こういう事は初めてだ。だから誰かに聞いてほしかった。かといってテニス仲間に話せるわけがない、ネタにされるだけなのがわかっている。自分の中では話す相手は初めから決まっていた。いつも通り、みょうじに相談をもちかけた。
みょうじはいつも俺の話を聞いてくれる。
そばにいて安心する存在、ここまで気を許したのはみょうじが初めてかもしれない。学校ではもちろん話す事が多いし、昼はほぼ毎日一緒に過ごしているのに、夜は電話をかけることが多い。初めて実は気になる人がいて、と電話した時も誰なのとか詮索はせずに、うんうん、と親身になって聞いてくれた。
「そいでな、今日は部活見に来てくれたんじゃが先に帰ってしもた」
『なんか用事があったのかな?』
「チラッと見えたんじゃが男の人と一緒じゃったき……」
『ネガティブにならないの!仁王のこと気になるって言ってくれたんでしょ?』
こういうことがあってと一喜一憂する話を聞いては慰め一緒に喜ぶみょうじ。毎日電話しているにも関わらず丁寧に話を聞いてくれるしマイナスになるような発言は一切しない。俺の話を聞いて自分のことのように嬉しそうに返事をしてくれるのが嬉しくて今日は何を話そうかと楽しみにしている自分がいる。
そして今夜も。
『はーいなまえちゃんですよう』
「はーい雅治君ですよう」
『あはは!さすが真似上手いね!』
「こんなもん朝飯前じゃ」
『ふふ、今日はどうしたの?』
この優しい口調も、眠気を誘うくらい心地が良い。
この日はあまりメールを返してくれない事を相談した。メールの頻度は人によるからそんなに気にしなくて良いと言ってくれた。みょうじが言うと本当にそうなんだと安心できるから不思議だ。
俺はこの関係はずっと壊れないものだと思っていた。
不変なんて、あるわけがないのに。
気になっていると告げられ前より関わるようになって一週間がたった頃、今度はハッキリとそして目を見て言われた。
「好きです、付き合ってください」
「良いぜよ」
彼女の真っ直ぐな気持ちに自分も真っ直ぐに返した。彼女は嬉しそうに「今日一緒に帰りたいな、待ってても良い?」と聞いてくる。もちろん断る理由なんてない。付き合い初めは一緒に帰る日だってあるだろうし、さっそく誘ってくる彼女を素直に可愛いと思った。
昼休みになると俺はいつも通りみょうじの所へ行く。
「お腹減ったなり」
「そうだね、食べようか」
「今日みょうじが作ったやつどれ?」
ひょいと広げられたお弁当を覗き込む。
「これだよ〜はい、どうぞ」
「ん、うまい」
そんな俺にみょうじは笑っておかずを掴むと口へ運んでくれる。これがいつもの昼休みの過ごし方。一緒にお弁当を食べてそのまま昼寝をする俺の横でみょうじは本を読む。学校で一番安らぐ時間、俺にとっては大切な時間。
そんな俺たちを見て『二人を見ていると安心感がある、長年連れ添っている夫婦みただ』とも言われた事がある。その問いにみょうじが「こんなに若いのに」と答えていた。もちろん気まずくなることもなく変わらずにこの関係を保っていた。
ご飯を食べて、さあ寝ようかという時「仁王、呼ばれてるぞ」と声をかけられ、入り口を見ると彼女がいた。本当はこのまま寝たかったが、付き合いたてが肝心だと思い、みょうじにちょっと悪いと言って彼女の元へと行く。
「どうしたんじゃ?」
「お話したいなと思って来たんだよ」
放課後は一緒に帰るんだし、昼休みくらいゆっくりしたい。そう思ったが彼女は察してくれない。結局そのまま立ち話をすることになり内容のない会話に疲れた俺はまっすぐ自分の席へと戻った。
放課後はフェンス越しに見られているのがわかって少し心地悪い。おかげで「仁王調子が悪いぞ」と注意をくらう。彼女の隣にいるのは友達で、盛り上がっている様子はこっちが落ち着かない。友達といるのなら今日は本当に一緒に帰るのか、考えながら部室を出ると少し離れた所で彼女は待っていて、友達はどうしたかと問えば先に帰ってもらったと言った。
じゃあ帰るかと歩き出し、立海の生徒も見えなくなってきたところで腕を絡めてきた。歩きづらい、そう思いつつも言い出せずそのまま身を任せた。あまりひっつきたくないのにお構いなしの彼女との距離感がつかめずもやもやとしていたせで、彼女がずっと話していた気がするがほとんど覚えていない。
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