「ただいま〜」
玄関からリビングに向かって声をだしても、いつものように弟達が来ない。珍しいこともあるもんだ。みんながいるであろうリビングへ真っすぐと向かう。しかしそこにいたのは弟でも、親でもなかった。腰まである黒髪の目つきの悪い女。着ている制服は立海のものではない。誰かはわからないが、我が家にいるということはきっとお客さんだろう。
「……こんにちは」
戸惑ったものの挨拶をしてみるが返事はない。なんだこいつ態度も悪いな。しばらくお互い睨みあっていると廊下からいくつかの足音が聞こえてきた。
「お待たせ〜あらブン太帰ってたの?挨拶した?」
母親と一緒に入ってきた弟達は「兄ちゃんお帰り!」と言っただけで、あとは女に遊ぼう遊ぼうと、足元をまとわりついている。それに対しても女は何か言うわけでも動くわけでもなく、ただジッと足元を見ているだけだ。
「挨拶って言われても……」
したけど反応ねーし、そう言いかけて口を閉じた。一応相手は女の子だし、傷つけてしまうかもしれないと思ったからだ。なにかを察した母はフォローするように女の肩を抱いた。
「ちょっとシャイなのよ、ね?」
いやいやシャイにしてもひどいだろ、会釈くらいあっても良いと思う。母の呼び掛けにようやく反応した彼女がはいた台詞は、思わず聞き返してしまうものだった。
「自他共に認めるコミュ障ですが、なにか?」
「は?」
え、なに開きなおっちゃってんの?
てかコミュ障??ってなんだ?
しかも逆ギレしなかったか?
俺は困惑した。
そして思った。
関わりたくない、と。
しかしその思いも次の母の台詞で打ち砕かれてしまう。
「ちょっとお家が今複雑で、しばらくうちで住むことになったからね」
説明にもならない説明の後に耳元でこっそり「手だすんじゃないわよ」と言われた言葉に対して「絶対にないから!!!」と叫ばなかった俺を誰かほめてほしい。
もう何も言えなくなった俺を置いて母はご飯を作りにキッチンへ、弟達はすでにゲームをしている。そして残された俺達。とりあえず自己紹介でもしておこうと勇気を出してもう一度声をかける。
「俺、丸井ブン太、シクヨロ!」
全然よろしくするつもりはないが形だけでも挨拶をした。しばらくメンチ切られてやっと返事が返ってきた。
「みょうじなまえ……」
なんの呪文だよと思った呟きは、彼女のフルネームだった。
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