くなってきた。
『ごめんなさい……全部嘘なんです』
「え?」
「なっ、名前!」
『もう見てられない。やっぱりちゃんと本当の事言ってあげようよ』
「どういう……こと?」
あまりにも彼女が可哀想で名前はもう我慢の限界だった。
『今度ハボック少尉が中央に異動になるんです。それで本当は貴女を連れて行きたいけど、そこまでの経済力もないし遠距離も無理だから別れるしかないって結論に至ったみたいで。だから私が彼女のフリをして別れるという事にしたかったようなんです。本当にごめんなさい』
名前は席を立ち、深々と頭を下げて謝った。
「貴女とジャンはどういうご関係なの?」
『私はハボック少尉の上司です。恋愛感情は一切ありませんのでご心配なく。あとは2人でちゃんと話合って下さい』
「名前すまん……」
「ジャン、どういう事なの!?」
これから暫く続きそうだな、と横目に見ながら名前はマスタングの元へ向かった。
「なんだかグダグダになってしまったな」
『もう彼女が可哀想で見てられなくて……』
「結果的にはこれで良かったのかもしれないな。さて、このままデートでも、と言いたい所だが戻らないとだな」
『リザさんに怒られますからね』
フフフと笑いながら名前はマスタングに顔を向けた。
「名前、本当に綺麗だ」
『っ!?なっ、何を言い出すんですか!』
突然の不意打ちに名前の顔は一瞬で真っ赤になった。恥ずかしさのあまりに顔を背けた。
「普段の名前も好きだが、こんなにも綺麗になるとは驚いていてね」
『(てゆうか、今サラッと"好き"って言った!?ちょっ…どゆこと!?)たっ…大佐目がおかしいですよ、眼科行った方がいいですよ!』
「本当の事を言っただけだが」
『だーー!もーー!帰りますよ!!』
このままじゃ身が持たないと思い、名前は強引に話を切り上げ、早歩きで司令部へと向かった。
「照れる姿も可愛いな」
マスタングは名前に聞こえない声でボソッと呟き、名前の後を追った。
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16.11.12
9割ハボック夢になってしまった。
ハボックとのやり取りがしたかっただけです、、、