パーフェクトユース






今、僕は今世紀史上最大の試練に直面している。
隣でぐっすりと眠っている彼女は数ヶ月前に雀荘で出会った女の子だ。そこの従業員だった同い年の彼女と、大学進学の為の金を集めていた僕。お互いに一目惚れし合うというまるで漫画のような展開の末付き合うことになったのだった。そこまではいいのだが。

(ど、どこだよ……ここ)

天井から流れるピアノのBGM、ピンク色の派手な壁、なんとも言えないいかがわしい雰囲気の室内。実は昨日のことをよく覚えていないのだ。

彼女と二人で天の家に遊びに行った。本当は行く気などさらさらなかったのだが、天さんと何故か二人いる奥さんがしつこかったのと、紗雪がその奥さんと仲良くなってしまったので、仕方なく行く羽目になったのだ。
僕たちはまだ未成年なのでお酒が飲めない。酔っ払ってどんちゃん騒ぎをしている三人を紗雪が楽しそうに見ていた。僕はそんな彼女に見蕩れていて……そうだ、間違えて天が飲んでいたお酒を飲んでしまったのだった。

(なんでよりによってここに来ちゃったんだろ)

ラブホテルというのは、もちろん大抵の場合『そういうこと』をするための場所である。無理矢理連れてきてしまったのなら、いや、ここを僕が提案した時点で彼女に謝るべきだろう。
酔っ払っていたせいか何も覚えていないのだが、天たちがイチャイチャし始めた辺りで、紗雪がそろそろ帰ると言い始めたんだったっけ。夜の十一時頃、ぼうっとして頭が働かない僕を介抱してくれた。

「ん、んん……」
(……あっ)

身動ぎした彼女のシャツがはだけて、お腹と胸元が見えそうになる。慌てて目を逸らして見なかった振りをする。
彼女に背を向けるようにして寝転がる。無心になろうと室内のBGMに必死で耳を傾けたり、天井の模様の数を数えようとしたが、あまり効果はない。

「……ひろ、くん」

そんな色っぽい声で僕の名前を呼ばないでくれ!
そして紗雪は、なんと僕の背中に抱きついて来たのだ……その柔らかいものが当たっているせいか、いよいよ羞恥で思考が爆発してしまいそうになる。
ああもう、こうなったら!

「いい加減起きろっ!」
「っ!?きゃあっ!」

カッとなって、思いっきり布団を引き剥がしてやった。

「ええっ、ひろくん、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないっ!君が馬鹿すぎて、ほんと嫌になるよ……!」

眠たそうに目を擦る、危機感のない彼女にそんな言葉を吐き捨てる。結局は照れ隠しと、他の男にもそんなことをしているんじゃないかという怒りなのだが。嫌味な言葉を吐いてもその感情がマシになるということはない。

「ねぇ、もしかして昨日のこと覚えてないの?」

彼女のシャツをひっぱって、無理矢理ナイトウェアの第一ボタンを閉めた。

「酔っ払って、天の家を出たところまでは覚えてる」

彼女は顔を赤く染めて話し始めた。何があるって言うんだ。そんな表情をされたら不安になってしまうだろう。

「あの後、大変だったんだから。その……ひろくんの様子がおかしくて……」
「様子?」

纏めると、こういうことらしい。
天の家を出た後、初めはそのまま家に帰る予定だったのだが……僕が紗雪に抱きついたまま眠ってしまった。なので仕方なく近くのホテルに入ることにしたのだ。だが、彼女がここがラブホテルだということに気づいたのはチェックインの時で、今更やっぱり止めますとは言いづらく、仕方なくそのまま部屋を借りることにしたんだとか。

「ごめん、お酒を飲んだのはグラスを間違えたせいだったとしても……君に迷惑かけちゃったな」
「ほんとよ、私がひろくんの肩を支えながらホテルに向かってる時、どれだけ大変だったことか……」
「ごめん……」

うつむいて謝った僕の耳元に、突然彼女が近寄ってきた。

「ひっ!」
「こうやって意地悪してきたのも、覚えてないんでしょ」

彼女からはいつもよりずっと華やかな花の匂いがした。きっと、ここのホテルでシャワーを浴びたんだろう。

「好き好きって、ずっと言われるこっちの身にもなって」

まさか、僕がそんなことを言ったのか?
信じられない。甘えるように擦り寄ってくる紗雪の背に手を回す。だが、頭を撫でてあげれるほどの余裕はなかった。脳内の整理が追いつかない。

「ひろくん、すきだよ。すきすき。ひろくんだいすきっ」
「……っ、勘弁してくれ……」

彼女は僕の耳元でそう呟いている。
恥ずかしすぎて死んでしまいたいくらいだけれど……できればあともう少し、この幸せを堪能していたい。







TOP