#1 [聖アローズにて]
「陸王さん…聖アローズとの練習試合どうなりましたか?」
「……あぁ?…うるせぇ!黙ってろ!!」
「…なんか陸王さん、スゲー機嫌わりぃな………」

ここは俺が主将を務める荒崎中の闘球部の部室。
怒りを露にする俺に白川や滝は手が付けられない様だ……心配する仲間には悪いが、俺はとにかく機嫌が悪くて仕方ない。


事の発端は、今度予定されていた聖アローズ中等部との練習試合……

「…あぁ?何で俺が行かなきゃいけねーんだよ!」
校長室に呼び出された俺は激しく怒っていた。
俺の目線の先にはあの俺の苦手な女の校長… 小学校の校長だったくせに、俺の中学進学に合わせて今度は中学の校長になったらしい。
どんだけ俺が心配なんだよ!
しかもこの校長…俺に聖アローズに行って、直接練習試合の申込用紙を渡してこい…なんて言いやがる!
なんで俺がそんな事しなきゃいけなねーんだよ!

「…冬馬くんは聖アローズには行った事ある?」
「あるわけねーだろ……」
「… 冬馬くんは主将ですからね。違う学校を見るのもいい勉強になる筈よ!」
「… はぁっ?………」
何が勉強だ… こいつ…いつもニコニコしやがって………
俺はこの校長がなんとなく苦手だ。妙に俺の世話を焼いたり、心配したり……この校長にニコニコされると、そういう事に縁のない俺は心の奥がなんだかむず痒くて仕方ない。

「………わかったよ…」
まぁ…行かなくてもわかんねーか…とりあえず返事だけ…なんて腹の中で思っていたら…
「冬馬くん、返事だけではダメですよ!闘球部主将として必ず行ってね!」
……長い付き合いの校長には、俺の魂胆はお見通しだ。

「わかったよ!行けばいいんだろ!行けば!」
校長室を飛び出す様に後にした俺は、嫌々ながら部室で申込用紙を書くが…とにかく面倒な俺は適当に殴り書き…その字はひどく歪んでいるが直す気にもならない。

…確かに練習試合はしたい。俺のチームは荒いプレイスタイルで有名だ。ゆえに、怪我を恐れる相手からは試合を断られる事も珍しくない。聖アローズとの試合も貴重な一戦…チームのメンバーの為にもできれば練習試合をさせてやりたい。
俺はそんな事を考えながらなんとか申込用紙を書き上げると滝に残りの練習を任せ、聖アローズへと向かった………


聖アローズ学園は荒崎からはそう遠くはないのだが、俺は実は一度も行った事はない。金持ちの学校だとは聞いている…だから、なおさら興味はない。
…荒崎から暫く歩くと、聖アローズが見えてきた……

「…はぁー……なんだこりゃ………」
俺は聖アローズの校門前で校舎を見上げ、呆気に取られる。
初めて見る聖アローズはまるでどこかの豪邸…豪華な装飾を施した玄関…整った設備…噴水まである…何からなにまできらびやかで華やか…一見すると、とても学校に思えない。
金持ちの学校だとは聞いていたが、ここまでとは……

聖アローズ学園はまだ歴史の浅い私立学校だ。高校までの一貫校らしい…受験がないのは羨ましいけどな。
私立校ながら、闘球部は以前から強豪チームとして名を馳せている。主将は確か…二階堂ってヤツ。後は…なんとかまてんとか言う奴らもいるらしい…
とにかく俺らの様な荒くれチームとは全く縁のない育ちのいい上品なチームだ。そんな優等生チームが何の因果で荒々しい俺の荒崎と練習試合をする事になったのか…
俺の脳裏にあの校長の笑顔が浮かぶ……
しかも、何で俺がわざわざ申込用紙を持って行かなきゃいけねーんだよ!

……早く終わらせてさっさと帰ろう!
自分には似合わないこの華やかな学校に違和感たっぷりの俺は、足早にアローズの校門をくぐった。

「…すまねぇなぁ……闘球部のヤツらはどこにいるんだ?」
「……あ…あの……」
そこら辺にいる品の良さそうな生徒何人かに聞くと、闘球部のヤツらはどうやら室内の練習場にいるらしい…それにしても俺が聞いたヤツら…なんであんなに俺に怯えてんだよ!俺はなんもしてねーし!ただ聞いただけなのによ…まぁ確かにちょっと威圧的な言い方はしたかもしれねーがな…ははっ…

校内に入り、また他の生徒に聞きながら俺はなんとか闘球部の室内練習場に辿り着いた。そこには数人の闘球部員と思われるヤツらが練習の準備をしている…俺はその一人に近付くと声を掛ける。

「なぁ、お前闘球部か?」
「……はっ…は……い」
ダメだ…こいつも怯えてるぜ…
こんな下っ端じゃ話にならねーかとも思ったが、他のヤツを探すのも面倒だ。俺は取りあえず事の成り行きを簡単に説明する。

「……てな訳だ。悪いがこの紙をお前らの主将の二階堂ってヤツに渡してくんねーかな?…」
「……」
すっかり怯えてなにも言えない部員に紙を半ば強引に押し付け、俺は足早に立ち去る。
…はぁー…やっと終ったぜ…早く帰ろ…
俺は元来た道を再度戻り、校舎を後にする………筈だった!

「………ヤベェ……ここどこだ?………」
俺はまるで迷路の様な複雑な造りのアローズの校舎の中で完全に迷子…………なんなんだ!この迷路みてーな学校は?!金があるからってなんでも複雑に作りやがって…!
手入れの行き届いた豪華な校内をあっちへ行ったりこっちへ行ったり………

「…おい…出口はどっちだ?…」
途中、出会う生徒に強引に出口を聞きくが、殆どの生徒は怯えて黙ってしまう…俺はとにかくイラつきを抑え、なんとか校門まで戻ってきた。
さっさと帰るつもりがえらい時間が掛かってしまったじゃねーか……

「…はぁー…早く帰ろう……」
場違いな空間に疲れた俺が校門を出ようとした時、誰かに呼び止められる……

「…君が荒崎の陸王くん?」
俺に声を掛けてきた人物…なんとなく顔は解る。確かこいつは二階堂…聖アローズ闘球部の主将だ。手には俺の書いた申込用紙らしきものを持っている…
どうやら、俺が校内で右往左往してる内にしっかり二階堂に渡っていたらしい。
俺も一応荒崎闘球部の主将だ…面倒ながらも挨拶をしようと二階堂に近寄った。

「…あぁ、俺は荒崎の陸王冬馬……今度の練習試合、宜しく頼む… 」
「ひどい…ひどすぎる……」
「…は?」
俺が挨拶を終えない内に、二階堂は申込用紙を俺に見せて呆れた様に言った。

「君のこの申込用紙…間違いだらけじゃないか!」
「…はぁっ?」
「漢字の間違い!文書の間違い!おまけに字も汚い!よくこんなのを持ってきたね!」
初対面の二階堂の激しい言葉に、俺の我慢も限界……

「…なんだと!」
「人に読んで貰う書類をこんな適当に書いてはいけないよ。僕はこの申込用紙、受け取れない!書き直してきたまえ!」
「…はぁ〜??何なんだよ!黙って聞いてりゃあ…」
二階堂の態度にカッとした俺は思わずその胸ぐらに掴みかかろうとする。

「おっ…おい!!やめろ!大河様に何してるんだ!」
慌てて俺と二階堂の間に割って入ってきたのは…確か…五十嵐。二階堂の仲間…なんとかまてんの一人。

「こいつがバカにするから!」
「別にバカにしてる訳じゃない。本当の事を言ったまでだ。」
「なんだとぉ〜… !!」
俺に掴みかかられそうになっても顔色一つ変えずに冷静に言い放つ二階堂に、俺の怒りは頂点………
五十嵐が制止に入らなければ、俺は二階堂を殴っていたかもしれない……

「とにかく!人に読んで貰う事をもっと考えて書き直してくるんだね。話はそれからだよ、陸王くん!」
「……うるせー!誰が頼むか!」
俺はそう言うと二階堂が差し出した申込用紙を奪い取り、足早にアローズを立ち去った。

「大河様、大丈夫ですか?お怪我は……?」
「ははっ…大丈夫だよ!」
「……まったく……なんてヤツなんだ……」
「………本当に…聞いてた通りだね……」
「…ん?何か言いましたか?」
「いや…五十嵐、僕はちょっと用事があるから先に行っててくれないか?」
「……はあ…」


………くそっ!なんなんだよ…二階堂のヤツ、断るならはっきり断りやがれ!
俺は帰りの道中、怒りと共に悔しさと虚しさも感じていた。
体よく断られた……そう、そうなんだ。
俺達は確かに暴力的なチームだ。周りから嫌煙されてるのもよく解っている。断られるのだって今に始まった事じゃない…慣れている。何だかんだとそれらしい理由を付けて断る… 今までもこんな事は沢山あった。でも、俺はそんな卑怯な断り方が本当に嫌だ。そんな誤魔化しで取り繕うなんて、男じゃねぇ!
俺にもプライドってもんがある…はっきり断られる方が断然マシだ!

闘球部主将として胸の苦しさを感じつつ俺は荒崎に戻り… 今に至る。
散々怒りをぶちまけた俺は少しずつ冷静さを取り戻した。

「……すまねぇな…練習試合はなしになりそうだ…」
「…陸王さん…」
滝も白川も何かあった事を悟った様だ…いつもの事…察しはついてるだろう。

「い…いいじゃないですか!またできますよ!」
「そーだよな!」
滝も白川も明るく振る舞ってくれる…俺は正直申し訳なかった。

「そもそも、あんな優等生チームこっちこそ後免だよな!」
「あぁ!そんなヤツらに付き合ってらんねーし!」
……こいつら…練習試合したかったくせに気ぃ使いやがって…迷惑かけちまったな…なんとかさせてやれたらいいがな…
俺は滝と白川の精一杯の強がりを、辛い思いで聞いていた。
すると、部室に仲間の逆巻拳が部室に入ってくる…拳は俺を見つけると声を掛けてきた。

「陸王さん、校長が呼んでましたよ!なんか、陸王さんに電話が来てるとかで……」
「俺に電話?」
「なんかよく解んないですけど…とりあえず行ってみて下さいよ。」
…今度はなんなんだ………
半ば諦めに近い気持ちで俺は仕方なく校長室に向かう…

ードンッドンッ!
荒々しいノックをして室内に入ると俺の苦手な校長が相変わらずニコニコと笑っている…

「今度はなんなんだよ!
「陸王くん、聖アローズの二階堂くんからよ。」
「はっ?なんで二階堂が俺に…」
「まぁ、出てみなさい。」
一体なんなんだ…俺はさっきの事を思い出し、にわかに怒りと虚しさが蘇ってくる…

「………もしもし………」
「…あ、陸王くん?さっきは悪かったね。せっかく持って来てくれたのに…でも、僕は間違ってないからね!また書き直して持って来なよ。」
「…そんな事言いにわざわざ電話してきたのか?!」
二階堂の変わらない物言いに、一度は収まった俺の怒りはやはり再燃…

「ううん…さっきいい忘れた事があって…」
「なんだよ!」
「次の土曜から、僕が君の勉強を見る事にしたから。午後2時に君の家に行くからね。約束だよ!じゃあまた!」
…ガチャ…
二階堂はそう言うと一方的に電話を切る………

「………はぁ???何言ってだ?」
…俺の勉強を見る…?バカか!冗談だろ…
ふと見ると、校長は二階堂との電話のやり取りに唖然とする俺をニコニコと見ている………動揺している胸の内を見透かされている様で俺は居心地が悪い。

「冬馬くん、アローズはどうだった?」
「別に!…練習試合なんてやらねーから!」
俺は乱暴に受話器を置くと、一度も振り返らず部屋を後にした。

…意味が解らねぇ。勉強を見るだぁ?なんで二階堂が俺に……
二階堂にそんな事して貰う筋合いなんてねぇし…まぁ何かの間違いだろ…
俺は二階堂の言葉を少し気になりつつも、その時は自分の中で適当に片付けた。


次の土曜…
二階堂との約束の日だ。
実際この日を迎えてみると、何かの間違いだろうと思いつつ二階堂との約束が気になって仕方ない…午前は闘球部の練習だったが、午後の事が気になり全く集中できず…滝も白川もそんな俺に気付いてたらしく…どうしたんですか?…と何回か声を掛けてきたが、俺はみんなにはこの事を言えないでいた。

練習を終えて自宅に戻ってからも、俺はなんとなく家を空けられない。
リビングのソファーに座りテレビを見る……気持ちは上の空…内容なんて全く頭に入らない。
ふと時計を見ると時刻はいよいよ問題の2時……

ーピンポーン………
時間は2時ピッタリ…玄関のチャイムが鳴る。

…まさか……ははっ… まさかな………
俺は何となく出る気にならず、暫くそのままでいたが…

ーピンポーンピンポーンピンポーン………
チャイムは容赦なく鳴り響く…
俺は意を決し玄関に向かうとそのドアをそっと開く。

そこにいたのは…やっぱり二階堂…俺を見るとニコッと笑った。
「………マジかよ…」
「やぁ!陸王くん。今日から宜しくね!」
「………」
「どうしたの?言っただろ?僕が勉強を教えるってさ… 」
「…冗談だろ…」
「冗談なんかじゃないさ…もう決めたから。上がらせて貰うよ。」
二階堂は驚く俺に構わずさっさと玄関をあがる。
「部屋は?二階?」
そう聞くと、俺の返事も待たずに階段を登り始める…
「ちょっ…ちょっと待てよ!」
…なんて自分勝手なヤツなんだ

「ふーん…結構綺麗にしてるじゃない…」
二階堂は部屋に入ると周りを眺め…部屋の中央に置かれたテーブルに腰を下ろした。
「さあ!早速始めようかな。」
鞄からノートや教科書を取り出す。

「……俺は頼んでねーぞ!」
「あぁ…頼まれてないよ。でも僕が決めたんだから、やらせて貰うよ」
「…はあっ?…」
「じゃあ…まずは多分苦手だろう数学からだね。陸王くん、教科書出して。」
「嫌だね。」
「ふぅーっ………まったく…君は本当に頑固だね…」
…お前に言われたくないっての!

「実は君の学校の校長先生に頼まれたんだ。君に勉強を教えて欲しいって。」
「なんだって?!」
…またあいつ…余計な事しやがって…

「君の事心配してたよ。君は幸せだね、あんなに心配してくれる人がいて…」
「だからって何でお前が!他のヤツ頼めばいいじゃねーか!」
「陸王くんに勉強を教えるなんて、並大抵の人間じゃ出来ないだろ?」
「………ううっ………」
確かに…まだ二階堂だから我慢してるものの、もしも知らないヤツだったら家に上がらせる前にとっくに殴ってるに違いない………

「とっ…とにかく!俺は嫌だからな!」
「…仕方ないね。今日はとりあえず帰るよ。でも、また来週の土曜に来るからね。」
「土曜は練習が!」
「午後はないだろ?校長先生から聞いてるから。」
「ううっ…」
俺の事をよく知る校長と手を組んだ二階堂の方が一枚上手だ……

「じゃあね、陸王くん。」
二階堂はそう言うと、ニコッと俺に笑いかけ部屋を立ち去る。
階段を下り、玄関を閉める音が聞こえた。

「はぁー………何でこんな事に……」
二階堂が帰った事を確認した俺はベットに寝転び、深いタメ息をつく…そして二階堂の言葉を思い出していた。

………君の事心配してたよ………

校長のヤツ…いつも俺の事勝手に心配しやがって………
俺の脳裏に優しく微笑む校長の姿が浮かぶ……胸の奥がむず痒い………

「………あー!もう!」
俺はそれを打ち消す様に枕に顔を埋めた。


次の土曜…

ーピンポーン………
時間通りにチャイムが鳴る…俺は静かにドアを開けた。
そこには予想通り、ニコッと笑う二階堂の姿。

「………よぉ………」
「あれ?今日は怒鳴って追い返さないの?」
この間とは違う俺の冷静な態度に、二階堂はキョトン…

「あいつの頼みなら仕方ねぇ………」
「……ふーん…素直なとこあるじゃない。」
「べっ…別にあいつの為なんかじゃないぜ!」
「…やっぱり素直じゃないね。」
ぶっきらぼうに言う俺に、二階堂はクスッと小さく笑う。

部屋には俺と二階堂…
二階堂は教科書を見ながら俺に一生懸命勉強を教えている。勉強を見て貰う事を了承はしたが、あいにく俺は何より勉強が苦手…教える相手が二階堂だろうが嫌いなもんは嫌いだ。

「………だから… それで… 」
…ダメだ… 二階堂の言葉が呪文のように聞こえちまう………
午前中の練習の疲れが出ているのか…昼飯を食べて間もないせいか…俺の集中力は微塵もない。

「陸王くん、聞いてる?」
「…あぁ…」
ぼんやりしている俺に気付いた二階堂が俺に近付き、ノートを覗き込む…

「全然書いてないじゃない!」
「…ははっ…」
「もう…仕方ないね。ちょっと休憩しようか…」
まだ始めてから30分しかたってねーけど…ってやる気なしの俺のせいか…
予想外の早い休憩に、少し勉強から開放されて俺はホッとした。
俺が出したお茶を飲みながら、二階堂はのんびりと窓の外を見ている…
…俺は疑問に思っていた事を聞いてみた。

「…にしても、俺の家庭教師なんて何で引き受けたんだよ。」
「…んーっ…そうだな…一言で言うと好奇心?」
「はあっ?なんだよそれ…」
「みんなが怖れる荒崎の陸王冬馬はどんな人なのかなーって………後は君の申込用紙がはあんまりにもひどかったからね!」
「またそれかよ…」
「ふふっ… 」
また申込用紙の事を話に出され憮然とする俺に、二階堂は優しく穏やかに笑いかける…そして、言葉を続けた。

「そうだ。気になっていたんだけど……」
「…?なんだよ…」
「もしかしたら勘違いしてるかも知れないけど…僕は君との練習試合が嫌であんな事を言った訳じゃないんだよ…」
「………」
俺は二階堂の言葉に驚きを隠せない…

「やっぱりそう思ってたみたいだね…そうじゃないかと思ってたんだ。」
「…嫌じゃなかったらなんで………」
「あの言葉のままさ。人に読んで貰う事を考えて書かないとね!」
「……じゃあ、俺達との試合が嫌で断ったんじゃねーのか?…」
「まさか!君との練習試合楽しみにしてたのに…もうしないって言うから…」
「……本当か…?」
「あぁ!」
二階堂の俺に向けられた真っ直ぐな優しい瞳…これは建前や誤魔化しなんかじゃない…二階堂の正直な本心だと俺は感じた。
そして俺は、あの日から自分の心を支配していた胸の苦しさが少しずつ晴れていく様な気がしていた……

「ごめんね……陸王くん、嫌な思いをさせてしまったね………」
「いや、いいさ…俺もすまなかったな!」
本当に申し訳なさそうな顔をする二階堂に、俺は思わず笑顔を返してしまう…

「…あ!陸王くんの笑った顔、初めて見たよ!」
「そうか?もしかして笑わねーと思ってた?」
「うん!」
「…ははっ!正直なヤツ!」
俺と二階堂は顔を見合わせて笑った。

出逢いがあんなだったから初めはなんて傲慢で自分勝手な嫌なヤツだと思ってたが、そうじゃないらしい…多分自分に正直で嘘が付けないんだろう。きっと人を選んだりしない…誰に対しても素直で純粋…逆に素直過ぎて不器用な分、敵を作っちまう事も多いだろう……なんだ…俺と同じじゃねーか…

大概のヤツは荒崎のワルの俺を恐れたり怯えたり…まともに会話も出来なかったり。それ所か目線すら合わせない事も多い…それは俺がなにもしなくても…そんな皆の恐れる荒崎の俺に対しても逃げる事なくちゃんと向き合える。
…初対面の俺にあんな態度が取れるなんて…こいつ…
ただの金持ちの嫌みな御曹子かと思っていたが、どうやらそうじゃないらしい…俺は、立場も環境も全く違う二階堂に妙に親近感が湧いたりして…

「さあ!そろそろ始めようか!」
「…あぁ!頼むな…」
「……うん!」
二階堂の本当の姿を感じた俺は少し素直になったらしい…そんな俺が解るのか、二階堂は嬉しそうにニコニコとしている…
俺はさっきより少しだけ真面目に二階堂の話を聞く様になっていた。


「じゃあ、ここまでにするね!あと…このページは宿題だよ!」
「…マジかよ…」
うなだれる俺に二階堂はクスッと笑った。

「あ、そうだ!次の土曜なんだけど、ちょっと家を明けられなくて…勉強は見れるから僕の家に来てくれると助かるんだけど…」
「あぁ、別に構わないぜ……」
「ゴメンね!じゃあ、迎えの車をよこすから。」
…迎えの車って…子供じゃねーんだから一人でも行けるっての!
そう思ったが、あいにく二階堂の家は解らない…俺は二階堂の好意に甘える事にした。
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