知らない人に好きだと言われた。
私は何年何組かもわからない彼からの告白を聞きながら、ああ、あの人達もいつもこんな感じで告白を聞いているのだろうかと考えていた。
「みょうじさん」
名前を呼ばれ慌てて意識を戻すと、彼は切なそうな顔をしていた。
「みょうじさんは俺の事知らないやろうし、あの時の事も覚えてへんと思うけど、好きになるには充分な出来事でした。付き合ってくれとは言わへんから友達になってくれませんか?」
彼の言う通りで、あの時の事がいつの何かが全くわからない。
好きだと言う人の友達になるということは、彼に何かしら期待を与えるのではないか。そもそもどちらかが恋愛感情をもっている時点で、友情は成り立つのか。
私はこれらがわかるほど経験もない。
けど一緒に過ごしたいとか、友達になりたいとか、興味がでない辺りもう答えは決まっている。
「気持ちを伝えてくれてありがとう、でも、ごめんなさい。中途半端な事したくないねん」
我ながら冷たいなと思いながら、他に答えはみつからなかった。
「こちらこそ聞いてくれてありがとう」
それだけ言うと静かに去っていく彼の背中は、なんだか小さく感じた。
これが去年の春過ぎの出来事だった。
中学三年生になり、私は校内でも人気のある白石蔵ノ介と忍足謙也と同じクラスになった。
去年の告白の時に考えていたあの人達というのは、まさしく彼らの事だった。
私はさほど興味がないが、イケメンでスポーツに勉強ができると、どこでも話題になる彼らを知らないわけではなかった。
だから思ったのだ。彼らも知らない人から告白を受ける時は、きっとどこか上の空なんだろうな、と。でも断る時は私と違って、優しいに違いない。だって、告白した人から嫌な話なんて聞かない。みんな勇気を出して良かったと口を揃えるのだ。
今まで興味のない有名人だった彼らとクラスメイトになり、隣の席の人になり、今は嫌いな人となった。
特に、白石蔵ノ介。
『聖書』と呼ばれ『無駄』を嫌い『完璧』を目指す男。
この人間味のない胡散臭さも苦手な部分だが、女の子をその気にさせるような接し方をしておきながら、告白されたら断るところが大嫌いだ。人気があるのも、下心持って近づいてきているのも、わかっていながら優しく接するところが大嫌い。
「みょうじさん、隣とペア組んでやって」
休み時間ごとに隣の席に集まってくる女にも一々対応する白石にもイライラして、気がつけばノートをガリガリと塗りつぶしていた。
いつの間にか授業が始まりペアを組むことになっていたらしい。はて、ペア組んで何をするのだろうか。話を聞いていなかった私に苦笑するでもなく白石は優しく言う。
「ペア組んで好きな本を紹介するチラシを作るんやって」
みょうじさんはどんなんが好きなん?
にっこり笑いかけてくるその顔も、私には仮面が貼っているように見える。
「別にほんまに好きな本やなくても、書きやすいの選べば良いんちゃうん。それか白石君の好きな本で良いで。特に好き嫌いないというか、本って興味ないし」
「俺の好きなんで良いのん?ほな猫の本と毒草の本、どっちが良い?」
「え?」
全然ジャンル違いますやん、なにその二択。
「俺どっちも好きやねん、決めてほしいんやけど」
あーこれこれ。
自分の意見も言うけど決定権あげますよ、的なね。
「ほな猫」
「わかった、次の時に本持ってくるわ。今日はどんな感じで作るか軽く決めとこうか」
そして上手にリードしていく。余裕ある感じも気にくわない。
back もくじ next