それからというもの、たまに仁王からラインがくるようになった。返事をしないと鬼ラインになるので、適度にスタンプだけで返事をするようにしている。今まであまり使ったことのなかったスタンプがこれほど便利だと思ったことはない。
日がたてばたつほど、ラインがくればくるほど問題が発生した。
周りの女子からイジメととれるようなことを言われるようになった。
「友達いないくせに」「本当はみんなあんたのこと嫌いだよ」「調子のってんなよ」
それも友達だと思っていた人に友達がいない人と言われ驚いた。彼女たちは私のことなんだと思っていたのだろう。
直接言えないなら陰で言うな。そう思っていたが、直接言われると結構堪えてしまい直接言うのもどうかと思う、なんて矛盾した気持ちがうまれた。
ただ私の性格からすれば、ショックではあるが全員から好かれる必要性はない、とも思っている。 全国的に人気アイドルだって必ずアンチはいるものだ。合う合わないは必ずある。なので「全員に好かれないと駄目なの?」と聞くと更にヒートアップしてしまった。こうなってしまうと手のつけようがないのは長年一緒にいてよくわかっている。そう、幼稚園から一緒にいたのに一人の連絡先が原因でこんなことになってしまった。
別に意地悪で教えるもんか、なんて言っていない。私は人として当たり前の対応をしたつもりだ。昔から親にも言われていたが言い方がきつく聞こえるのが問題だったのかもしれない。それにいくら正論だとしてもそれが刃になって相手を傷つけることもあると散々言い聞かされてきた。それでも今回のことは理不尽だと感じる。
そこにタイミングが良いのか悪いのか。仁王がクラスにやってきた。当然この喧嘩らしき発端となった本人が来たのだから、みんな仁王に注目する。
あ、どうしよう。
そう思ったのもつかの間、友人(と思っていた)一人が仁王に精一杯可愛い笑顔を作りながら近寄って行く。他の女子も慌ててなでつくように仁王に近づいた。
「仁王君どうしたの?誰かに用事?」
さっきの聞かれてたとか思わないのかな、私なら思っちゃうけどな。どこか他人事のようにその様子を見ていた。仁王はしばらく黙っていたが急におかしそうに笑いだした。周りも不信に思ったのか静かになった。
「なんじゃいきなり、存在してるかも怪しい言うとった奴に媚びうってどうする」
「え……」
「俺ならそんな相手に近づかん、それとも珍獣ハンター気取りか?」
好きだから気になるからこそ話題になっていただろうことを知っているんじゃないか、そんな気がした。だってこわがらせるのがうまい、目が笑ってないせいかみんな涙目だ。
その空気をわったのは男子だった。
「おいみょうじの彼氏毒すぎんだろ」
「彼氏じゃない」
冗談で言ったつもりなんだろうけど仁王が真面目に答えるもんだから、さっきまで泣きそうになっていた子達があざ笑うように私を見た。
私も付き合ってるなんて言ったことないし、そんな素振りも見せてないのに。なぜだか私が見せ物状態になっているのが気に食わない。
「で、仁王もみんなも何がしたいわけ?」
そう聞いてみたが、私と一番仲良くしていた(と思っている)子が「なまえ、本当にぼっちになったね」って言ってきたので、さすがにぼっちは嫌だなと戸惑ってしまった。一人は好きだけど独りは寂しい。そんな私に仁王が近づいてきてなんと告白をしてきた。
「俺がおるき、付き合ってください」
「え……」
周りは「嘘だよね!」と騒いでいた。いや、さすがに告白までペテンなら引くなーと思ってもないことを考えた。その騒ぎにも仁王は冷静で「やかましい」と一喝し「返事は?」と聞いてきた。私は少し考えたが素直に返答に困った。そんな風に考えたことも見たこともなかった。
「わかんない」
「ちょ、空気よみんしゃい」
仁王はきょとんとしたがすぐに声を出して笑った。クラスの子達もなにそれ状態になっていた。
「だって、仁王のことまだよく知らないし」
「これから知ったらええよ」
「じゃあ……お友達からで」
「今はそれで充分じゃ」
片手をすっと出されたので握手をした。変な感触がしたので慌てて離して見たら、赤いハートのシールが貼られていた。
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