◇流れ星をつかまえたら

(押し付けた 続きを書いてくださいました)

(※18歳設定、単体でも読めます)






中学を卒業してから3年、今度は高校を卒業する。仲間たちそれぞれが違う道へ進む、そのことが現実味を帯びはじめたころのことだった。

「なまえ、星見に行かへん?」

蔵がそう言ったから、私の胸はざわついている。



まだ私たちが中学生だったころ、オサムちゃんが思い出のひとつにと泊りがけで星空観察へ連れだしてくれたことがあった。本当はみんなお別れが寂しくて泣きたかったのに、涙を流すことは恥ずかしいことのような気がして、少しだけ無理をしてはしゃいでいたことを覚えている。

そんな集団からひとり、少し離れた場所に白石が座って星空を見上げていたので、その隣に座ってぽつりぽつりと話をした。

「ほんま綺麗やな」
「白石も星好きなん?」

当時はまだ彼のことを白石と呼んでいて、白石も私のことを#名字#さんと呼んでいた。部長とマネージャー、全国大会優勝を夢見てともに戦ってきた仲間。高校生になったら私たちはどうなるのだろう、また一緒に夢を見てもいいのだろうか。

「なあみょうじさん」

私の弱い部分を見透かされたような気がして、そのまっすぐな目がこわくなった。息をのんで視線を受けとめると、白石は真剣な表情を崩すことなく口を開く。

「今度はふたりで来ような」

その言葉に、私は未だ返事をできずにいる。



ふとよみがえった甘い記憶に、期待をしてしまいそうだった。昔の話だ、今さら時効だろう。悔やんでも悔やみきれないけれど、あの時自分の気持ちに気付いてきちんと返事ができていたら、私たちの関係は今とは違うものになっていたのだろうか。

「18になったからさ、車の免許とってんけどな」
「そうなんや!すごいやん!」
「ちょうど次の金曜日がさ、なんちゃら流星群見れるらしいねん」

そうなんや、と同じ言葉を繰り返すことしかできない。

高校にあがって、また一緒にテニスで頂点を目指して、名前で呼び合うようになって。いつしか仲間である蔵に恋をしてしまったけれど、もう遅い。

「せやからドライブ行こうや、ふたりで」
「ふ、ふたりで!?」
「ぷっ、なんでどもってるん」

変な#名前#、と言って笑い声をあげる蔵はあの日のことを忘れてしまったんだと思う。自分からなかったことにしたくせに、身勝手な私はそんな蔵の様子を見てつらくなった。





昨夜はよく眠れなくて、今日は少し寝不足だった。学校から帰宅してすぐ、クマを隠すように化粧をし、精一杯のおしゃれをして待ち合わせ場所で蔵を待つ。着いたよ、と連絡してからすぐに立派な車が目の前に停まった。

「うそやん、何そのめっちゃいい車!」
「……親父の車借りてきちゃった!」
「今さらやねんけど、長距離運転大丈夫なん?」
「んー、わからん!」

そう言ってあっけらかんと笑う姿は、逆に不安を取り除いていく。

「でも、なまえ乗せてるんやからめっちゃ気ぃ付ける」

その言葉にどきどきしながら、シートベルトを閉めた。





「綺麗やなー」
「……ほんまに綺麗」

到着したのは夜景が綺麗だと評判の山頂だったけれど、星たちは街のあかりに霞むことなく輝いている。

「お、星流れた!」
「えっ、見逃した!」

早く言ってよ!と無茶を言う私に、蔵は優しく諭す。どんどん大人になっていく蔵を遠く感じて、私だけがあの時のまま立ち止まっているように感じた。

「はは、大丈夫。流星群やからまたすぐ流れるで。……ほら」

とても綺麗だった。

あの時よりも、もっとずっと空気が澄んでいる。冷たい空気が哀しくて、未だ変われない私は無理をしてはしゃいだ。

「わー!見えた!見えたよ蔵!」

肌寒いから人肌が恋しくて、……蔵が恋しくて。腕を掴むくらい、許されるだろうか。こんなずるい私に、どうか気付きませんように。

「次は願いごと3回言う!絶対言うー!」
「俺も」

そう言いながら、蔵はこちらを見ている。
いつかと同じように、真剣な眼差しで。

「好き、好き、なまえが好き」

嬉しいのに固まることしかできなくて、嘘だと言われたら立ち直れないから聞き返せない。ずるい私は続きを聞くのが怖くて、このまま時が止まればいいと思っていた。

「……願い事は、人に言うたら叶わへんねんで」
「だって俺は、」

ふたりともが息をのんだ。
互いの姿だけを瞳に映しあっていた。

「……星じゃなくてなまえに聞いてほしいし、なまえに言いたい」

星と一緒に涙が流れ、私は願うことすら忘れて蔵だけを見つめている。

「私は、」

自分の声が震えているのがわかった。大丈夫と頭のなかで3回唱えて、止まっていた時を自ら動かす。

「……私も好き、です」

ほっとして吐いた息は、やがて笑い声に変わっていった。



再びあの時と同じように、隣あわせで座りながら星を見上げている。もう帰らなければいけないけれど、あと少しだけ、を何度も繰り返していた。

「あ、また流れたね!」

夜空に手を伸ばして、流れる星をつかまえる。それを不思議そうに、けれど優しい眼差しで見ていた蔵が、何してるんと言って微笑んでいた。

「記念!」

この幸せが消えませんようにと、つかんだ星をひとつ、そっとポケットのなかにしまいこんだ。