現代的友愛ロマン






銀髪の子が木のそばを指さした。それを見た男が人混みの中から颯爽と現れて何かを落とす。おそらく故意に、だ。何事もなくそいつが去った後で、彼と話していた女の子がその木に近づいて『それ』を踏みつけた。これは故意ではないだろう。よく見ると、何が入っているかは分からなかったがそれは小袋だった。女の子は悪巧みが上手くいった子供のように口角を上げながら銀髪の子のほうを見た。彼も、同じようににやにやと楽しそうにしていた。

「ねぇ、あなた、お昼休み中庭にいたでしょ?」
「そうだけど……」

放課後。彼はまた同じ場所で木にもたれかかっていた。前髪が目の辺りまであるけれど、この暑いハワイで鬱陶しくならないのだろうか。日本の夏よりハワイの方が涼しいと聞いたことがあるけれど、私は北国出身だからハワイは暑くて暑くて仕方ない。彼はそんな故郷を思い出させるような冷たい瞳で私を見上げた。

「あの女の子に何を渡したの?」
「な、なんで知って……!」
「ずっと見てたもの。校舎裏から男の人が出てきて、小さな袋を落としていったわ。女の子はそれを踏みつけて初めて、袋の存在に気づいたみたいだった。……それじゃあまるで、男の人が袋を落とすのを、貴方が知ってて彼女を誘導していたみたいだわ」

事細かに説明していると、突然目の前の男の子が飛び上がって私に襲いかかってきた。瞬きをした一瞬のうちに視界が入れ替わり、今度はわたしが見下ろされる側になってしまった。男の子の強い力で押さえつけられているせいで身動きが取れない。

「は、離して!急に何するの!」
「君、誰?警察とグルなのか?どうやってここを突き止めたの。それに、おれのことを現行犯で逮捕すれば良かったのに、なんでわざわざ放課後まで待ったんだ?」
「警察?何の事よ!私あの袋の中身が知りたくて来ただけよ!」

袋の中身は、知らない方が良いものだったのかもしれない。だがそういうことを言われると気になってしまう。好奇心は猫をも殺す、とはこういう状況のことなのかもしれない。関われば犯罪に巻き込まれることだってあるかもしれないが……彼はまだ十代半ばと言ったくらいで、私と同い年か年下だ。そんな歳の近い子が、なんのために犯罪に手を染めているのかは気になる。

「……コールド・クエスト」

彼の熱を奪って、変換する。……彼の体温が急激に下がり、私の体温が急激に上がる。ノースリーブの服を着ていて良かった。私の肩に触れている彼は両手が熱くてたまらないはずだ。彼が脊髄反射で思わず手を離した隙に彼を突き放した。
熱を奪い、自分の体内でそれを変換する。それが私に与えられた能力だ。母にも父にもない、何故か私にだけ出現した能力。私はそれをコールド・クエストと名付けた。

「な、なんだ、何をしたんだ?」
「質問に答えて。そうしないと、貴方の体温四十五度くらいまで上げちゃうから」

まあ、その分私の体温が下がるからそんなことはできないのだが。

「君、見えるヤツなのか」
「見える……はッ!」

私を、いや、私の背後を見て彼はそう言った。CQのヴィジョンが見えている。ということはつまり……。

「あなたにも、能力があるのね」

彼はさっき見たのと同じ、いかにも悪戯好きだというふうな、にやりとした笑みを浮かべた。ししし、とそれっぽい擬音まで付けて。
二人で木のそばに座り直した。一向に能力を見せてくれる気配がないので、とりあえずCQをしまった。それよりも聞きたいことがたくさんあるからだ。

「私鴇子って言うの。今年で十七歳よ」
「ジョディオ・ジョースター。十五歳。兄が一人いる」

自然と仲間意識……いや、敵になってはならないという意識が芽生えた。能力を使ったケンカなんで目立つし、私は別に構わないが彼にとっては悪影響しかないだろう。そんなことになればきっと彼の悪事もバレてしまう。

「年下……じゃあ、ジョディオくん。いいかげんあの小袋の中身を教えてよ。気になっていつも通り寝付けないわ。ああ、さよなら私の八時間睡眠……」
「はあ?あのねえ、おれがあれだけ取り乱したのに中身に気づかないわけ?小袋に入ってて、こそこそ隠れなきゃ買えないようなもので、みんなが喉から手がくらい欲しがってものって言ったら……ひとつしかないだろ」

袋に入るといえばやはり粉系か。小さなポチ袋だったからな。こそこそ隠れなきゃ買えないってことは、禁止されているものだってことだ。そしてものすごく人気がある。う〜ん……分からん……。

「……キャンディ・フォレストのパチパチキャンディー?ほら、モールの三階の駄菓子屋さんよ。あれ私が小さい時すごく流行ったのよ。取り合いになる子もいたから学校に持ってくるの禁止だったし、すぐ売り切れちゃうし」
「あはは、面白い冗談だなァー……………………本気で言ってる?」

もちろんふざけただけだ。違法なものであるってことは分かるけど、そっち系の話題に疎いせいで全く思いつかない。

「降参降参。わかんないよ。違法なものっていうのは分かったけれど。……あ!もしかして、まや…んぐっ」
「馬鹿……!そんなデカい声で言うヤツがいるか……!」

ジョディオくんは私の口を抑えながら辺りを見渡している。ジョディオくんの手は男の子らしく少し固めで、でもなんだかキャンディみたいな匂いがする。やっぱり袋の中身はパチパチキャンディなのだろうか。 そんな感想も、唇越しというのでなんだか、変態みたいだけれど。

「このこと誰にも言うなよ。もし誰かに言ったら、お前はおれたちを裏切った仲間だってことにしとくから」
「言わないよ。それに、せっかく能力持ち同士知り合いになったんだから、友達になりましょうよ!インスタやってる?」

一応、やってはいるみたいだった。フォロー数の割にはフォロワーが凄く多い。学年は違えど名前は知っている、スクールカーストの上の方にいる女の子たちも彼をフォローしていた。……ジョディオくんは人気者らしい。

「ほらこっち向いて!はい、チーズ!」
「おわっ、ちょっと……」

スマホに夢中な彼の肩を引いて、画角に入るように私の傍に寄らせた。驚いたまぬけな顔がかわいらしい。フィルターをいじって、タグ付けしてストーリーに投稿した。

「おい、勝手に」
「『親しい』よ?私お兄ちゃんと妹しか入れてないし。そうだ、ジョディオくんも追加しといてあげるわね」
「……あ、そう」

私がスマホの画面に集中していると、どこからかパシャと見慣れた音がした。それに反応して顔を上げた。ジョディオくんはスマホを構えてニヤニヤと笑っている。あの顔は、なにか悪いことを企んでいるか、もう実行している時の顔だ。

「じゃ、これも勝手に上げとくから」
「……もう」

普通に公開で投稿されていたせいで、ジョディオくんの彼女なんじゃないかと噂が立ったのはまた別の話。







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