あれから頑張って一度だけ金ちゃんに「おはよう」と声をかけ「おはよう!」と返してくれたことがある。みんなにとってどうって事のない日常の一部だろうが、私にとってはすごく大事な出来事で嬉しくて少しだけ自分が誇らしかった。
その小さな変化に誰も気がつくわけがない中、一人だけ気がついた人がいる。
「機嫌ええな」
隣の席の財前君である。
「え?」
「口元上がっとる」
慌てて口元を押さえるがその手をはがされる。
「な、は、恥ずかしいねんけど」
「なんでやねん、そのままでええやん」
「やって、笑ってたら、おかしいやん」
「そうか?可愛いと思ったけど」
その一言に余計に恥ずかしくなり、顔は真っ赤で口はぎゅっと閉じてしまった。ぷ、と小さく笑う音と共にニヤリとこちらを見てくる彼。
「も、からかわんとって、手も、はなして」
恥ずかしすぎて泣きそうだ。半泣きになると素直に手をはなしてくれた。
「放課後」
さっきとは違っていつものように携帯をいじりながらこっちを見ることなく話してくる。
「放課後待っといてや」
これは、私に話しているのであっているのだろうか。戸惑っているとむすっと睨まれた。
「なんか予定あるん?」
「復習、して帰るよ」
「ほな部活終わるまで待っとけや」
「は、はい」
もはや命令口調である。きっと私に拒否権はないんだと思う。
「金ちゃんだけにもっていかれたくないねん」
ぼそっと放った言葉に私が理解できるわけがなかった。
放課後、復習は思ったよりもはやく終わってテニス部の出入り口に近い場所で待つ。中から人は出てくるがそこには財前の姿はなく、一番最後に出てきたグループの中にいた。向こうもすぐに気がついて「みょうじさん、ずっとそこおったん?」とこちらへ来てくれた。
「ううん、今来たとこやで」
「ならええねん、ほな行こか」
すっと片手をとられ歩き出す。
「え?え?財前君、どこ、行くん?」
「なんか甘いもんでも食って帰ろ」
疲れたし糖分補給したいわ
後ろから「財前ー!明日覚えとれよー!」「お前いつの間に!」「パンの姉ちゃんまたなー!」などと聞こえてきていたのだが、彼はそれに一つも答えることはなかった。
ついたのは甘味処で財前君は善財、私は和パフェを頼んだ。実はあまりあんこが得意ではない。比較的あんこが少なさそうなパフェにしたのだが、ここのあんこはとても美味で私でも美味しく食べられた。そのことに感動した私は一口分すくって彼へと向ける。
「財前君!ここ美味しいね!パフェすごい美味しい!」
一瞬止まったがパクリと食べ「ん、うまい」そう言うとまた善財に口をつける。
パフェを食べ終わり満足した私は「美味しい店、教えてくれてありがとう!」と彼を見る。
そこには片手で口元を隠すように机に肘をつき横へ顔をむけていた。その顔は耳まで赤くなっており、どうしたのかと考えてみたもののわからず「ほな行こか」と席を立った彼を追いかけるのだった。
「なんか、ごめんね?でも、ありがとう、ごちそうさまでした」
あろうことにも彼がご馳走をしてくれて更に家まで送ってくれているところだ。ずっと黙っている彼に何を話したら良いのかわからず、話題を頭の中で考えていたのだが、彼も黙っているということは無理して話さなくても良いのかもしれないと、肩の力をぬく。
「みょうじさん」
急に立ち止まるので私も止まる。
「どないしたん?」
「あれ、誰にでもやるん?」
どのことなのかわからず首を傾げる。
「パフェ、くれたやん」
それでも何を言いたいのかがわからなくて困ってしまう。
「はあ、もうええわ」
そんな私にそれだけ言うとまた私の手をとり歩き出した。家の前まで来るとなんとなく家に入るタイミングがわからず、なんとなく沈黙が流れる。その沈黙をやぶったのはやっぱりまた彼だった。
「みょうじさんが金ちゃんみたいな正反対な性格に憧れるんもわからんでもないけどな」
バレバレのそれを面とむかって言われるのが恥ずかしくて、少しうつむき気味になってしまう。そんな私に彼は頬を両手ではさみ、ゆっくり上げて目線を合わせる。
「今のままで充分可愛いから無理してかわろうとせんで良い」
そんな事を言ってくれる人がいるだなんて思うわけがなかったので心底驚きを隠せない。
「このまんままのみょうじさんが好きや」
私は私のこと、こんなに嫌いなのに。
それを好きだと言ってくれる人がいる。
その一言がどれだけ嬉しかったか。
今までの自分を救ってくれたか。
伝えたところで「しょうもな」と返されそうだけど私には地球がひっくり返るくらいの出来事で。自分を見てくれている存在に心救われたのは間違いなくて。私も彼にとってそんな存在でありたいと思った。
三角関係ver. もくじ