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「名字少佐、お隣よろしいですか?」
「「……?」」

中央への引越し準備に追われている中、ひと段落ついたのでマスタングと名前が食堂でお昼ご飯を食べていた所、突然名前に声をかけてきた男性を見て、マスタングと名前は“誰だコイツ”と目が点になっていた。

『えっと……どちら様ですか?』

見覚えのない顔に名前は思わず聞いてしまった。
そもそも大佐という上官がいるにも関わらず、マスタングを無視して堂々と名前に声をかけてくるのにも驚きだ。普通ならば先に上官へ挨拶をするのが常識だろう。
そしてマスタングは無言でご飯を食べ続けていた。

「あ、あの……少しお話が」
『……罰ゲームであればこういうのやめて下さい。大佐にも失礼ですよ』

名前は周りを見渡した時に、ニヤニヤしながらこっちを見ているグループが居たのを見つけ、罰ゲームだと確信した。
大佐もきっとそう思っていたので口を出さなかったのだろう。

「え……いや……あの……」
『聞こえませんでしたか?』
「……っすみませんでした!」

名前はギッと睨むとその男はマズイと思い、慌てて逃げて行った。

「やれやれ、名前は手厳しいねぇ」
『分かってたなら助けて下さいよ』
「名前の怒る姿を見たくてね」
『悪趣味ですね』
「何とでも言いたまえ」

名前は止まっていた手を再び動かしながら、ニヤニヤしているマスタングを軽蔑する目で見た。

「最近やたらと声をかけてくる虫が増えてきたな」
『虫って……。でも正直迷惑です』
「最近の名前は雰囲気が柔らかくなってきたからな」
『そうなんですか?』
「記憶を失くしてからかな。前は少し堅い感じもあったからな。それはそれで悪い虫が近寄らずよかったのだが」
『でも私は一刻も早く思い出したいです。真実を知ったらショックを受けそうですけど……』

“内容が内容なんで”と付け加え、名前は目の前のご飯を黙々と食べ続けた。

「心配ない。その時は私が頭の先から足のつま先まで癒してあげるよ」
『なっ!何言ってるんですか!そんな関係じゃないですし!ていうか、場所をわきまえて言って下さい!!』
「おっと、これは失礼」

周りにいた軍人はイチャイチャしやがってと白い目で2人を見ており、それに気付いた名前は慌てて否定をした。
マスタングは名前の反応を見て、満足げな顔をしていた。
名前は案の定、赤面していた。

名前は気を紛らわすかのように、再度止まっていた手を動かし、かき込むようにご飯を食べ始めた。
マスタングはその姿を見てクスクスと笑っていた。

『午後は荷造りのラストスパートですね』
「そうだな、私達の愛の巣へ向けてもしっかり荷造りしないとな」
『……』

頑張って話を変えたのにも関わらず、あっという間に戻されてしまった名前は言葉を失った。

「おや?否定はしないのかね?」
『〜〜っ!もう知りません!!』

名前の顔はまた一瞬でボッと赤くなり、恥ずかしさを隠すよう空になった食器が乗ったトレーを持ち、片付けに行った。

「可愛いだろ?私の名前は」

やり取りを隣で見ていた軍人に話しかけると"はあ……"と困ったような返事が返ってきた。

そして名前はトレーを片付け、そのまま食堂を出て行った。
それを見てマスタングもトレーを片付けるため立ち上がった。




「名字少佐!」

名前が食堂を出て執務室へ戻る方向と逆から声をかけられた。
名前が振り向くとそこには、先ほど声をかけてきた軍人が立っていた。
名前は"またか"と思いながら再度周りを見渡したが、今度はどうやら1人だけのようだった。

『……今度は何ですか?』
「先ほどは失礼しました」
『別に気にしてません。用件はそれだけ?それでは』
「あ、待って下さい!」

名前は執務室へ向かおうと背を向けた時、再度その軍人に呼び止められた。
"まだあるの!?"と言おうとした瞬間、食事を終えた人達がぞろぞろ出て来て会話が一度途切れた。

入り口で話していたので邪魔になると思い、名前は仕方なくその軍人の所へ移動した。

『まだ何か?』
「すみません……名字少佐はもう少しで中央に移動と聞きました。なので最後にお話したくて……」
『先ほどの罰ゲームとは関係あるのかしら』
「いえ!あの時も本当にお話したかっただけで……そしたら周りが今行け、と言ってきたので……」
『成る程、そういう事だったの』
「それで……良ければ今夜食事……あ…」
『っ!?』

突然背後から抱きしめられ、名前は声も出ない程驚いた。
一体誰?と思い振り向き、確認すると名前はその人の予想外な行動に言葉が出なかった。

「マ……マスタング大佐……」
「やぁ。先ほどもお会いしたかな?私の大事な部下に何かご用かね?」
「えと……名字少佐にお誘いを……」
「ほう?」

マスタングはその軍人を睨み、抱きしめていた手を更に力を入れ、名前をグッと引き寄せた。

それを見せつけられた軍人は動揺を隠せず慌ててその場を離れて行った。

そしてその痛さに名前はハッと我に返った。

『ちょ、大佐っ!離して!』

名前はマスタングの腕の中でもがくが、鍛えられた身体にはビクともしなかった。
密着しているため、マスタングの匂いがフワッと香った。

『(大佐の匂い……クラクラする……)』

名前が突然ガクンと崩れ、マスタングは慌てて名前を支えた。

「名前!?」
『……離して下さい』

名前は小さな声でマスタングに言ったが、マスタングは聞き取れなかったようで「ん?」と言い返した。

『離して下さい!』

突然の大声にマスタングは慌てて抱きしめていた手を緩めると、名前はパシッとマスタングの手を払いのけた。

『いつも人の気持ちも考えずに……こういうの本当にやめて下さい!』

名前はそう言い捨て、その場から逃げるように走って行った。

「やり過ぎたか……」

マスタングは渋い顔をし、ガシガシと頭を触った。


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17.01.06

久々の更新になってしまいました…お待たせしてすみませんでした。
しばらくオリジナルが続くと思われます。

大佐の匂いにクラクラする、という表現は好きな人の匂いに酔ってしまうというか…キュンとしてしまうというか、そんな感じです(投げやり)