気に入られるはなし1

私は良くも悪くも素直者で嘘が大嫌いだ。
悪口も本人に言えないなら陰口たたくなって思う。愚痴ならともかく、悪口は本当に嫌い。

そんな私を知っている友人達。ある放課後に、学校で人気者の仁王雅治について語り出した。
彼はペテン師というより嘘つきであるだの、女好きで弄んでるだの……。中学生でそれはないだろっていうような内容がわんさかでてくるでてくる。

こういう話は嫌いだけど好きな人がいるのも知っている。
だからはじめは「その話作った人うまいね、うけ!でも本気にする人もいるかもしれないからやめとこう」って優しく促してた。それでも止まらず「てかさー、本当に仁王が存在してるかさえ怪しくない?」とみんなで笑いだした。さすがに言い過ぎだろと思い「いい加減にしなよ、そんな適当な話自分もされたら嫌じゃない?」と強めに言った。
プライドの高い彼女。注意されたことにより、敵意をむき出しにして睨んできた。頭冷やせよと思いながら「先に帰るわ、じゃーね」って帰った。

実際、仁王雅治について噂をしているのは彼女だけでない。この学校、女子のみならず男子でも知っている話がほとんどだ。その内容がありえなさすぎて、よくネタにされている。のにも関わらず、本気に捉える人がいるのも確かだ。話したことはないけど、仁王も否定すれば良いのに問われても妖しげに笑うから本気にされるんだよと、仁王に対してもイライラするのだった。



そんなことがあったのも忘れた頃に、その仁王から話かけられた。

「のう、お前さん」

「え?私?」

「そう」

「みょうじさんじゃろ?ラインしとる?」

「うん」

そうシンプルに答えるとじゃあID教えてと言われた。
私はマメな方ではなくて読むのも返事をするのも後回しにしてしまう。しかもそれを忘れて未読既読スルーをするものだからよく怒られていた。だからあまり人に教えないようにしている。初めましての人に教えるなんてよけいにしたくない。

「え、なんで、嫌だ」

「ひどいなり……」

即答するとみるみる泣きそうになるので、私が悪いことしたみたいじゃんと焦ってしまう。

「わ、わかったから!」

「読み取るからコードだして」

泣かないでとスマホを出したが泣きそうだった顔はどこへやら。あまりにもケロッとしているものだから、ペテン師って言われているのってこういうことか、と納得した。

たったそれだけの数分の出来事。なぜか一気に疲れたが、更にしんどかったのはこの後である。連絡先交換し仁王が見えなくなると、すぐに友達が駆け寄ってきた。

「なまえ!仁王の連絡先教えて!!!!」

「勝手に教えられないよ」

「はあ?仁王の連絡先がどれだけ貴重かわかってんの?テニス部だってレギュラーしか知らないんだよ?」

「それ、ますます勝手に教えるわけにはいかないよね?」

「誰にも言わないし!」

「私が言っちゃうことになるから自分で聞いてみて」

もうこの話は終わりね、と振り返らずにその場を離れた。
背中越しでもわかる刺さる視線、殺気がすごい。あんなに悪口みたいなことを陰で言って笑っていたのに、その変わり様が恐いと思った。


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