◇スイセンを僕に

「またライム?」

せっかく遊びに来てくれたと思ったらなまえのスマホが“ライム”“ライム”と鳴いている。すぐに開いて返事をするものだから相手も同じ調子で返してくる。確かにテレビを見てるわけでもゲームをしているわけでもないけど、付き合ってからゆっくり過ごすのは久しぶりだというのに。楽しみにしていたのは自分だけなのだろうか、そう考えると寂しくなる。付き合う前の方がよっぽど束縛してくれたし妬いてくれた。

「なまえ」

名前を呼んでもニコニコしながら返事を打っている。しょうがない、追加の飲み物でも持ってこよう。そう思い部屋を出る。

リビングへ行くとオシャレをした母がいた。

「あ、母さんも出かけるからね」

「もって?」

「お姉ちゃんも出たから」

「そうなんだ」

「お留守番よろしくね」

「うん」

「なまえちゃんに変なことしちゃ駄目よ」

「俺をなんだと思ってるの」

からかわれたので母お気に入りのお菓子も持って部屋に戻った。さっきまでご機嫌だったなまえが顔を青くしていて、こっちまで変な汗をかきそうだ。

「なまえ?どうしたの?」

「ケータイ、」

「うん」

手に持っているスマホをよくよく見るとなまえのではなく俺のだった。見られてやましいものは何一つないが、紛失した時の為にロックはかけている。番号はなまえの誕生日だからもしかしたら開けてしまったのかな、と思った。後ろめたさで話せないのかと思いもう一度声をかける。

「中を見たの?」

ビクっと肩が跳ねた。別に、見られても怒らないのに。むしろ気にしてくれてたんだって嬉しいくらいだ。

「電話、かかってきてて……」

そう言って渡してきたから履歴を確認すると、なるほどと納得した。

「本当だ、かけなおすね」

さっきまで放置されてたんだから、少しくらい意地悪しても良いだろうと思った。目の前で、わざとらしく相手の名前を呼んでいつも以上に優しく会話をすると、泣きそうな顔で抱き着いてきた。ああ、こういうの久しぶりだなって、ちょっと前までのことを懐かしく感じた。電話を切ると「誰だったの?」と消えそうな声で聞いてきた。

「ねえ、俺のこと好き?」

「……好き」

「じゃあ、ダメだよ」

「え?」

「俺をフリーにしちゃ」

スマホを床に置いて抱きしめ返すとグスグスと泣き出した。

「ごめん、なさい」

「良いよ、俺もごめんね意地悪して」

「サエは悪くない」

「さっきの電話、本当に誰かわからない?」

「うん」

「何年の付き合いしてんの、姉貴だよ」

「……あ」

名前だけで登録していたから、女の名前というだけで勝手に色々想像したんだろうけど、これは姉の方がショックを受けるんじゃないかって笑った。本当にごめんなさいって必死に謝るから内緒にしといてあげる。でもやっぱりさっきまで寂しかったのは本当だから、俺だけを見てなよってそっと唇を重ねた。



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