1.出会い

「おはようみょうじさん」

「お、おはよう……」

朝、教室に入ると席の近い子が挨拶をしてくれたので小声で答える。彼女に聞こえたか聞こえていないかわからないが、すでに一緒にいる子と会話を再開していた。

小さくはあ、とため息をつき席に座る。
引っ込み思案で誰かと会話するのが苦手。挨拶の一言もままならない。そんな自分が大嫌いで変わりたいと何度も思った。今日こそ自分から挨拶をしよう、そう意気込んでもまた同じ、声をかけられるのを待つくせに返す言葉は小さい。

隣の席の財前君はいつもクールで誰かと群れるわけでもなく、しかし孤独でもなくかっこい。私は少しでも一人でいるのが恥ずかしいと感じてしまうから。

そんな事を考えていると「ひーかーるーー!!!」と大きな声を出し勢いよくガラッと扉が開かれた。クラスメイト全員そちらに釘付けだ。

しかし当の本人は淡々と「先輩やろぼけえ」と返していた。

「ワイ、財布忘れてもーて朝御飯買われへんねん!五百円貸してくれへん?!もうお腹ぺこぺこで死んでまいそーや!!!」

それだけ元気があれば大丈夫だろうと誰もが思ったに違いない。

「あー悪いけど昼飯分しか持ってきてへんわ」
「なんやてえ!な、なあ姉ちゃんは持ってへん?!」

隣にいた私にぐわっと話をふられ私は動揺する。

「え、わ、私?あの、えっと……」

あまりのキョドり具合に財前君が助けてくれた。

「初対面でいきなり金貸せはないで金ちゃん、部長の所にでも行き」
「白石の所にまで行ってたら売店行く時間なくなるやん!」

「いや、この時間がもはや無駄や」

そんなやり取りに、部活終わりに食べようと持ってきていたパンがあったことを思い出す。しかし今日は部活休みだったのを同時に思い出した。勇気を振り絞ってパンをおずおずと差し出す。

「あ、あの、これ良かったらどうぞ……」
「良いんか?!姉ちゃん優しいなあ!おおきにおおきに!!!」
「みょうじさん、こいつ甘やかせんとってや」

それを見た金ちゃんという少年はとても喜んで私の両手をぶんぶんと上下にふった。財前君はなんて不満げだったが、お腹すいてたら授業もはいってこないもんね。

金ちゃんという少年が去ったあと、私の心臓はばくばくとしていた。初対面で気軽に声をかけられる人懐っこさと感情豊な表情に心惹き付けられた。

私も、あんな風になれたら……。

「ざ、財前君……さっきの子、誰なんかな?」
「ああ、うちのテニス部の後輩でゴンタクレや」

それ全然説明になってないよ、一年生だってことしかわからないよ。そんな事言えるわけもなく「そうなんや」と一言だけ返した。

その日からちょこちょことテニス部を覗くようになった。ゴンタクレと言われた金ちゃんは天真爛漫で自由で純粋で、きっとテニス部のムードメーカーなんだろうな。見ているだけで元気がでる。ああいう子と友達になれたら、私も変われるのかな。そう思うようになっていった。



「みょうじさん最近ようテニス部見に来てるな」

唐突にそう言われビクッとした。

「え、あ、うん、邪魔やったかな……ごめんね」
「別にそんな事言うてへん、珍しいな思っただけや」
「いつも、みんな楽しそうやな、と思って」
「なんやみょうじさんは楽しくないんか」
「私、人と関わるん、苦手やから……」
「せやろな」

その一言にやっぱり周りからもそう思われてるんだ、と改めて知ってショックを受ける。

「ま、金ちゃんみたいに煩いのもかなわんけどな」
「私は、金ちゃんが羨ましいで!」

つい大きな声を出してしまい財前君が少し驚いた顔をする。

「金ちゃん、誰にでも笑顔で声かけれて、私と正反対で、良いなって、思っとるよ」
「今のその顔に効果音つけるとしたら、へら〜やな」

彼の話をしているとその元気な様子が思い出され自然と口元が緩む。それを見た財前君が言った意味がよくわからなかった。きょとんとしていると続けてこう言われた。

「自分も思ってるより話せてるし、笑えてるでって話」

それだけ言うと携帯と向き合い始めたので、話はこれで終了だということを知る。

もし財前君の言うように私が話せてて笑えているのだとしたら、それは金ちゃんのおかげなんだと思う。


明日は頑張って、彼に声をかけてみよう。
きっと笑顔で元気いっぱいに「姉ちゃんおはよう!」と返してくれるだろう。



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