私の学校はテニスで有名らしい。らしい、というのは私にはそんなの関係ないからだ。
イケメンにもテニスにも興味がない。ああやって、キャーキャー騒ぐのはリアルな人を見た時じゃなくて、漫画を読んだ時とアニメを見ている時だけ。現実ってドロドロしているから二次元が大好き。あの子達みたいに目をつけられ、喧嘩をうられるのもめんどくさい。友達と学校生活をそれなりに過ごせたら良いのだ。
なのに、今。
目の前のこいつはなんと言った?
「みょうじさん、聞こえなかったかな?」
にっこり笑ってはいるが、『聞いてなかったのか返事さっさとしろよもちろんイエスしか聞かねえぞ』、とオーラが語っている。むしろ脳内に直接語り掛けてきている勢いがある。聞こえるはずがない心の声が聞こえてしまう。怯えながらどういうことか問うと、なんでわからないのなんて顔をしながら答えてくれた。
目の前の彼が言うにはこうだ。
これから大切な大会がある。それに向けていつも以上に練習がしたい。しかしいつも通り雑用を自分達でやっていたら練習時間が短くなってしまう。つまるところマネージャーがほしい。やりたいと言う人は山ほどいるだろうが、軽い気持ちで来られるとよけいに仕事が増えそうで懸念している。なのでメンバーに興味はないが、面倒見が良く仕事をきちんとこなしてくれる人が良い。
「ちゃんとしたマネージャーが欲しいのはわかったよ。でもなんで私なの?」
「僕達に興味がない、これが一番だね。それと同じクラスだから君がどんな人かはわかってるつもりだよ」
「でも大会前で大事な時なんでしょ?私みたいな美人がマネージャーなんかやったら、メンバーが集中できないし、ギャラリーも黙ってないんじゃないかな」
「あっはっは、本当に君っておもしろいよね」
「うふふふ、そこ笑って流すところじゃなくてよ」
「で、どうするんだい?これにサインして、顧問の先生に提出しといてね。今日の放課後からよろしく、詳しい話はその時にね」
ピラリと一枚の紙を机に置いて教室を出ていく。
どうするもなにもサインして提出って、拒否権ないよね日本語おかしいよね。でもなんだか切羽詰まっているというか、雰囲気が怖くて突っ込み損ねた。しかもさっきさらっと流されたけどファンからの妬みイジメがあったら、と思うと怖い。私、こう見えて平和主義のビビリなんだけどな……。
「なまえ、幸村君ってあんなに怖かったっけ?」
隣にいたちよもどちらかといえば彼らに興味はないが、噂は好きでやたら詳しい。噂話を話したあと必ず言う口癖が、確かにかっこいいしイケボだけどアニメには敵わない、だ。そんなちよだが彼、幸村君の恐ろしさは知らなかったみたいだ。
一気に色んなことが頭に巡りフリーズしかけていたが、そろそろ叫んでも良いだろうか。
私やるなんて言ってなーーーい!!!
嫌だよ、あんなやつらの面倒見るの。かっこいいかっこいいって言われて良い気になっててさ。自分のことも自分でできないならテニスやめちまえよ!私になんのメリットがあるんだ!デメリットしかねえ!!!放課後はちよと二次元についておしゃべりしたり、寄り道したりするのが楽しくて学校来てるんだよ!なんでお前らに時間をさかなきゃならないんだ!
ちよに激しく愚痴ると「うん、そうだよね」と相槌をうってくれる、大好きだこのやろう。
止まることなく感情的になっていると、先程幸村君が出ていった扉から柳と名乗る人が来た。
「先程のマネージャーの件を断るとみょうじがこの学校にいられなくなる可能性100%だ」
と恐ろしい一言を残しすぐに去っていった。
「ちよ、今のお告げは一体何???」
「彼は柳君。あらゆるデータを収拾していて、彼の出す確立はほぼ間違いないよ……」
「私、学校に来れなくなるようなことなんかしたっけ?」
「心当たりないの?私はなんとなくあるよ」
「え、なに?」
「同人誌描いてることとか」
「あ」
「サイト持ってるしイベント頒布もしてるし」
「いや、え、なんでバレたの????」
「相手、柳君だもん」
「こええよ、なんだよ柳君ってスパイか探偵かやってんのかよ」
終わった……終わった私の残り少ないうふふ学校生活!!!!!
「なまえ、待てる日は待っとくから一緒に帰ろうね」
「まってちよ!じゃあさじゃあさ、一緒にマネージャーやろうよ!?ね!?一人でやったこともないことするなんて無理だよね!そうだよ仲間がいるよ!」
「私目つけられたくないし、誘われてないしいいよ」
「お前もかブルータスよ!!!」
きっぱりさっぱり断りやがって!!!私だって目つけられたくないし誘われたくなかったよ!!!しかしこれってやらなくてもも入部しても、私の学校生活終わったも同然じゃあないか。
とりあえず、何か嫌な噂を流されて中退なんてことになっても嫌だし、力なくサインしてみた月曜日。
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