「有馬ぁ、俺ぇー開けてー」

それから数週間後の朝五時、何故かめちゃくちゃ早く目覚めた古田は有馬の家の前に立っていた。
近所迷惑もいいところな大声でインターホンを押しまくれば、

「…あぁもう…おはようございますって…」

眠そうに眼をこすりながら有馬がドアを開けてきた。

「おはよ有馬」
「今何時だと思ってるんですか…」
「えっと…五時?」
「五時って…まだあと一時間は寝れる…」
「まぁまぁまぁまぁ…」

はぁ、とため息をつく有馬に古田はあまり気にした様子もなくニコニコと笑ってタッパを見せた。

「朝ご飯、作ったから食べよう」
「朝ご飯…?」
「うん、前作ってくれたじゃん?お返し」

さぁさぁと、寝起きの有馬を押し込み無理やり有馬の家に入り込むと背中を押して有馬をリビングまで連れて行った。

「…なに作ってきたんですか…」
「ん?聞く?」

楽しそうに笑う古田は有馬をイスに座らせて勝手に食器棚を漁り始めた。

「じゃん。スクランブルエッグと鮭」
「…いやそれタッパに入れてくるって…。家隣だし…」

古田がタッパを開けると中には言葉のとおりスクランブルエッグと鮭。
ご飯のようにスクランブルエッグが鮭の下に敷かれているそれに有馬はため息をついた。

「スクランブルエッグと鮭…お弁当風に」
「いいですよそんな名前」

有馬はもう一度ため息をついて、古田が持ってきたお箸を手に取った。

「じゃあ、いただきます」
「結局食べるんじゃん」
「…じゃあもういらないです」
「嘘だって!!ごめん食べてくださいって!!」

必死に謝れば有馬は小さく笑っていただきますと再び手を合わせた。
スクランブルエッグが有馬の口に吸い込まれていくのを古田はじっと見つめた。

「…悪いことは言わないんでとりあえずこれ食べてください」

たっぷりと時間を使って味を吟味した後、有馬はすっとスクランブルエッグをすくって古田に向けた。

「えっ、えっえっ…何々…怖い怖い怖い怖い!!」
「いいからいいから」

おそるおそる有馬に向けて口を開ければ、有馬は何も言わずに箸を口に運んだ。

「…無味…!!」
「ですよね。俺の舌が馬鹿になったのかと思いました」
「これはあまりにも無味…」
「味付けしなかったんですか?」
「した…いや、してない…」

今日何度目かの有馬のため息。
そのまま何も言わず立ち上がった有馬。

「あっ…えっとぉ…やっぱりいらない…?よね?」

失敗したそれの蓋を急いで閉じる。

「あー置いといてください!!それも使うから」
「へ…?使う…?」
「リメイク、ですよ」

キッチンに立った有馬がくるりと振り返ってニッと笑った。


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「うまかったぁ…」
「だったらよかったです」

いつもより少し早目の出社。
古田はぐっと腕を伸ばすとおなかをさすった。
自分が持って行ったはずの朝ご飯は見事に有馬がリメイクしてくれた。

「お前ほんとに料理上手よな〜」
「まぁ昔から作ってたんでね」
「俺結婚するなら有馬みたいな人がいいなぁ」

別に特に意味の無いただの言葉。
にもかかわらず、不意に有馬が立ち止まったことで古田も立ち止まった。

「有馬…?」
「あ、え、すみません。行きましょ」

体調でも悪くなったのかと顔を覗くと有馬は笑った。

「…っ」

その笑顔にズキリと心が痛む。

「何でそんなに悲しそうに笑ってんだよ」

気がつけばそんな言葉をかけていて、古田は自分で驚いた。

「あ、えっと…そ、そんな気がしたような…してないような…した…ような?」

これじゃまるで少女漫画じゃないか、と勝手に1人恥ずかしくなり慌てて弁解すればさらに少女漫画チックになってしまってどんどん焦る。

「…ふふっ、大丈夫ですよ。ほんとなんでもないですから」

と、それに有馬が小さく吹き出して笑った。
その顔にはもう先程までの悲しそうな表情はなくて、古田も笑顔を見せた。



「そんなことよりも。そういえば、安達さん、どうしたんですか?最近すごく仲がいいからやっぱり付き合ってるんですか?」
「へ?安達?」
「はい」
「全然付き合ってないよ。断った」

断ったなんて少し罪悪感のある言葉を有馬に向けると今度は驚いた表情で立ち止まった。

「有馬?今日どうした?」
「あ、いや…てっきり付き合ってると…」
「付き合ってたら今頃有馬と会社なんか行ってないっつーの」

今日はよく表情が変わるなぁなんて呑気に考えながら有馬の肩にグーパンチをお見舞すれば、そりゃそうか、と有馬が小さく呟いた。

「色々考えたんだけど…俺、安達のことはどうもそういう感じに思えないって言うか…いや、好きなんだよ!?好きだけど…そういうのじゃないっていうか…」
「そんな贅沢なわがまま、会社の他の人に怒られますよ」
「だよなぁ…だから誰にも言えねーんだよなぁ」

有馬の言葉に古田はため息をついた。