神社の守り神様42

神様から説明を受け、後悔と罪の意識でつぶされそうだった。神社に行ってももう会えない。学校に行ってももういない。誰も仁王のことがわからない。仁王の存在が、本名が知られたら消えてなくなるしかない。それなら消えるのは仁王じゃなくて私だけで良かったじゃないか。何度もそう思った。でも神様という立場上、人を消すことはできない。もしくは禁じられているのかもしれない。私が今ここで後を追って命をたったとしても、なんの意味ももたない。自分の無力さに何もできないまま二ヵ月が経った。

仁王と最後に会話をしたあの日が、何度も夢で繰り返される。

まるで助けてと言われているようで、起きた後はいつも汗だくだ。
この日も同じ夢を見て目が覚めた。あれから食欲がなく朝食は特に食べることができなくなり、いつしか用意されることもなくなった。代わりに常備してくれるようになった物がある。お肉と、グラノーラチョコ。毎日同じお供え物作り神社へ行っているのを知った母が買ってきてくれるようになった。理由は聞かれなかったが、何かあったんだろうと気を使ってくれたみたいだ。今日もキッチンに立ってから、少し早い時間に家を出た。しかしそのまま学校に行く気になれなくて神社へ寄った。

はじめは幅の狭い階段を慎重に踏みしめていたが、今はすっかり慣れスッとのぼる。相変わらずこじんまりしているが、綺麗な状態だ。お供え物は白狐がいなくなっても多くが稲荷寿司だった。きっとみんなも忘れたとは言え、どこかで覚えているに違いない。それが自分のことのように嬉しかった。そこにコロコロステーキとグラノーラチョコを置く。

鳥居の傍にある古びた手すり。街の風景を見ることができるその場所は、お年寄りの人気スポットだ。体重をかけるのは怖かったので、そっと手をかけるだけにして眺める。いつもは学校終わりに寄っていたので夕焼けがかっているが、朝はまた別の景色のようになるのが好きだ。

いつか仁王と一緒にやりたいと思って鞄に入れていたシャボン玉を取り出した。

ゆっくり吹くとふわふわ空に上がっていく。

これは神様にごめんなさいの気持ち、こっちは仁王にごめんなさいの気持ち……。
一つ一つに想いを込めて大きなシャボン玉を作る。パチンと弾けると私の気持ちも少し持っていってくれたような気がした。

仁王が好き、笑ってくれて嬉しかった、いつも会話は楽しかった、喧嘩だって良い思い出。
それでこれが仁王に会いたいって気持ち――。

全部にありったけの想いを託して慎重に飛ばした。

それを見届けて大きく深呼吸をする。その時、誰かが階段をのぼってくる音が聞こえた。よく人が出入りしている割に、誰かと出くわすことはなかった。私は珍しいなと思った。お年寄りの朝は早いからきっと大人ではないだろう。自分と同じ学生、もしくは関係者の人が溢れるお供えを整理しに来たのかもしれない。そうすると挨拶はした方が良いだろう。まだシャボン玉を続けるつもりだった手を止める。

凝視していたら相手も驚くだろう、そう思いもう一度街を眺めながら音に集中した。


「シャボン玉吹いてたの、お前さんか?」


懐かしい声に懐かしい訛り。いよいよ幻聴まで聞こえるようになるなんて末期かもしれない。自分に呆れながら振り返ると、そこにいたのは、真っ白な肌、長い銀髪、少し釣り目の男の人。

「……仁王?」

まさか、そんなわけがない。だって仁王はあの時、罰せられて消えていなくなったんだから。でもじゃあ目の前にいるのは誰?もしかしてまた夢を見ているの?いつもいなくなるところで目が覚めるけど、今日は都合の良い夢を見てるの?

この目の前にいる人が本当に仁王ならどれだけ嬉しいことか。それなのに疑いばかりで信じることができない。

「本当に、仁王なの……?」

そっと近づき手を伸ばす。恐る恐る触れた彼の顔は冷え切っていた。こんな大胆なことをしても逃げない。ああ、なんてどこまでも自分に甘い夢なんだろう。こんな浅ましい自分に苦笑し、離そうとした手をするりと握られ細い指が絡まった。



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