マスタングは執務室へ戻り、部屋を見渡すが名前の姿は見当たらなかった。
「名前はどうした?」
「名前ちゃんなら1人で見回りに行くと出て行きましたが」
近くにいたホークアイが書類の整理をしていた手を止め答えた。
「1人でか!?何故止めなかった!」
「大佐が許可したと言っていましたが違うんですか?」
「そんな事許可するわけなかろう!」
「また何か嫌がられる事したんじゃないですか?」
ホークアイはため息混じりでキッと大佐を睨むと、マスタングは"うっ……"と言葉を詰まらせた。
「ゴホン……。と、とにかく私は探しに行ってくる」
「ダメです!」
「なっ!?」
「大佐が行けば逆効果です。そんな事も分からないなんて馬鹿ですか貴方は。ハボック少尉、名前ちゃんを探してらっしゃい」
「へいへい……」
「なっ……中尉、上官に向かって馬鹿とは」
「はい、言いましたけど何か?」
ギロッと鋭い目つきでマスタングを睨むと、マスタングは"いえ、何も……"と小さくなっていた。
それをよそ目にハボックは渋々と執務室を出て行った。
『はぁ……。大佐の顔見れない気がして出てきちゃったけど何かあったらどうしよう』
無我夢中で出て来てしまった名前は、少し歩いて冷静になったのか司令部を飛び出して来た事に後悔し始めていた。
『いやいや、私国家錬金術師だし何とかなるっしょ!』
「あの……」
『ひやぁぁ!!』
突然声をかけられ、思わず変な声が出てしまった。
恐る恐る振り向くとそこには、スーツを着た白髪の老人が困った顔をして立っていた。
「お嬢様を助けていただけませんか」
『……は?』
「どうしても貴女に……お嬢様とソックリな貴女に助けていただきたいのです!」
『え、あの、ちょっ!何ですか!?』
肩をガッシリ捕まえられ、突然の事で名前はパニクっていた。
「お嬢様のお命が……」
うううっ…とその老人はうなだれ、周りの目がどんどんこっちに集まって来るのが分かり、更に焦った。
「名前!」
『ハボック少尉!?どうしてここに』
どうしようとあたふたしていた所、ハボックが息を切らせてこちらに向かって来た。
「どうしてって、お前を探しにきまってるだろ。大佐も凄い心配してたぞ」
『だって……。でもごめん、ありがとう』
「おう、それ大佐と中尉にもちゃんと言えよ」
ハボックは名前の頭をポンポンと撫でた。
「それで、そちらさんは?」
『あ、そうなんです。私にソックリなお嬢様を助けて欲しいらしくて……』
「なんじゃそりゃ?まぁ、とりあえず司令部でお話伺いますので」
「本当ですか!?ではこちらへ」
演技だったのか、と思うほどその老人の顔がパッと切り替わり、近くに停めてあった車へ案内された。
『勝手に出て行ってすみませんでした』
名前は執務室に入ると同時に、マスタングに1人で司令部を飛び出して行った事を謝った。
「全く……何も無かったからいいものの、何かあったら今まで一緒に行動していた意味がなくなるだろう……と、説教は後でだ。それで、そちらの方は?」
お怒りモードから仕事の顔に戻ると"見苦しいものを見せてしまい、すまない"と、マスタングはひと言添えた。
『この方がお嬢様を助けたいとの相談が……』
「申し遅れました。わたくしマロン家、クレアお嬢様の執事をしておりますチャドと申します。実は、来月にお嬢様の結婚式が行われるのですが"お嬢の命をいただく"との脅迫の手紙が届きまして……。悩んでいる矢先にお嬢様とソックリのこの方にお会いしまして」
「つまり、名前がお嬢様の身代わりになって死ねって事すか?」
話を聞く限りそのように聞こえてもおかしくない説明に、ハボックは思わずポロっと言ってしまった。
「そうは言っておりません!ただ、何か方法があるのではと思いまして……」
「状況は分かりました。何とかしましょう」
「大佐、いいんすか?」
あっさりと承諾したマスタングに、ハボックは慌てて反論した。
「心配するな、名前を危険な目に遭わすものか。ではチャドさん。早速そのお嬢様とお話をしたいのだが」
『どれだけ似ているのか、私も会ってみたいです』
「では明日はいかがでしょう?」
チャドはスケジュール帳を取り出し、日程を確認しマスタングに伝えた。
「うむ、では明日伺うとしよう」
「ありがとうございます。お待ちしております。では今日はこれで失礼いたします」
『あ、私お見送りします』
チャドは皆に深々と頭を下げ、名前と一緒に執務室を出て行った。
「今回は本当に申し訳ありません」
『いえ、最初はビックリしましたが……そんなに私と似てるんですか?』
「似てるというか、もはや本人ではと思うほどです」
『そうなんですか。明日会うの楽しみだな〜』
「お嬢様に伝えたらきっとお喜びになりますよ」
チャドはニコっと微笑んだ。
クレアお嬢様の事が本当に大切なんだな、とその微笑みからひしひしと伝わってきた。
「では明日はよろしくお願いいたします」
『はい、こちらこそ』
そして司令部の門前まで見送り、挨拶を交して車に乗り込み帰って行った。
『戻りました〜』
「名前、ちょっと来なさい」
『う"っ……』
チャドを見送り執務室に戻って来て早々、マスタングに呼ばれた。
『さっきちゃんと謝ったじゃん……』
「聞こえているぞ」
ボソッと呟いたのにマスタングの耳に届いてしまった。
"地獄耳め……"と思いながら名前は渋々マスタングの所へ向かった。
『何でしょう……』
「すまなかった」
『……へ?』
予想外な言葉に名前の頭には「?」が浮かんでいた。
「私も調子に乗ってしまってすまなかった」
『え……あ……いや……はい…』
「だが、勝手に出て行った事は許しがたい」
『はい、それは反省しています……』
「もう少し危機感を持ちたまえ。私の寿命が少し縮んでしまったぞ」
『すみませんでした……以後気をつけます』
「……もう大切な人を失うのが嫌なんだ……
さて、この話は終わりだ。仕事に戻りなさい」
『……はい』
それは名前にしか聞こえない程の小さな声だった。
マスタングはどこか寂しそうな目をしているのを見て名前は、自分の行動が軽率だったと改めて反省した。
そして、そんな目をさせてしまった自分に嫌気がさした。
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17.01.27
そもそも勤務中に出て行くとか有るまじき行為ですよね〜〜笑
そして今更なのですが、皆が仕事してる場所は執務室?司令室?どちらなのでしょう。。未だに理解していません、、、
今まで司令室として来ましたが、もしや執務室?と思って今回から執務室と書きました。ハッキリ分かったら修正します。