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ブラブラしようと町に繰り出してどれくらいだろうか。
お腹の空き具合からそろそろお昼時かなぁと、時刻を確認するために腕に目をやったが、そういえば今日は腕時計を付けてなかったなぁと思い直して携帯を取り出した。
案の定時刻はお昼過ぎを示しており、何かお腹に入れるかーなんて考えながら辺りを見回す。
…まぁ、落ち着いているとはいえ隕石の影響でやってる店そうでない店が分かりやすかった。
とりあえず目についたファーストフード店でポテトを買う。店内で一人で食べるのも寂しいし、ポテトくらいなら食べ歩いても許されるだろう、と考えての事だった。
別に目的の場所も無ければ急いでいる訳でもないのだけれど。
そんな事を思いながら潰れた街並みを監察しつつ歩いている時だった。
「すみません、そこの人!」
何やら後ろで少し張った声。
野次馬精神…とは少し違うが、何かあったのかと振り向いてみると、ヘルメットにゴーグルと完全防備したお兄さんが、自転車を押しながら此方に近付いてきていた。呼んでいた対象はどうやら私だったらしい。
「何でしょうか」
「ああ、急に呼び止めてすまない。これ、キミのじゃないか?」
そうして差し出されたものは、確かに私が持っていたハンカチと同じものだった。
「あれ?」と思い、持っていた小さな鞄に目をやるとなるほど口が開いている。
中身を確認してみると案の定ハンカチが無くなっていた。
「あ、あー、すみません私のみたいです」
「それなら良かった!」
なんと快活に話してくれる人なんだ、ゴーグルの下はきっと好青年に違いない。
差し出されたハンカチを受け取りお礼を言うと、「俺も警察まで届けに行かずに済んで良かったよ」と笑いながら言ってくれた。あ、この人絶対いい人だ。
いやいや、わざわざハンカチを落としたと呼び止めてくれる人なんだ、間違いなく絶対いい人でしょうよ。私の中のゼウスもそう言ってる。
「…あれ?」
って所でふと不思議に思ったことが口にまで出てしまった。
お兄さんもその声を聞いて「どうしたんだ?」と首を傾げている。…この好青年いい人ってだけじゃなくなかなか可愛いんじゃないか?…ってそうじゃなくて!
「失礼ですがお兄さん、どこかで私と会ったことある?」
しまったこれじゃ何処の逆ナンだ!?
お兄さんもキョトンとしてるよ!!
「すみません逆ナンじゃないです通報しないで」
「いやいやそんなつもりはないよ! でも何処か、というのはちょっと心当たりは無いな…」
「あ、そんな悩んで頂くほどのものじゃないんですが! なんか見たことあるなー、なんて思ったものですから…」
気のせいならそれでいいんですすみません、と告げると、お兄さんは心当たりに当たったのか微笑み、押していた自転車のスタンドを止めてから再び此方に向き直した。
「自己紹介が遅れてすまない。C級ヒーロー、無免ライダーだ!」
「アッー!!ヒーロー様!!!」
そりゃ見覚えあるわ!!!!!!
お兄さん改め無免ライダーさんごめんなさい!!!!!!
すこぶる失礼を働いてしまったことを謝罪する。無免ライダーってあれじゃん、C級の上位でそんな名前見た!サイタマの順位見たときそんな名前見た!!
S級ヒーローの名前と顔ならもう大体インプットしたけど(ジェノスくんチェックの時によく見るから)、他のランクはなかなかすぎる、順位3桁台だったりすると普通に笑って許されそうだけど確かC級の上位だ。知ってる人はきっと多いだろう無免ライダーさんをがっかりさせてしまったかもしれない、本当に申し訳ない!
「すみません近頃バタバタしててなかなかそこまで考えが及ばなかったみたいで!!」
「気にしないでくれ、落ち着いてきているとはいえ、Z市は隕石のせいでただえさえ余裕がないんだ。俺が来たのも別にチヤホヤされたくて来たわけじゃないし」
「? YOUは何しにZ市に?」
「金銭支援は難しいからね、せめて人手で補えることがあるなら力になれるかなって」
みんなに聞いてほしいことがありまーーーす!!!!!なーにー!!!!!
荒れた大地に生命が息吹きやがて緑鮮やかな森になるレベルで無免ライダーさんいい人ー!!!
「キミも何かあれば頼ってくれ」なーんて爽やかに続けられて落ちない人とか居ないでしょーよ!!!推します。
「握手してください」
「えっ? あ、ああ」
「なーんてことが昼間あってさー! 無免ライダーさんほんといい人だね、今日外に出て良かったと心底感じたよ爽やかオーラがもうゴーグルで隠せないほど溢れてたよ」
「はいはい、良かったな」
夜。
もはや恒例となりつつあるサイタマ家での食事中、私は無免ライダーさんとの出会いの興奮をつらつらと語っていた。
「無免ライダーといえばC級の1位の男ですね」
「え! 1位だったんだ無免ライダーさん、上位に居たって事しか覚えてなかったや」
「何度か協会からB級への誘いを受けているようですが、全て断りC級1位に居続けているらしいです」
へー、せっかくのランク昇格を断るなんてそんな人も居るんだなぁ。
C級って確か週一のノルマがあるんでしょ、サイタマなんてそれをネックに思ってるだろうから、B級昇格の誘いがあればすぐに乗るだろうに。
…まぁあの良い人の象徴みたいな人だし、C級は怪人退治よりも人助けの方が多いらしいからそういう意味じゃ何の苦も無さそうだけど。
「何故断り続けているのかという理由はあれこれ推測で挙げられていますが、彼の場合はB級1位のような陰気臭い噂は無いのできっと深い理由は無いのでしょう」
「へぇ、さすがジェノスくん歩くウィキペディア………B級1位って?」
「B級1位は…」
と、ジェノスくんが話を続けようとしたところで電話の音が鳴り響いた。
私の着信音では無いので他の人の、となると、
「失礼」
やっぱりジェノスくんだった。サイタマは携帯持ってないしね。
ジェノスくんは電話に出ると部屋から出ていく。
こんな夜にまで電話が掛かってくるなんて大変だなぁ、やっぱりヒーロー協会からかな。
…夜でも怪人が出たら、やっぱり呼び出されたりするのかなぁ…。
「ヒーローって夜でも呼び出されたりするの?」
「知らねー、少なくとも今のところは無いけどな」
「大変そうだねぇ」
なんて少しの間サイタマと話していると、すぐにジェノスくんが戻ってきた。
落ち着いた感じで戻ってきたから、何となく協会からじゃないんだなと察することが出来たけど、そうだとしたら何だったんだろう。
「あれ、協会からじゃなかったのか?」
「はい、クセーノ博士からです。少し頼み事をしていたので、その件で」
「ふーん…」
サイタマナイス!
なるほど、例のすんごい博士さんからだったのか。
話を聞く限りだと保護者さんみたいな人?だし?、こんな時間に掛けてきても問題は無いのか。
……………………頼み事かぁ…………。
「ジェノスくん私にも何でも頼んで良いからね」
「……はぁ」
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