ずっと好きな人がいた。
聖書と呼ばれるちょっと変わったイケメン、白石蔵ノ介である。キッカケは単純でまず見た目にひかれた。その次は優しさ、そして個性たっぷりのおもしろさ。全てを兼ね備えている人だと思った。話せるならなんでもいい、とにかく関わりたい。
そう思っていたのに。
こんなことになるなら、関わりたくなかった。
「みょうじさん、俺のことわかる?」
「わかるもなにも同じクラスやん、白石君」
いきなり声をかけられて驚いたものの普通に返すことができたと思う。
「いきなりで悪いんやけど相談したいことあって、今日の放課後あいてへん?」
「ええけど……部活は?」
「今日はお笑い講座やし、たまにはええやろ」
「そっか、ほなまた放課後ね」
今までちゃんと話したこともないのに相談したいなんて、なんだろう。私は嬉しさよりも嫌な汗と動悸で少し気持ち悪くなった。気になって気になって授業は頭に入ってこなかった。はよ放課後ならんかな、そればかりが頭の中にあった。
ちよがすぐに異変に気が付いてくれた。
「なまえ気分悪そうやで大丈夫?」
「ん、ちょっと考え事しとった」
「無理せんと保健室行きや?」
「ありがとう」
ちよは私と違って、明るく誰とでも仲良くなれる可愛い女の子。私の親友をやっているのが不思議なくらいだ。もちろんそのあっけらかんとした性格から男女問わず好かれ、あの白石蔵ノ介と忍足謙也ともそこそこ仲が良い。ちよにそれが羨ましいといえば話の輪に入れるように考慮してくれるだろう。でも私はそれが嫌で本当のことが言えずにいた。好きな人を聞かれても、毎回いないよと答えていた。自分だけの秘密だ。
目で追うこともしないし態度をかえることもない、積極的に関わろうともしていないので誰にもバレていない自信がある。でも、相談ということは二人になるだろうし、そうなるとバレない自信はなかった。それも取り越し苦労の思い込みであることを後に知ることになるのだが。
放課後、人が少なくなってから迎えに来てくれた。
「お待たせ帰ろうか」
「学校で話すんやないの?」
「できれば知ってる人がおらんとこがええねん」
それならどこで話すんだろうと考えていると「少し離れたところに隠れ家みたいな喫茶店があるんやけど、どう?」と聞かれたので特に予定のない私は「ええよ」とついていくことにした。
やってきたのはなるほど隠れ家である。
こんな場所に喫茶店があることを知っている人は、一体どれくらいいるのだろうか。
私はアイスティーを頼むと白石君も同じものをと頼んだ。相談のってもらうお礼にケーキを奢ってくれると言ってくれたが、それは断った。
「それで、相談ってなんなん?」
「あー、あんな俺好きな人おんねやんか」
もうここでわかった。
誰でもピンとくるだろう。あまり話したことのない人から恋愛の相談ということは、私が仲良しの子、つまりちよのことだ。それでも気がつかないフリをするのは優しさではなく自分を保つためだ。
「そうなんや、それで?」
「協力してほしいねん」
「協力って言われても……」
するまでもなく仲良く話しているし、白石君なら自力でどうにかなるのにこれ以上どうしたいんだ。
「会話は、自分で頑張るから、服買いに行ったりみんなで遊びに行ったり、そういうこと、頼めへんかな?」
ちよのタイプになりたい、休みの日も会いたいということか。私ははっきり断りたかった、でもそんな捨て犬みたいな目をするから、手をさしのべた。
それから連絡先を交換して、どうでもいい話や流行のスポットや食べ物に服やアクセサリーなど、やりとりを毎日するようになった。それはまるで友達以上恋人未満のようで、時にうっかり目的を忘れ喜び楽しむ自分がいた。
それだけじゃない。私とちよと忍足君と、それから白石君、みんなで何回も出掛けた。遊びに行くならこのメンバーってくらいに。
でも忍足君ってムードメーカーで、それがちよと合うらしく二人ではしゃいでることが多かった。こういう時うまいことフォローできないし、白石君がどんな顔をしているのかなんて見ることはできなかった。
私は強引であるとはいえ手伝うことになったのに、協力らしい協力なんてできなかった。したくもなかった、だって、それでも私は白石君が好きだから。
「ごめん、もう協力できない。今までもできてないし、白石君なら私がいなくてもうまくいくから」
だから、それだけを伝えて白石君が何かを言っていたが聞かずにその場を離れた。それ以上他の人を想っている言葉なんて聞きたくない。
それ以来あのメンバーで遊ぶことはもちろん、白石君からの連絡もなくなった。ちよは私と白石君が喧嘩したんだと心配していた。それ以降も白石君とちよが付き合う噂は聞かなかった。
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