#2 [陸王くんの荒崎小学校]
暫く歩くと…小学校らしき大きなコンクリートの建物が見えてくる…

「着いたぜ!ここが俺の荒崎小!」
陸王くんの指差すその学校…校門には「荒崎小学校」の看板。

…あ…ここが荒崎小……うっ…す…すごい……
初めての見る荒崎小に僕はもうビックリ!
校舎の窓ガラスは何枚も割れたりヒビが入ったりしてボロボロだし、壁にはひどい落書き…塀には所々大きな穴が空いていて少し崩れちゃってる所も…予想以上のすっごい荒れっぷりに僕は驚愕。

…ええーー!ほ…本当にここって学校なの?!……やっぱり噂通りのすごい所だよね…荒崎小って。
僕も噂で荒れてるとは聞いてたけど…まさかここまでなんて…

「ははっ…やっぱ驚いた?…お前の峰小とは全然違うからな〜」
「う…うん………」
すごい荒っぷりのこの学校と、あの試合の時の闘球部の人達の荒々しさがダブって…僕は少し青ざめたりして…

僕はちらっと陸王くんを見る。
…陸王くんって…この学校の闘球部のキャプテンなんだよね…
僕の隣にいる陸王くんはとっても穏やかな優しい顔をしていて…このものすごい学校をまとめてるなんて…なんかウソみたい。

この荒崎小はとにかく評判が悪くて…特に闘球部の激しいプレイスタイルは有名なんだよね。そしてその闘球部をまとめる陸王くんもこの荒崎トップのワルで有名で…確かに居るだけで威圧感と怖いオーラがすごいもん…僕だって最初は怖くて怖くて仕方なかったし。でも、陸王くんと一緒に過ごす様になって、陸王くんの本当の姿が見えてきて…ついには恋人になっちゃったりして…
…僕って案外勇気あるのかも……

きっと…周りの人達はそんな怖くて乱暴な陸王くんしか知らないよね。
でも…本当の陸王くんはすごく素直で優しくて…そして誰より可愛くて!本当の陸王くんが実はこんなに可愛い人だなんてみんなは知らないんだろうな〜…知ってるのは僕だけ!だって僕は陸王くんの恋人だもん!
僕はなんだか陸王くんの特別みたいな感じがして思わず顔がにやけちゃう…ま!本当に特別なんだけどね!

「…ん?秋山…なにニヤニヤしてんだ?」
「なっ…なんでもないよ!」
「なんだよ〜…可愛い顔して〜」
にやけてる僕に気が付いた陸王くんが僕のほっぺを優しく撫でる…そんな陸王くんがすごく可愛く愛しく思えて…僕は思わずその手に自分の手を重ねちゃって…
「…秋山……そんな可愛い事すんなって…俺もう……我慢が…」
陸王くんが僕をそっと抱き締めようとしたその時、僕達の後ろから賑やかな声が聞こえてきたんだ。

「よぉ〜…陸王じゃねーか!」
見ると3〜4人の男の人達が陸王くんに親しそうに声を掛けて近付いてくる。
陸王くんの顔が急に険しくなる…

「なんだお前らか…日曜だってのにこんなとこででなーにしてんだよ。」
「別に〜…なんもしてねーよ!陸王こそなにしてんだ?」
「うるせーなぁ!俺に構うなよ!」
…陸王くんの友達かな?…
陸王くんの友達らしき人達の一人が親しげに陸王くんの肩に手を回してる…でも陸王くんは面倒そうな顔。あんまり好きな友達じゃないみたいだな…

「あれ?」
友達の一人が僕に気付いたみたい…

「なにこのちっこいの…陸王の新しい女かよ?」
「…そうだよ!お前らいちいちうるせーなぁ…」
「…へぇ〜…すげー可愛いじゃん!」
「おい!あんまジロジロ見んなよ!」
「可愛い顔してんなぁ〜身体もちいせぇし…陸王の好みにドンピシャじゃねーかぁ…」
陸王くんの友達は僕を上から下までじーっと舐める様に見ている…
僕はその視線を何となく嫌に感じちゃって…陸王くんの背中にそっと隠れる。
陸王くんは身体で僕をさりげなく隠すようにしてくれて…

「お前らさっさと行けよ!俺達の邪魔すんじゃねーぞ!」
「ははっ…まーそんなに怒んなってぇ〜…じゃーまたなぁ〜」
陸王くんの友達はにやにやと笑いながら軽く手を上げて校門の外へと歩いて行った。

「まったくあいつら……秋山ごめんな〜…」
「…ううん。大丈夫だけど…」
僕は威圧感たっぷりの陸王くんの友達がいなくなってホッと一安心…

「俺さ、教務室行って部室の鍵持ってくるからよ!ちょっと待ってられっか?」
「うん。…でも今日は日曜だけど学校に入れるの?」
「ははっ…荒崎に不可能はないぜ…」
にやっと笑うと陸王くんは校舎に向かって歩いていく。
…どこからか忍び込めるのかな……荒崎なら有り得るかも……

僕は校門に寄り掛かりながら陸王くんを待つ…
すると、さっき帰ったはずの陸王くんの友達が再び僕の前に現れたんだ。

「よぉ〜また会ったな〜…あれ?お前一人?陸王は?」
「………ぶ…部室の鍵を取りに……」
「へぇ〜…部室で二人でなーにしようとしてんだよ!」
僕はあっという間に陸王くんの友達に囲まれる。僕は一気に緊張して思わず身が固くなっちゃって…
…うわぁ〜…こ…怖いよぉ……
陸王くんの怖い友達に囲まれた僕はオロオロ…

「お前が陸王の新しい女か〜…ほんっと陸王好みの可愛い顔してんな〜…」
…女って…ぼっ…僕男だけど……

「どうだ?陸王は…優しいだろぉ?あいつ男には厳しいけど女にはやたら甘いからな〜…」
「…は…はい……」
…だから…僕は男だけど…

「…あっちもすげーだろ?あいつのデカイって有名だしな!上手いみたいだし…女はもうメロメロになっちまうみてーだぜ…」
…あっち?デカイ?上手い?…何の事だろ…
キョトンとして話を理解出来ないでいる僕の様子に、陸王くんの友達は驚いた様に言う。

「…え?!……お前…もしかしてまだ陸王に食われてねーの?!」
…くっ…食われる?!…なにそれ…
僕は思わず陸王くんが僕の事をぱくっと食べてる所を想像する…ははっ…まさかそうじゃないよね…
僕は恐る恐る陸王くんの友達に尋ねる…

「…くっ…食われるって?…」
「お前知らねーの?…こりゃ陸王もウブなヤツ好きになったもんだな〜…」
「…あの……食われるってどういう…」
「陸王と×××するって事だよ!」
「……えええーーーー!!」

…陸王くんと×××……
僕は陸王くんに告白の返事をした時の事を思い出す…
た…確かに…付き合う=×××だったよね…陸王くんそう言ってたよ…

「へぇー…まだなのかよ。でも…陸王にしちゃあ珍しいな…いつもは付き合ったらすぐにやっちまうんだけどな…」
「そっ…そうなんですか?…」
「ああ…あいつ手が早くて有名だぜ。付き合ったその日に〜…なんてのが殆んどだしな。まったく…羨ましいヤツだぜ!」
「……はぁ…」
「…しっかし、まだ食われてねーなんて…陸王のヤツ、本当にお前の事好きなのか?」
僕はその一言に思わずドキッとする…
…本当に好きなのか?なんて………そう言われちゃうと………

その時、後ろから陸王くんの大きな声がした。
「…おい!お前らまだいたのか!秋山に何やってんだよ!」
「陸王くん…」
陸王くんはすごく怖い顔をして立っている…
「ヤバッ!…ははっ…別に何もしてねーよ!じゃーな!」
僕を取り囲んでいた陸王くんの友達は、バタバタと逃げる様にその場を離れて行く…

陸王くんは慌てて僕に駆け寄る。
「秋山、大丈夫か?なんか変な事されてねーか?」
「……うん、大丈夫…」
「そっか!それならいーけど…根は悪いヤツらじゃねーんだが口が悪くて…ごめんな。」
僕の顔を覗きこむ陸王くんはすごく心配そう…僕は陸王くんに心配掛けない様に精一杯の笑顔。

「だっ…大丈夫だよ!…それより、鍵取ってこれた?」
「あぁ!このとーり!…さぁ行こーぜ!秋山!」
陸王くんは鍵を僕に見せてにこっと笑うと、僕の手を握って歩き出す。

……本当にお前の事好きなのか?…
部室に向かう間、僕はさっきの陸王くんの友達の言葉が頭から離れない…
もちろん告白してきたのは陸王くんの方だし、デートだって誘ってくれたし、さっきだって僕の言葉に耳まで赤くしちゃってたし…好きなんだと思うけど…親しげな陸王くんの友達にそんな事言われちゃうと……なんか自信なくなってきちゃった……
僕は陸王くんに手を引かれながらそんな事ばっかり考えちゃって…

陸王くんはグランドの近くにある建物の前で立ち止まると、鍵を開けてドアを開く…
「ここが俺達の部室!まぁ入れよ。」
「お邪魔します……」
休日の部室は誰もいないせいかひんやりしてる…

「結構きれいだろ?俺達はあんま掃除とかしねーんだけど、さっき会った白川ってヤツいたろ?そいつが女みたいにきれい好きでな〜。時々掃除とかしてくれんだよ。」
「………」
陸王くんの友達の言葉が頭の中をグルグル回っちゃって…僕は陸王くんの声もよく聞こえない。
陸王くんはそんな僕に気付いたみたい…

「ん?どうした?」
「……うん。」
「なんかあったか?言ってみろよ。」
陸王くんはうつむく僕の側に近付いて顔を覗き込む。
陸王くんの心配そうな顔が僕のすぐ側に…陸王くんの体温もぐっと近くに感じられて…陸王くんへの愛しい気持ちから、僕の胸の内は自然と言葉になっていく…

「陸王くん…僕の事本当に好き?…」
「なんだよ急に…もちろん好きだから付き合ってんだろ?」
「…そうだけど……」
「…あ…まさか!……もしかしてあいつらになんか言われたのか?」
「う…うん……」
「あいつらなに言ったんだよ!」
「……その……あのね…陸王くんはすぐ食っちゃうのに…まだしてないなんて僕の事本当に好きなのかって。」
「…お前そんな事言われたのか?…ったくあいつら〜…!!」
陸王くんはすごく怖い顔…

「…だから……陸王くん本当は僕の事そんなに好きじゃないのかもって…そう思って。僕は男だし、陸王くんはやっぱり僕よりも…」
「そーじゃねーよ!!」
僕の言葉を遮る様な陸王くんの大きな声…僕は思わず身体がビクッとしてしまう。
「あのな…そんなんじゃねーんだよ……」
陸王くんは大きくタメ息をつくと言葉を続ける…

「確かにな、あいつらの言う通り俺は今まで大して好きでもないヤツと付き合ってきた。軽いノリですぐにやっちまってたよ。でもな…その……お前は…特別なんだ……」
「…特別?……」
「俺、今まで何人とも付き合ってきたけどな…自分から好きになったのはお前が初めてなんだ。」
「……陸王くん…」
「だから…大切で…その……そんな簡単に手ぇ出せなくて…」
陸王くんは少し恥ずかしそうに僕を見つめる…

「それに、お前まだ俺の事少し怖いだろ?それなのにお前の気持ち考えないで無理矢理やっちまったら…お前傷付けちまうだろ…そんな事絶対したくねーから…」
「…そうなの?……」
「それ程お前に惚れちまってんだよな…俺……」

…陸王くん…そんなに僕の事考えてくれて…僕の事好きになってくれて…
陸王くんの僕への愛情がすっごく伝わってきて…
「陸王くん!」
僕は思わずぎゅっと陸王くんに抱き付いちゃったんだ。
僕はぎゅーっと陸王くんにしがみつく…

「…あ…秋山?!」
「…陸王くんありがと……僕の事そんなに思ってくれて…すっごい嬉しい…」
「秋山……俺、秋山が本気で好きだ…誰より好きだ。可愛くて大切で仕方ねーんだ。だから俺の事信じて欲しい…」
「…陸王くん…」
僕を見つめる陸王くんの照れた顔…陸王くんの真剣さがじんじんと僕に伝わってくる…
「…うん。信じる…僕、陸王くんの事信じるよ…」
「…ありがとな……」
陸王くんも僕を優しく抱き締めると優しく髪を撫でる…
陸王くんのあったかい温もりが僕の全身を柔らかく包む…高鳴る胸の鼓動が聞こえてきて…あ…僕のドキドキも伝わってるかも…
僕は陸王くんの溢れる愛情に包まれてぼんやり…
…僕……僕も陸王くんが大好き………
僕の胸も陸王くんへの愛情でいっぱいになって…陸王くんにこの気持ちを伝えたくて…もっともっと深く強く繋がりたくなって…僕のそんな思いが言葉になっちゃって…

「…あ…あのね……僕…陸王くんとだったら…してもいいよ。」
「…え…マジ?……」
「うん…僕もう陸王くんの事怖くないよ…僕も…陸王くんの事本気で好きだから……陸王くんともっと深く…もっと……」
「秋山……」
「陸王くん…大好き……」
僕は陸王くんにしっかり抱き付いたまま陸王くんを見上げる…
陸王くんの嬉しそうな顔…すっごく可愛い…
…あ〜…僕…陸王くんの事大好き…
陸王くんは僕をぎゅーっと強く抱き締めて髪を優しく撫でてくれて…僕は陸王くんのあったかい大きな腕の中で幸せいっぱい…


僕が溢れる幸せ感にぼんやりしていると……陸王くんが急に僕の身体ぐっと押さえつけてニヤッと笑う。
「…じゃーさ!これからやろうぜ!!」
「…え?なっ…なにを?」
「決まってんだろ!×××だよ!」
「えええええーーー!!」
…なになになにーー?!
僕は陸王くんの腕を振り払い、慌てて陸王くんから離れる…

「そっ…そんな急に!」
「だって俺とだったらしてもいいんだろ?怖くないんだろ?今そう言ったじゃねーか。しかもお前から誘ってっし。」
「た…確かにそう言ったけど!別に誘った訳じゃ…しかも今すぐなんて…」
「お前さぁ〜それって誘ってるって事なんだよ!今やっても後でやっても同じだって!」
陸王くんは僕に顔を近付けるとニヤーッと笑う…

「さすがにここじゃ思いっきりやれねーからな…俺ん家行くぞ!」
陸王くんは僕の手を引っ張ると半ば引きずるように部室を出ていく。
…ひえぇぇーーー!!なになにこの展開!

「り…陸王くんちょっと待ってよ!そんな急に!」
「大丈夫!俺ん家こっから近いし誰もいないから遠慮すんなって…」
…そーゆー事じゃなくてぇ!!

「ぼ…僕…まだ無理だよ!」
「何言ってんだよ…してもいいって言ったじゃねーか!」
「…そうだけど…でも!」

必死に抵抗する僕に陸王くんはビシッと言い放つ…
「いいか?!…前にも言ったけどな、お前はもう俺のもんなんだよ…だからお前は俺の好きにさせて貰うぜ!!わかったか?!」
陸王くんの鋭い目付き……ううっ…陸王くんやっぱり怖い…なんて強引な…
僕はもう大きなライオンに睨まれたちっちゃいウサギみたい。
鋭い瞳に睨まれて震えるウサギの僕に選択の余地はなくて…
「…はい………」
頷くしかない。

「ん〜…秋山イイコ!」
さっきまでの鋭い目付きから一転…陸王くんはニコニコしながら僕をそのまま引きずるように連れて行く…

…陸王くん…顔は笑ってるけど目が怖い……僕一体どうなっちゃうんだろ……
一抹の不安を抱え、僕は抵抗する力もなく陸王くんのなすがまま…陸王くんの家へとズルズルと引きずられて行く…
…ううっ…怖い!!
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