#4 [キミを一生守ってく]
俺が大河をさらったあの日から一週間が過ぎようとしていた。
大河からはなんの連絡もない…ただ、二階堂家の執事からは、暫く土曜の勉強は休みにして欲しいとだけ電話があった。
大河はどうしてるのかと俺が聞いても、はぐらかされ…大河の様子は解らない。
…もしかしたら、俺の勝手な行動が大河に迷惑を掛けたのか…
周りには二階堂家の御曹子である大河と荒崎のワルの俺はまるで不釣り合いに映るだろう…でも、俺は大河が好きだ。誰よりもなによりも…俺には立場なんて関係ない…自分の気持ちにウソはつけない。

会えなければ会えない程…大河を愛しく思う。
大河を好きだと思う程…胸が熱くなる。
会えない間も考えるのは大河の事…思い出すのは大河の笑顔…
俺は授業にも練習にもなかなか身が入らない日々を過ごしていた。

放課後の練習…部室でぼんやりする俺に、白川が声を掛ける。
「…陸王さん、またぼんやりして…そろそろ目ぇ覚まして下さいよ…珍しいお客さんですよ!」
「…誰だ?」
白川に促され、部室に入ってきた男…それは五十嵐だ。

「…五十嵐!!」
俺は思わず五十嵐に詰め寄る。
「大河は元気なのか?!どーなんだよ!」
「…落ち着け…陸王。…元気にはしてる。だがな、この間の事を重くみた執事達が、海外にいる二階堂家の当主…つまり大河様の父親に連絡してな…大河様は暫く学校と練習以外は外出禁止になったんだ。」
「……マジかよ…」
…やっぱり…だからなんの連絡も…

「…陸王…お前のせいだぞ。」
「なんで…なんで大河がそんな目にあわなきゃならねーんだ!連れ出したのは俺なんだ!くそっ…」
俺は立ち上がると今にも走り出そうとする…
そんな俺を五十嵐が厳しく制した。

「止めろ!…本当はお前を捕まえて警察につき出す話も出ていたんだぞ!それを大河様が、お前は悪くない、悪いのは全部自分だと言い張って…そんな大河様の気持ちを無駄にするつもりか?!」
「……くそっ…」
「…まったく…大河様はなんでお前みたいのがいいのか…」
五十嵐は俺を見るとニヤッと笑う…

「……今日は俺が二階堂家に泊まる事になっている。俺も疲れてるから夜11時くらいには多分寝るだろうな。玄関裏の西側がちょうど大河様の部屋の窓の下なんだがな…」
「…五十嵐?…」
「…まぁ…これは俺の独り言だ。気にするな。」
「…なんで俺にそんな事…」
「……俺は小さい時から大河様に仕えてきた。大河様の二階堂財閥の後継者としての苦しみは少なからず理解しているつもりだ。どうやら大河様はお前といるとその苦しみから開放されるらしい…悔しいがな。俺にとって一番大事なのは、大河様が幸せである事だ。…陸王…お前なら出来るかもしれん…」
「…五十嵐…俺はずっと大河の側にいたいんだ…いいのか?…」
「…俺にそんな事聞くな。…お前がそう望むなら、それは大河様の望みでもあるだろう。」
「…大河の望み…」
「陸王…大河様を頼んだぞ…」
五十嵐はそう言うと僅かに微笑み、静かに部室を立ち去る…

……きっと大河は俺を待ってる…
俺はそう確信した。


時刻は夜の11時…
俺は五十嵐に教えられた通り、二階堂家の門の裏に来ていた。
ここからは二階堂家の大きな屋敷がすぐ側に見える。
もしかしたら、五十嵐の言っていた事は嘘かもしれない…でも、あいつは俺と同じく大河の苦しみを理解し、幸せを願っている…俺は五十嵐の事を信じていた。

…でかい塀だな…
二階堂家を取り巻く塀の高さは俺の頭上遥か上…でも、そんなもんに怯む俺じゃない。俺は軽々と塀をよじ登ると、二階堂家の敷地内に楽に侵入した。二階堂家の屋敷を見上げる…五十嵐はこの辺りが大河の部屋だと言っていたが…窓がたくさんあってよく解らない…

…どの部屋に大河が…
よく見ると、電気の付いた一室の奥に見覚えのある向日葵の絵が見える…それは前に勉強を教えて貰いに来た時に、大河の部屋で見かけた絵だ。
間違いない…ここが大河の部屋…大河はそこにいる。
俺は近くの小石を拾う…
大河が一人でいればいいが……もしかしたら、大河以外にも誰か部屋にいて、俺が来た事がバレちまうかも…
俺は一瞬躊躇したが…覚悟を決める。
…ええい!一か八かだぜ!
俺は大河の部屋の窓に狙いを定める…
勢いが強すぎたら窓が割れちまう…弱ければ届かない…優しく…正確に…
…コツン…
投げた小石は俺の狙い通りの部屋の窓を小さく叩く…
命中!さすが俺!
部屋の中に人影が揺れるのが見えた。そして…窓に近づいて来た人影は…大河!大河は窓の下の俺を見付けると、慌てて窓を開ける。

「…冬馬!」
…シーっ!!
俺は声に出さずに人差し指を唇に当てる…大河ははっとした顔をして口を押さえた。

…出られるか?…
俺は大河を手招きする。
すると、大きく頷いた大河がおもむろに窓に足を掛けて身を乗り出すではないか。
…おっ…おい!危ねー!!
声にならない声で必死に止めようとしたが…大河は、そんな俺に軽くウインクする。
バランスを取りながら、するすると窓を伝い…あっと言う間に下まで降りてきた。
…さすがは聖アローズ闘球部主将、二階堂大河だぜ…
感心する俺に大河が駆け寄る。

「…冬馬!来てくれたの?」
「…話は後だ…逃げるぞ…」
「…うん!」
俺と大河は塀をよじ登り道路へと降り立つと、二人で走り出した。

俺達が辿り着いたのは二階堂家から少し離れた場所にある公園…
「…はあっ…はあっ…ここまでくれば大丈夫だ…」
「…うん!はーっ…なんか冬馬といると走ってばっかりだね!」
「…ははっ…そうだな!」
俺と大河は顔を見合わせて笑った。
さすがに夜中の公園は誰もいない…俺達はベンチに腰を下ろした。

「…もう!冬馬は来るのが遅い!僕がどれだけ待ったと思ってるの?」
口を尖らせ、拗ねた顔をする大河…
「…ははっ…まさかお前がそんな事になっているなんて知らなくてな…」
「…もしかして…五十嵐が…?」
「あぁ、今日荒崎に来てな…あいつ…なんだかんだ言っても、お前の事を大切に思ってるみたいだな…」
「…そっか…」
自分に長く仕えてくれる五十嵐の本心の優しさを感じたのか、大河は嬉しそうな顔を見せた。

「…ごめんな…遅くなって…」
「僕はずっとずっと冬馬を待っていたんだよ…君がもう一度僕をさらってくれるのを…」
大河は真剣な眼差しで俺を見つめる。
俺は大河の顔を掌で柔らかく包み、その頬を優しく撫でる…

「…僕は二階堂を捨てられないよ。それでもいいの?」
「俺はお前にどんな肩書きがあったって関係ないぜ…どんなお前も全部受け止めてやる。だから…御曹子だろうがなんだろうが…そのまんまのお前で飛び込んでこいよ!」
「冬馬!」
大河は俺にしっかりと抱きつく…
俺もその身体を強く抱き締めた。

「…冬馬…大好き…」
「…先に言われちまったな…俺も大河が好きだぜ…」
「ずっと…ずっと僕の側にいてくれる?」
「…あぁ…俺とずっと一緒にいろ…俺がお前の心を一生自由にしてやる…」
「…うん…約束だよ…」
大河は小指を差し出す…俺は迷わず自分の小指を絡めた…
そのまま大河の身体を抱き寄せると、大河の小さな唇に自分の唇を重ねた…大河の温もりが俺の唇一杯に広がり、身体中に伝わる…
俺はその温もりをひたすら感じていた…


お互いの気持ちを確認した俺と大河は、寄り添いながら歩く…
「…僕が抜け出した事、バレてないかな?」
「心配すんな!もうここまで来たらどーにかなるさ!」
「…ふふっ…冬馬にそう言われると、どんな事でも本当になんとかなる気がしてくるよ…」

「…ねぇ、冬馬…」
「…ん?」
「二階堂財閥の名前はとっても重いよ…覚悟できてる?」
「…あったりめーだ!俺を誰だと思ってんだよ!」
「…それと…僕の父はすっごーく怖いよ…君を認めて貰えるかな…?」
「……うっ……それを言われると…」
「…あー…もしかして自信ない?」
「…んな事ねーよ!だっ…大丈夫!……だと思う…」
「ふふっ…大丈夫だよ、冬馬。…僕がいるから…僕も冬馬を守るから。だから……安心してもっと好きになっていいよ!」
…もっと好きになっていいだなんて…言ってくれるぜ…
ニコッと笑う大河の笑顔からは強い決意が感じられる…

「…大河…」
俺は愛しい名を呼ぶと、その身体をもう一度強く抱き締めた…

二階堂財閥の御曹子と歩む人生……これから先、俺と大河には色んな試練があるだろう…少しだけ不安もあるけれど…その何倍も希望と幸せがある!
身分の違い?……望む所だぜ!そんなもんに怯む俺じゃない!
どんな事にも立ち向かえる…大河と一緒なら…
俺は大河の手を握り、歩き出した…。



「ゴメン!遅くなって!」
「ほんとおせーよ!遅刻だぜ〜」

晴れて恋人同士になった俺と大河。
今日は可愛い大河との楽しい映画デートだ…
遅れた大河に俺は少し拗ねたりして…

「…爺や達が、映画に行きたいなら貸し切りにするって聞かなくて…止めさせるのに時間がかかっちゃった!」
…まったく…これだから大財閥は…

「まさかお前…映画も見た事ないんじゃ…」
「う〜ん…有名な映画は大体スポンサーになってるからね…公開前に自宅のシアターで見る事が多いかな?」
「…ははっ…」
…俺はまた二階堂財閥の力を見せ付けられ、ガクッとくる…仕方ねーがな…

「…まさか!…お前が心配で誰か付いてきてるんじゃねーだろーな…」
俺は慌てて周りを見渡す…
そんなだったら、可愛い大河になにもできやしねぇ…

「ふふっ…大丈夫だよ!もしそんな事したら、また冬馬と一緒に逃げちゃうからね!って言ってあるからさ。」
「おい…勘弁しろよ…」
「…ふふっ…冗談だよ!」
大河は可愛く意地悪げに笑う…

「よし!今日は映画の楽しみ方を教えてやるぜ!…まずはポップコーン買いに行くぞ!」
「…?冬馬…ポップコーンってなあに?」
「………お…お前…知らねぇの?」
「うん…恥ずかしいけど…食べ物?」
「…二階堂家のシアターでは食べねぇのか?」
「…大体フレンチのシェフが来るから…」
…おいおい…

「…まぁいいさ…これから俺が色んな事教えてやるよ!」
「ありがとう!とーま!」
やれやれ…二階堂家の後継者としての前に、一人の人間として一般常識を教えてらやなけりゃならねーな…これは教えがいがありそうだぜ…

「冬馬、行こう!」
「…あぁ!」
大河は俺の手を握る。
俺の隣を歩く可愛い大河の満面の笑顔…
俺はこの笑顔を一生守っていくと強く決意した。
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