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「ねえサイタマ、ジェノスくんと仲良くなるにはどうしたらいいのかな」
「お前はまたいきなりそんなこと」
ジェノスが席を外し(多分風呂を洗いに行った)、部屋に二人きりになったと思えばヒイロがそんな事を切り出してきた。
というかコイツほんと何もやることないのかよ、夜なんて大体うちに来るよな。
「サイタマといいナントカ博士といい、ジェノスくんから信頼されてて羨ましい」
「って言われてもなぁ…」
別に俺だって勝手にアイツが付いてくるから特別拒まないだけで、仲良くしているかと聞かれても首を傾げるし…。
ヒイロのこの手の話題は大概めんどくさくて、でも適当に相槌打っておけば勝手に納得したりするから今回もそんな感じでいいだろう、と近くに出しっぱなしにしていた漫画を取る。
「サイタマみたいに何か突出した誇れるものがあったらジェノスくんの興味に引っ掛かるかな…ジェノスくんより優れている何か私の武器ってある?」
「さぁ…」
「とりあえず戦闘面は駄目だ、雲泥の差で月とスッポン、生活面でだと…………あれ? 掃除洗濯料理も完璧に出来るあの嫁レベル神の子に……何か……勝るもの………なんてあると思ってんのかお前はーッ!!?」
「いきなりキレんなようるせーよ!」
隣で喧しいせいで漫画にも集中出来ねーわ!!
もう早く何かしらの結論出して落ち着いてくれねーかな、もしくはジェノス早く戻ってこいコイツの相手してくれ!
と思ってたらジェノスがどうしたのかと風呂場から顔を出した。多分二人して大声出したからだと思う。
隣で何かを考え始めたヒイロを他所に何でもないとだけ答えると、「そうですか」と再び風呂場に戻った。
「サイタマ…私閃いた…ジェノスくんに無くて私にあるもの…単純なことだったんだ…」
「良かったな、言わなくていいからな」
「いいや言わせてもらう!!!イッツおっぱい!!!豊かではないけどこれに限ってはジェノスくんに勝ってるはず!!!有難う私の性別!!!!」
「だぁから言わなくていいって言ったんだよもーーー!!!お前は面倒なんだから!!!」
しかもこんなタイミングでジェノスは部屋に戻ってきやがる!!!!
………いや、でもこれで俺はヒイロの相手から開放される、のか?
……いやいやこの部屋で面倒なことがあるってことには変わらねーじゃんかよ!!
戻ってきたジェノスに、飛び付く勢いで正面に行ったヒイロは狩人の目をしていた。
「ジェノスくん!!!」
「はい」
「ちょっとおっぱい触らせて!!!」
「お前が触るんかい!!」
思わず手が出てしまった。
「ヒイロー、おーい、生きてる?」
「私じゃなかったら許されないよサイタマ…」
「す、すまん…」
思わず手が出てしまい、ヒイロを床に叩き付けるようなことになって悪いと思うけどまぁ…まぁ許せ…。
床に手をつけたまま、未だに顔を上げないコイツにさすがに罪悪感が生まれてくる。
ジェノスとはいうと、何が起こっているのかよく分かっていないらしく、俺とヒイロを交互に見ていた。
「………先生、今お風呂に湯を入れましたので暫くしたらどうぞ」
あ、コイツこの状況に触れないつもりだ。
コイツがそのつもりなら敢えて俺も引っ張ることはない(というかもう邪魔くさい)し「おう」とだけ返して漫画を手に取った。
そんでジェノスはそのまま台所に行く。
前に洗い物くらい置いといたら俺がやる、とも言ったんだが、ジェノスには置いておくという考えが薄いらしくテキパキと片付けてくれる。ヒイロがよく「良く出来た嫁」だの「良妻」だの言ってるが、なるほどな…と思って………しまいそうになるのはヒイロのせいだどう考えても。流されるなアイツは男だ。
「…………って何やってんの」
「……ジェノスくんが構ってくれなかった…癒してサイタマ…」
「癒してってお前………」
人の胸触りながら言うなよ。
エロ親父かお前は。
「私の身体が目当てだったのねーケダモノー」
「げっへへへ沢山可愛がってやるよ嬢ちゃんー」
「誰が嬢ちゃんだ」
思い付いたから適当に言ってやれば、見事に乗ってくるってところはさすがだなとも思った。
しかしコイツに下品な笑いが似合うこと似合うこと…言わねぇけど。
「普通に疑問なんだけどお前、野郎なんかの身体触って楽しいの?」
「楽しい…サイタマなんかすっごい完成された身体でどこ触っても楽しい…こんな身体なのに顔が緩すぎてクソコラみたいな事を覗けば最高だよサイタマ…」
「さすがに引くわ……」
さりげなく馬鹿にされたことにツッコむ気さえ起きないわ。
ジェノスが戻ってきたら勝手にそっちに行くだろうし、もういいか。
なーんて思ってると洗い場からジェノスがヒイロの名を呼んだ。
俺の胸を触ってた手が離れ、弾かれるように勢いよくヒイロは振り向いたが、その勢いに押されたのかジェノスの口から次の言葉が出てこなかった。
が、ヒイロは何かを察したのか「あ、そうだねごめん!」と言いながら台所に向かう。
「ごめんごめん、そうだよ洗い物くらいは私がやらないとだよねー。気付くの遅くてごめんね、ありがとジェノスくん!」
袖を捲りながら申し訳なさそうに笑ってるけど、そういう事なんだろうか。
今までジェノスがやってたから今更な気もするが…ジェノスもそんなつもりでも無かったらしく、別に大丈夫ですやら何やらヒイロと言い合っていたが、割とあっさりヒイロに押されて部屋に戻ってきた。
「結局ヒイロ呼んだの何だったんだ?」
台所の方を気にしながらも、ノートパソコンを開くジェノスに実のところを聞いてみる。
ジェノスは一度俺と目を合わせてから視線を下に向け「いえ」とだけ置くと、こう続けた。
「用があったという訳では無いのですが…強いて言うならちょっとした興味、でしょうか」
喜べヒイロ、お前が思っているよりもジェノスのお前への興味は薄くないぞ…多分。
なんてことを、「イッケメーンサイボーグジェッノスッくんっ、つーよいーしやーさしーくかっこいいー♪」などと歌いながら、食器をカチャカチャさせるヒイロに心の中で伝えつつ、「ふーん」とだけ返した。
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