「赤也おっはよー!」
「はよーございまーす」
「なあに、なんで朝からそんなに疲れてるんですかー」
登校中に見慣れた姿を見つけたので声をかける。眠そうにこっちを見ることもなく挨拶を返しててきたので、よしよしと頭を撫でると睨まれた。おーこわいこわい。
「新作やってたらとまらなくなって寝不足っす」
「あーなんかゲーム出るって言ってたもんね、楽しかった?」
「まあまあっす、先輩はなんで今日早いんすか?」
「今日はねお菓子の本読むんだ、図書室で友達と待ち合わせしてるの」
赤也の隣に落ち着いて自然と一緒に学校へ向かう。いつもギリギリ登校しているのを何故か知られているので、不思議に思ったのだろう。朝練のある赤也と同じ時間だもんね、私でもなんでって聞くと思う。なので理由を答えたら更に不思議そうにしていた。
「お菓子っすか?」
「そそ、もうすぐバレンタインでしょ?だからレシピ探し」
そう説明すると目を見開いてバッとこちらを見てきた。え、なに、怖いんですけど!あまりの勢いに怯むと真剣な顔で失礼なことを言い出した。
「先輩……そんな大事なイベントなのに手作りとか大丈夫なんすか」
「あれ?なんかすごい失礼なこと言われてる気がするよ?」
遠回しにお前お菓子なんか作れねーだろって言ってるよねそれ。意外なのかもしれないけど、私は毎年手作りして配っている。でもそれを知らない赤也はなにやら勘違いをし、ふーん誰かにあげるんだ本命いるんだ、など呟いている。もちろんめんどくさいので聞こえないフリ。
「赤也去年いっぱいもらってたよね、今年もいっぱいもらえそうだね」
「別に、知らない人にもらっても嬉しくないっすよ」
明るい話にしようと思い言ったのだが余計に機嫌を悪くしたらしく、無言で歩く赤也。わかりやすく中々機嫌がなおらないので、そっとしておくのが良いと何度かのやり取りで学んだ。
学校についたら何も言わずに真っ直ぐ部室へと向かって行った赤也。私、今回は何の地雷をふんだのだろうか。思い返してみるもただ世間話をしていただけのはずだ。考えてもわからないな、そう結論付け図書室へ向かった。
日頃お菓子なんか作らない自分達に作れるかどうかなんて考えもせずに、あれが良いこれが良いと自分達が食べたい物に付箋を貼った。夢中で本を読んでいたらホームルームが始まるギリギリになっていた。
私達の学校は寛大でこの時期になると調理室が開放される。職員室にあるボードに、使用時間と名前を書いておけば誰でも使えるのだ。つまりはバレンタインに向けて試作を学校でできるというわけ、もちろん私もそうする。
「今年はセバスチャンにするよ!」
「なまえチャレンジャーだね!」
「今年で中学も終わりだしね、はりきるよ!」
見た目が好きでいつか作りたいとずっと思っていた。ただ二種類の生地を作って型抜きして組み立てて……と工程が多く避けていた。しかし中学校最後の思い出にチャレンジしてみようと思った。問題は誰に渡すかだが、決まっていない。はりきりすぎて引かずに美味しく食べてくれる人、頭の中で知っている人を早送りして止める。あ、赤也もいるしテニス部に差し入れしようかな。レギュラーのみんなとはそれなりに仲良くしてる方だと思うのできっと受け取ってくれるだろう。
「ねえ、ちよは誰にあげるの?」
「本命に告白!」
本命の言葉にまさか好きな人がいたなんて気が付かなかった私は、知り合ったキッカケなど聞き出し当日渡す作戦などの内容で盛り上がった。その勢いのまま私達は放課後に明日の放課後調理室使いますとサインをした。
私はその日の放課後、明日の試作のための材料を買いに行った。
「なまえはどうするの?」
「ん?なにが?」
「誰にあげるの?」
「あー……当日までには決めるよ」
「義務じゃないからね」
ちよが言いたいことはわかる、バレンタインは義務ではない。誰かにあげなければならないわけではない。
でも、作りたいんだもん。
でも、相手はピンとくる人がいないんだもん。
作りながらゆっくり決めるのはだめなのかな。
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