守護霊1

私の楽しみはもっぱら人間観察。
と言っても誰でも良いわけではない。
現在対象となっているのはそう……帽子をかぶった小さき少年、越前リョーマ。


あれはめずらしく雪がふるという寒い日のことだった。私はあまりの寒さに『このまま地球が凍って生き物全て滅びればいいひっひっひ』とか思いながら歩いていたんだ。

雪に慣れていない私はそれはそれは派手に転んで呆然としたね。
何が起きたかわからない。わかるのは下半身がじんわり冷たく、行き交う人の視線を独り占めしていたということだけ。あの視線には悪意すら感じたが、周りからはそれは気にしすぎだと心配されたっけな。

とりあえずそんな時、彼は私の前にすっと現れ、さりげなく手を差しのべ「立てる?」と聞いてきたのだ。

よくわからないまま雪と泥のついた手で彼の手を握り立たせてもらうと、遠慮もなくケツをバンバン叩かれ「一応女の子なんだから気を付けなよね」とクールに去っていったのだ。

もう私のハートをつかんだね。わしづかみだね。むしろ持って行かれちゃったね。きっと渋い警部がいたら「とんでもないものを盗んでいきました」とか言っちゃうんだろうね。

それからなんです。
『陰ながら』彼の事を調べ、『陰ながら』応援するようになったのは。


今まで知らなかったけど、越前リョーマという少年は同じ学校で一つ下の学年。テニスをやっており一年生でレギュラー入りをしてるすげえ奴。

いや、まじで越前リョーマすごいから。
人気もそうだけどあのツンデレも病みつきになるし、彼が飲み終えたポンタジュースの缶をペロペロする時が幸せである。さらにいえば汗たっぷりすったタオルをくんかくんかしている時には死んでも良いとすら思える(入手方法は企業秘密である)。

お弁当に好きな卵焼きが入っていてこころなしか嬉しそうにしている彼を見ながら、今日も部活に励む姿見を写真にそっと納めようと決めた。




「よう、越前疲れてるな」

俺の肩にもたれかかってきたのは一つ上の桃先輩だ。

「重いっすよ」

「なんかあったのか?」

「いや、最近物なくなるし視線感じるし不気味だなと思ってたんす」

「それどっかのファンのせいじゃねーの?」

二人でそんな会話をしていたら我らが誇るデータ男が登場した。


「二年のみょうじなまえだね」



「え、乾先輩知ってんすか?」

「あれだけ堂々とストーカーまがいなことしてたらね」

そうか、俺ストーカーされてたのか。

「それで、どんな人なんすか?」

気のせいか俺よりビビってる桃先輩が質問をする。

「友達は一人だけいるがあまりつむることはない。常に単独行動。成績はトップだ。ただやることが残念なので周りからは痛い目で見られている。ターゲットにならなければ害はないので特に気にしているものはいない。ちなみに今のターゲットはお前だ、越前」

この世の終わりを告げられた気分だ。

「ターゲットになったらどうなるんすか?」

「相手から何か仕掛けてくることはないが……変態だから使用済みの服やタオル、食べかけ飲みかけの物をいやらしく口にする。写真を隠し撮りし呪いかと思うくらい見つめる。会える時はほら、ああやってこっちを観察する。行きと帰りも後ろからそっと見守ってくる。大丈夫、少したちの悪い守護霊みたいなもんだ」


どこが守護霊だ。


ただの変態でしかないではないか。


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