「…っ」

次の日、嫌な夢を見て飛び起きた有馬はそれが夢だと分かって長く深いため息をついた。

“安達が古田に告白した。”という小松の言葉には、自分も少なからず動揺した。嘘だったらいいと思った。何か聞き間違いしただけだと。

「…夢か…」

でも、その場で確認する勇気もなく、目の前の小松を放っては置けないなんて、言い訳をして古田から逃げた。

「はぁ…」

今日も会社に行けば必然的に古田に会う。
嬉しいような嬉しくないような。

「…5時半…」

目覚ましを見れば、起きるにはまだ早い時間。でももう眠れる気がしなくて有馬は布団から出た。

埃一つない部屋。
冷蔵庫を覗けば思っていたより沢山食材が入っていた。昨日使う予定で2日前に買った食材が、昨日急遽小松の居酒屋へ行くことになったためそのまま入っていたのだ。

「…あんまりいっぱい作ってもなぁ…」

その中で朝から作っても面倒くさくないもので少ない量作れるものを頭の中で考える。

「…あ、そうだ」

と、そこで思い出した。
“お隣さん”がいる。毎日毎日朝からバタバタとうるさいお隣さんが。
そう思った瞬間ニヤけた顔を、誰もいないのに誰かに見られてないかとぐるりと部屋を見渡す。
良かった。見られてない。…って当然か。

二人分なら話は変わってくる。
一度締めた冷蔵庫を再びあけて有馬は食材を吟味しなおした。





じゅー、と。部屋に軽快な音が鳴り響くと同時に一気にいい匂いが部屋に立ち込める。
有馬はこの瞬間が好きだった。

「あとは…」

グリルに入れた魚の焼け具合を見つつ味噌を棚から取り出す。
目玉焼きのフライパンに水を一気に流し込んで蓋をして蒸し焼きに、それを見てから味噌を隣の鍋に溶かす。
手際よく料理を進めていきながら隣の部屋に聞き耳を立てる。もうそろそろしたら一回目の目覚ましが鳴るはずだ。それも大音量で。それで起きないから毎回うるさいぐらいバタバタとしているのだろうが。

と、そこまで考えてからふと手を止めた。

「昨日古田さん…帰ってきてた…?」

昨日はあの後古田が帰る前にお会計を済ませて帰ってきた。
が、その後、古田が帰ってくる音は聞いていないような気がする。

「朝まで…」

これはもしかして朝までコースでは…と口に出しかけて首を振る。

「古田さんが…そんな成り行きでそんなことできるわけ…」

言い聞かせるように独り言をつぶやくが、一回気になるとなかなか頭から離れない。

「…はぁ…」

二人分作ってしまったし、古田がいないと余るのは目に見えているし…なんて心の中で言い訳をして、有馬は全部の火をいったん止めると家を出た。



ピンポーンとインターホンを鳴らすが一向に出てくる様子のない古田。
もう一度だけ、と何度目か分からないインターホンを押すがやはり出てこない。
心がざわざわとざわめいて、有馬はほぼ反射的に古田の家のドアを回して―――。

「…えっ…?」

―――ドアが開いてしまったことに固まった。

「えっ…えっ…?」

泥棒…?と、頭に一番に浮かんだのはそんなこと。
外に立てかけていた傘を片手に有馬は一度だけ深呼吸をしてもう一度ドアを回した。


:
:


「え…?ふ、古田…さん…?」

ドアを開けて一番に有馬の目に入ったのはスーツのまま廊下で倒れた古田。

「古田さん…?古田さん!!」

次の瞬間には泥棒なんでワードは頭から消え去っていた。
傘を投げ捨てサンダルを脱ぎ捨て古田に駆け寄る。

「古田さん?大丈夫ですか?」

肩を揺さぶってみるが返事はない。

「息は…してる」

この状況はどういうことなんだ。

「んん…」
「っ古田さん!!大丈夫ですか!?」

急に唸り起き上がろうとする古田を助け、とりあえず壁にもたれさせる。

「古田さん?何があったんですか?」
「んん…頭が痛い…」
「頭…?どうしたんですか?」
「のみすぎた…」
「…は?」
「のみすぎてあたまいたい…」

すうっと、有馬の周りの気温が下がっていっていることに、頭が痛いと唸る古田は気が付いてない。

「つまり…つまりは…ただ飲みすぎて酔って帰ってきて…?で?そのままここで寝たと…?」
「ん…そう…。ってか…あれ…?ありま…?」
「ほう…」

やっと目が覚め状況が飲み込め始めた古田はそこでなぜかこの場にいる有馬の存在に気が付いた。が、もう遅い。

「わざわざ起こしに来てあげたんですから…もう一回寝たら許さないよ?」
「…はい」

焦点があったころに恐ろしい笑顔を張り付けた有馬が目の前にいた。
なぜここに有馬が居るのかはわからないがとにかく起きなければ殺されると本能的に悟った古田は有馬の前で正座した。

「とりあえず、お風呂入ってないですね?」
「はい…」
「じゃあまずさっさとシャワー浴びてこい」

笑顔を崩さない有馬。が、有無の言わせない笑顔に、何故ここにいるかとかなぜ怒っているかとか聞きたいことはたくさんあったが古田はただひたすら有馬のいうことを聞いた。

「はい…」
「シャワーしたら俺の部屋来てください。ごはんもう作ってるんで」
「はい…」