恋愛戦争宣戦布告
赤木は困惑していた。一服する自分の目の前にいるのは二人の男女。井川ひろゆきと、笠城紗雪。よく麻雀をする仲ではあるが、彼らは時々変わったことをする。
「私の方が先に赤木さんを落としてみせるんだから!」
「やれるものならやってみてください。赤木さんが君みたいなちんちくりんを好きになるなんて到底思えませんが」
朝からこの調子である。仲がいいのか悪いのか、二人は赤木にされたことを自慢し始めたかと思えば、今度は赤木の良さについて語りだし、今は何故かどちらが早く赤木を落とせるかという勝負に変わっていた。
「私だって料理もできるし、自分で言うのもなんだけどちょっといい顔してる方だと思うし、勉強……はできないけど!おっぱいもでかいし、間違いなく私の方が赤木さんに相応しいもん!」
「そういう自意識過剰なところがダメなんですよ!それに料理なら僕だってできるし、間違いなく赤木さんは謙虚で博識な人間の方が好きに決まってる!」
いや、お前は謙虚か?赤木はひろの発言にツッコミたかったが、今変なことを言ってしまえばどう絡まれるか分かったもんじゃない。
「ひろじゃダメよ!全然ダメ!ぺったんこじゃない!男の人はおっぱいが好きなの!」
「男なんだから当たり前じゃないですか!そもそも、そんな恥ずかしいことを大声で言わないでください!」
紗雪はひろの胸板に手を押し当てた。形を確かめるようにさすった後で、バシバシとそこを叩く。ひろはセクシャルハラスメントだのなんだのと騒いでいる。
「赤木さんはどう思いますか?」
「あ?あー……何がだ」
「おっぱいですよ!もちろんあった方がいいですよね!」
(そんなことを大声で言うなよ)
恥じらいもなく騒ぎ立てる二人に、赤木はどう返せば事が落ち着くかを考える。
「俺は胸より尻とか太ももの方が……」
思ってもいないことを赤木が適当に言うと突然場が静まり返った。紗雪とひろは顔を見合わせて、ぱちくりと瞬きをすると、お互いの体に手を伸ばす。
「どっちの方がいい体か勝負よ!触らせなさいよその太もも!」
「や、やめろっ!この痴女め!だから赤木さんに好かれないんですよ!」
「痴女とは何よ!あんただって、さっき私の谷間ガン見してた癖に!どうせドーテーなんでしょー?」
赤木は二人の声を左から右に聞き流し、騒ぐ声で音の聞こえないニュース番組をぼうっと見つめていた。政治家の不祥事だとか、歌手の新曲だとか、そんなことには一切興味は無いが、喧騒から逃れるのにはちょうど良かった。
「そ、そんなことは関係ないだろっ!なら紗雪は経験あるんですか?」
「……や、やあねえ、もう、レディーにそんなこと聞くなんて……!破廉恥!変態!」
二人は赤面して、目が合ったかと思うと直ぐに顔をを逸らしてしまった。何故か二人の心臓はバクバクとうるさく鳴っていた。冷や汗が皮膚を伝う。
「そ、そういうのに興味なかっただけ、だから……」
「……っ」
「なんだぁ?喧嘩したり照れたり変な奴らだな」
キャミソールに薄い上着を羽織っただけの紗雪は、なんだか恥ずかしくなって、なんとなく腕をさすった。紗雪に比べて厚着をしているひろも首に手を当てて下を向いた。赤木はそれを見て、何かイタズラを企む子供のような笑みを浮かべた。
「俺が奪ってやろうか。あんたらのハジメテ」
その言葉に、二人は更に林檎のように顔を赤くする。しどろもどろになった彼らの頭を、追い打ちをかけるようにぽんぽんと撫でてやれば、ついに涙まで流し始める。さすがにリアクションが大袈裟だろうと引き始める赤木の前で、二人はお互いを抱きしめながら泣いて喜んだ。
冗談で言ったつもりの赤木だったが、紗雪とひろは初めからずっと本気であることを、まだ彼は知らない。