いつの頃からか、自分でもわかるくらいにモテるようになった。
同時に、異性の友達ができなくなったのは、自分が友達だと思っていても相手は違うのだとわかってからだ。
異性との間に、友情はなりたつのか。
この問いに「なりたつ」と答えていた自分が懐かしい。
そう思っていたのにみょうじは気が付いたら当たり前のように隣にいて、久しぶりにできた異性の友情に胸がほっこりしたのは確かだ。三年になってから初めて同じクラスになったというのに、すぐに仲が良くなった。良いのか悪いのか『女』を感じさせなくてそのままの自分でいられる。
「お前さんには何でも話せる」
「ほんと?良かった」
最近じゃ誰にも言えないちょっとした愚痴や悩みなんかを聞いてもらっている。嫌な顔なんてされたことがないし、いつも黙って聞いてくれたまに「こうじゃないかなあ」と考えをポツリともらすくらいだ。
話を聞いてもらうのは今みたいに学校の時もあるが、夜にする電話越しでのことが多い。こうして一緒に昼飯をとっていると『付き合ってるの?』と聞かれることもある。そのたびに黙る俺と違って、みょうじはふんわり笑い「違うよ」と答えていた。
「付き合っちまえばいいのに」
いつだったか丸井にそう言われたこともあるが、今の関係を崩すことも嫌だった。きっとみょうじも恋愛感情を向けてこないから、こうしてうまくやっているんだと思う。
授業をサボり屋上でシャボン玉を吹きながらみょうじのことを考えているのは、朝練の時に聞いた話がもやもやするからだ。
「お前らは付き合うんだとばかり思っていた」
いきなり柳にかけられた言葉に「参謀までそんなこと言うんか」と呆れたように返した。
「誰、とは言っていないぞ」
「みょうじじゃろ、他に噂になるような奴はおらんよ」
はじめは揺さぶってるのかと思ったが、次の幸村の台詞でそうではないことがわかる。
「鈴木、告白したけど他校に好きな人がいるからって断られたんだってね」
「ああ、幸村と同じクラスだったな。もうそんなに噂になっているのか」
「席が隣だからたまたま聞こえたんだ。みょうじさん彼氏いるの?」
知っててあたりまえのように聞かれ、今初めて聞いたと答えるのがなんだか悔して「秘密じゃ」と会話を終わらせた。
なんでも話せると思っていたのは自分だけだったのか。好きな人がいるからといってもう話さないなんてことはないが、電話は控えた方が良いんだろうと少し寂しく感じた。
良いのか悪いのか転機というものはタイミングを見計らったかのようにやってくる。
扉の開く音が聞こえた。授業中にここに来る人は今までいなかったので、つい目をやる。
「本当に屋上にいるんだ」
そこに現れたのは隣のクラスの友田だった。柳生に教科書を借りたり話をしに行くと、隣の席にいた友田とも話すようになった。誰から聞いたか問わなくても柳生がうっかり口を滑らしたんだろう。
いくら話すようになったとは言え一人でいる時間が好きな俺からしたら、寛いでいる場所を荒らされた気がして鬱陶しく感じてしまう。隠すつもりはなかったが思い切り顔に出してしまったらしく少し悲しそうな顔をした。
「そんな顔しないで、少し話がしたかっただけなの」
別に今じゃなくても、口を開くとよけいなことも言ってしまいそうで黙って続きを促す。
「あのね、私、仁王君のことが気になってるみたい」
それだけ言うとさっさと出て行った。
気になってるとかみたいという曖昧さに驚いたが、それ以上何も言ってこないことにビックリした。返事をすぐに求めてこないことが新鮮で、悲しそうな顔もずっと頭の中に残ってしまった。
いつも告白されても丁寧に断っていた。色んな噂があるのは知っている。自分で言うのもなんだが、こう見えて結構真面目だったりする。だから傷つけるようなことはしないようにしていたし、真剣な気持ちはちゃんと自分の口から答えるようにしていた。でも返事はいつもその場が多かったのに、今回は告白とまではいかない告白をされたせいでどうして良いかわかりかねていた。
気がつけば彼女を目でおっていた。
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